第8話 観測手と狙撃手と魔王
【前回までの『女神さま』(仮題)のあらすじ】
女神の名前はラム・ウ
胡乱な女神ラムは青年エテアを英雄に仕立てて2年以内に伝説を築き、女神の地位を確保しようとしていた。
ラムはエテアと話しているうちに、エテアに協力してもらって自力で伝説を作ることになる。
ラムはエテアの前世の世界の情報を頻繁に得ているようである。
エテアはラムから爆発力のチートを授かる。
まだ場所はエテアを転生させる前の世界の狭間の亜空間である。
「主人公はエテアなんですかラムなんですか」
コロニスが俺に疑問を投げる。
「どっちでもない」
「どういうことですか」
「いや、話し合いが続いたらどっちでもないってことになって」
「じゃあ主人公はいつ登場するんですか」
「えーと。あ。次回登場するはず。たしか」
▼
「うちのチートスキルはひとつ、エテアにもあとひとつ授けていいそうです」
ラム・ウヰこと女神。
「上の神様が直接俺に色々説明してくれたらなぁ」
「上層の神は下界の人間と関わると
「けど爆発スキルだけだとさすがに破壊力のみだからあとひとつあるのはありがたいなぁ」
「ラムさんのスキルは?」
「電撃はまずいですね」
「そこから離れて」
「そうなのです。攻撃力にチート全振りするとこっちが攻撃受けたときにどうしようもありません」
「それはそうです。俺は防御のために敵の攻撃が当たる前にそれを相殺する威力の破壊力を……使える。割と応用できるんや」
「暗殺とか狙撃とかされたら対応できませんね」
「ラムさん、ちゃんともの考えてる」
「じゃあうちは索敵とか探知とかそのへんにチートを割り振りましょう」
「女神名乗らなくなると賢くなる?」
「うちももあんまり痛い思いはしたくないので真面目に考えてます。あと、鑑定と検索能力も含めて『賢者』スキルでいいんじゃないですか?」
「あなたが
「動画再生スキルを使ったあとの賢者ではありません。あれはむしろ思考能力が落ちてる可能性があります」
「俺もその賢者は実用性ほぼないと思ってます。あと、ラムさんはひょっとして他人事だからこれまで不真面目だった?」
「自分事になればリアルに考えられるだけなのです。うちは人でなしではありませんが。他人はしょせん他人なのです」
「じゃあこれからどうやって伝説つくりますか。ラムさん」
「さっきからさん付けられてますけど、うちのほうが年上みたいな気がするので気さくにラム様と呼んでください」
「気さくじゃない」
「ラムと呼んでいいっちゃ」
「だからその語尾はやめて。ラム」
「ラムと俺との能力の連携とかわからんのですが」
「エテアが攻撃でうちが索敵で問題ないのです。うちのこと素敵って言ってくれてもいいです」
「雑」
「エテアが
「それでなんとかなりますか」
「防御力は今のところエテアの爆発相殺しかないのが弱いかもしれませんね」
「俺の破壊力は必要以上らしいのはわかりましたけど、運動能力と防御力回避力とかそのあたりはどうなってますか?」
「ステータスなんてありません。あんなのゲームのシステムなのです」
「中途半端にリアル指向」
「チュートリアル戦闘しますか」
「それこそゲームのシステムやろ」
「中途にリアルな戦闘ですから油断すると怪我します。あ、痛いのは嫌ですか」
「嫌です」
「じゃあチート使って痛覚調整つけますか?」
「それはもったいないかなぁ。中途リアル戦闘やってみて痛くてしょうがなかったら考えます」
「そう。今ちょっとうちのボケが少なくなってるような気がして不安なのですが」
「いや話を進めましょう。2年が長いか短いかわかりませんけども」
「うちは本当は女神なのです。2年以内に女神に戻るためにやるのですエテア」
エテアの前方20メートルくらいの場所に緑色のぷよぷよした物体が現れた。
エテアはチュートリアル戦闘より前に詰めないといけないことがあると思ったが、言う暇がなかった。
