【KAC20246】『トリ会えず』達のラストソング

天音伽

『トリ会えず』達のラストソング

「それでは今日のラストバンド!セブンシーズ!!」

 小さなライブハウスに歓声が上がる。

 インディーズでは人気のロックバンド、セブンシーズ。メジャーデビューが決まり、今晩がインディーズとしてのラストライブ。

 セブンシーズ、というバンド名の由来は、『七つの海を制覇するくらい大きなバンドになる』という願いが込められたものだ。メンバーのヨシが命名した。

 だが。

「……あれ、ヨシは?」

 そのヨシは不在。ステージに立ったメンバーは三人。ボーカルのケントがマイクを持ち、皆に叫ぶ。

「すまん!今日ヨシは休みだ!だが俺達三人でヨシの分までお前らに想いを伝える!付いてこれるか!!」

 歓声で満ちるライブハウス。ボルテージは最高潮。そしてセブンシーズが繰り出すのは、

「聞いてくれ。『ラストソング』」

 

 渾身の『バラード』ナンバーだった。

 

 ファンは理解する。

 それはこのライブハウスでいつも前座ばかり任されていて、小さなフェスでも出番は前の方。

「出番が早すぎるからすぐ控室追い出されちゃって、『トリ』の大物ゲスト?いつも会えないんだよね」

「『トリ会えず』って奴だよ、はは」

 いつもそんな面白くも無いダジャレを言うのはいつも、今日休みのヨシだった。

 そんな彼らが今日、ライブフェスの『トリ』でインディーズとしてのラストライブ、云わば二重の『トリ』を飾る事になる。

 歌い終わったケントの目に、涙が溜まっているのを、ライブハウスのファン達は見た。

 ケントだけでは無い。ギターのヒバリ、ドラムのテツ。その三人が、うっすら涙を溜めながらステージを見つめている。

「今日ここまで連れてきてくれて、本当にありがとう。俺達の『トリ』、見届けてくれたか!?」

 再び湧き上がる歓声は今日一番ライブハウスを揺らし、満足気に頷いたメンバーは、

「それじゃあ、また会おう!最高の親友!!!!」

 それは今日一つの『トリ』を迎えるセブンシーズなりの、惜別の挨拶だった。



「それでは今日のラストバンド!セブンシーズ!!」

 小さなライブハウスに歓声が上がる。

 インディーズでは人気のロックバンド、セブンシーズ。メジャーデビューが決まり、今晩がインディーズとしてのラストライブ。

 だが。

「……あれ、ヨシは?」

 その反応は予想通りだった。

 セブンシーズはボーカルのケント、ギターのヒバリ、ドラムのテツ、そしてベースのヨシトの四人組バンド。

 高校の時から一人も欠けずに立ち続けてきたステージに今、三人だけが立っている。

 ケントがマイクを持ち、皆に叫ぶ。

「すまん!今日ヨシは休みだ!だが俺達三人でヨシの分までお前らに想いを伝える!付いてこれるか!!」

 歓声で満ちるライブハウス。ボルテージは最高潮。そしてセブンシーズが繰り出すのは、

「聞いてくれ。『ラストソング』」

 

 渾身の『バラード』ナンバーだった。

 

「嘘だろヨシト!」

「嘘じゃない。今日ライブに出る」

 病室を出たケントは、他の二人にそう言った。

「ライブハウスでいつも前座ばかり任されていて、小さなフェスでも出番は前の方。そんな時代からずっとライブやってきた。今日だけ休む、そんな訳にはいかない」

「お前!!」

 ヒバリがケントの首元を胸倉をつかみ上げる。

「ヨシは今日がヤマって言ってんだぞ!今日は休んで、ヨシの事を見守ってやるのが友達じゃねぇのかよ!!!」

「やめろ、ヒバリ」

 テツが仲裁に入るが、そのテツの顔も納得できない目をしている。

「んな事はわかってるさ」

「あ!?」

「んな事は分かってるってんだろ!!!!!」

 ケントは思わずそんな二人に叫んでいた。

「ヨシもここまで一つも欠けずに一緒に走ってきた仲間だ!俺も傍にいてやりたい!でもセブンシーズの名前の由来、忘れたのかよ!」

 セブンシーズ、というバンド名の由来は、『七つの海を制覇するくらい大きなバンドになる』という願いが込められたものだ。

 命名したのは、ヨシ。

「今日歌わなきゃヨシの願いが嘘になる。俺達はいつでも、歌わなきゃいけないんだ」

 大粒の涙が床に零れる。

 それから彼ら三人、何も言わずにただただ泣きじゃくるだけだった。


「今日ここまで連れてきてくれて、本当にありがとう。俺達の『トリ』、見届けてくれたか!?」


「出番が早すぎるからすぐ控室追い出されちゃって、『トリ』の大物ゲスト?いつも会えないんだよね」

「『トリ会えず』って奴だよ、はは」

 そんなつまらないダジャレをふと、ケントは思い出す。

「今日は俺達が『トリ』だって言うのに、またお前は『トリ会えず』かよ……」

 

 再び湧き上がる歓声は今日一番ライブハウスを揺らし、満足気に頷いたメンバーは、

「それじゃあ、また会おう!最高の親友!!!!」

 それは今日一つの『トリ』を迎えるセブンシーズなりの、親友への惜別の挨拶だった。



「いやあ、あの日は俺も間違いなく人生の『トリ』だったな……」

 山場を乗り越え無事に生還したヨシが復帰するのは、それから半年後。

 復帰後最初のライブで、ボヤいたヨシにケントは言った。


「お前の『トリ』に『トリ会えず』で良かったよ、俺は」

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【KAC20246】『トリ会えず』達のラストソング 天音伽 @togi0215

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