「これがあの有名な最弱モンスターのスライムです。変に強くはないです。弱いほうのスライムです。自在に変形したりしませんし賢者な知力や魔王レベルの魔力もないです」
「じゃあ」
エテアは左手をスライムに向けて、――一旦手を降ろす。
「殺して問題ないんですか?」
「気にしなくていいです。チュートリアルなんで。そうじゃなくてもこの世界は架空のバーチャルような、うちが出世するためのものなので、何者相手でもドライに殺していいです。スライムごときに気を使っててはやってられないのです」
「じゃあ」
エテアの左手から、よく見ないとわからないくらいの細い光線が出た。便宜上光線とはいうが、実際には光速のビームではない。実際は時速200キロくらいで『破壊力』がで飛んでいる。肉眼では光線のように見える。プロ野球の外野からの返球をレーザービームと呼ぶことがあるがあれよりはかなり速い。
光線に貫通されたとスライムはぴくりとしたがなんともなかった。
「効いてないですね」
エテアがラムを見る。
「なんででしょうね。穴が小さすぎる?」
「ああなるほど。スライムの体の構造がシンプルすぎて、小さい穴が貫通したって体全体としてのダメージはほとんどないんですね」
「……ああそうです。よくわかりましたね」
エテアは今度は『破壊力』のイメージを変えてパチンコ玉くらいの光の球を左手から発射する。速度はさっきの半分くらい遅い。光の球が飛んでいるのが肉眼で確認できる。
スライムに着弾すると、光の球は破裂した。スライムは破裂の威力でばちゅんと後方にはじけるように粉砕された。
「接触信管みたいなイメージで敵に『破壊力』が触れた瞬間に爆発するようにしてみました。爆発は後方に指向させてこちらへ影響がないようにしました」
「……上出来ですね。まあ、まあスライム相手に苦戦することありえませんけども」
ほめるラム。目は泳いでいる。あんまりわかっていないらしい。
「魔王もこんな感じにばちゅんとはじけるんですか」
「まあ出力と相手の組成で変わるんでしょう。物理的なことはわからないもん」
「気づいたんですけど相手がスライムなだけでやってることビール瓶に試し打ちしたのと大差なかったような」
「確かに差はないですね」
「これで俺は勇者エテア・サキユになる流れなんですか」
「まったく無名ですが実力はすでに勇者です」
「俺は何をやって伝説の勇者になるんですか」
「ベタに魔王倒しますか?」
「やっぱりベタでいいんでしょ? 魔王倒してハッピーエンドでいいのでは?」
「魔王は用意します。はい」
突然何の前置きもエフェクトもなくエテアの目の前に身長250センチくらいの黒紫の肌の魔王が立っていた。横幅が広く見える法衣と袴のような服装であった。
「魔王です」
魔王は頭を下げる。声は腹に響く低さだが聞き取りやすい。
「これからうちとエテアと魔王とで伝説をどうつくるか話し合いましょう」
「やられる人も入れて会議?」
「どうぞよろしくお願いします」
再び頭を下げる魔王。
「魔王にも名前をください」
魔王の低音ボイスにラムは
「そうですね」
と返事をする。
「またいろはからですか?」
とエテア。三人になると地の文が増える。
「魔王の名はウジェシカ」
ラムが名前を告げる。
「どこから名前とりました?」
「秘密です」
「我が名はウジェシカ。魔王ウジェシカとしてこの世界を支配するために活動します」
この台詞にエテアは、なんか命名されたことで魔王の中の何かのシステムが起動したダイアログのような感じがした。
「具体的には?」
エテアがきく。
「配下に四天王的なのをはべらせてそやつらに軍団を編成させ、各地に攻撃的なモンスターを派遣します」
「ベタですね。とてもよいベタです。世界征服するのに力押しですね」
「そうです。ベタな魔王は力押し主体でいきます」
「ちょっと待ってください」エテアが口をはさむ。「魔王さん、ウジェシカ魔王は俺に退治されるんですか」
「ベタ魔王なら勇者に退治されるのが使命です」
真顔の魔王。魔王の声は説得力を割り増しする。言ってる内容が伴ってなくても。
エテアは違和感があったが「この魔王はシステムとして存在するだけなんだ」と解釈しようとしてみる。
「マッチポンプですね」
「そうです。自分で火をつけて自分で消火するのです。泥棒を捕まえてから縄を綯《な》います」
『マッチポンプ』の説明と『泥縄』の説明をする女神。
「泥縄なことしてる自覚もあるわこの女神」
「魔王は勇者にやられる運命でいいんですか」
「そういう
「なんかやりしづらいなぁ」
「そうですね。うまいこと封印とかしてもらえたら、あとでなんとでも対処していただけるようなので」
「ああなるほど。じゃあ魔王はバーチャルじゃなくてちゃんとした存在なんですね」
「そうですよ。これまでみっつほどの世界で魔王させていただいております」
「……えーと。それってひょっとしてみんな新たに神に昇格する者の出世のため?」
「いや。えーとあの」
魔王は口ごもった。
「守秘義務に抵触しました」
ラムが告げる。
「じゃあしょうがない」
エテアはあっさりひきさがる。追求しても意味がないと学習していた。ラムという名前(俗名)の女神の雑さもあるが、遙か高みの神の世界の守秘義務をどうこうできるとも思えない。
「じゃあ、そのへんの村人は?」
「ほとんど
ラムが答える。
「それは人格とかないってことですか」
「設定がしっかりしてないので人権意識とかそのへんもあんまりまだないかな。ほら村の入り口うろついてていつも同じことしか言わない人みたいな」
「そのレベル?」
「いやそれよりは程度は高いけど、網膜剥離とか糖尿病とか痛風とかにかかるほど複雑じゃありません」
「NPCなんですよね」
NPC。ノンプレイヤーキャラクター。エテアは『リアルな生活があるキャラクターではないもの』という意味で使っている。
「それよりは複雑な思考と対処しますけども。あくまでモブですモブ。
「仮想現実世界なんですか?」
「まあだいたいそう思ってもらっても支障ないです。だからチンピラが我々主役冒険者パーティに襲いかかって来ても、彼らに肉親がいるとか生活がかかってるとか心配せずにぷち殺してかまいません」
「冒険者パーティ。そうですよ。ベタにパーティ組む相手あと何人か必要ですよ」
「えーめんどくさい。超有名ロープレシリーズの1作目だとひとりでラスボスまで倒してたじゃないですか」
「2作目からパーティ組んでましたよ。それが主流ですよ」
「やりたいんですね」
「ひとりよりふたりがいい。ふたりより三人がいい」
「わかりました。しょうがないですね」
「木偶じゃないパーティ」
「えー。けど基本ひとりしか召喚できないし。ちょっとお花摘みに行ってきます」
急に構造のしっかりした新築の公衆トイレが現れた。
ラムがいなくなったので当然、この場はエテアと魔王ふたりしかいない。
エテアは間が持たない気分で黙っていた。
魔王のほうから声をかけてくれた。
「いい天気ですね」
「そう、ですね」
ここは亜空間なので天気とかの概念はない。
しかしそういう当たり障りのない話題を振ってくれているのがありがたいと思って肯定しておいた。
「ここだと暑いも寒いもなくっていいですよね」
「そういえば、そうですね。気温のことまで頭回ってなかったです」
と、ふたりはこれからラムが戻ってくるまで当たり障りもくすぐりもない会話を続けるのであった。
▲
「話動いてますね」
「おかげさまで。登場人物が三人になると地の文が増えるんよね」
「まあ説明しないと誰が喋ってるかわかりにくくなりますもんね」
「追加パーティメンバーに主人公がおる。多分第一話としての初期主要メンバーは次回かその次くらいで揃うと思う」
「第一話って。そうか。まだ本編始まってないんですね。女神が出世するための伝説の物語が」
実は第一話になる前の相談がずっと続いているのだった。
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