第7話 俺の名は

第二部006 俺の名は


【前回までの『女神さま』(仮題)のあらすじ】

 胡乱な女神は主人公予定の青年を英雄に仕立て伝説を打ち立て、女神の地位を確保しようとしていた。

 女神は青年と話しているうちに彼に協力してもらって自力で伝説を作ることになる。

 女神は彼の前世の世界の情報を得られるし得ているようである。

 彼は女神から爆発力のチートをもらう。

 女神が地上で行動するためには名前が必要だという話になる。


「登場人物にやっと名前つくんですね」

「名前あったほうがわかりやすいもんな。前回で名前つくと思ってたらそうでもなかったんでちょっとびっくりした」

「書いてる本人がそんなんで」

「いやもう俺のコントロールでなんとかできてないような。まだ主人公も決まってないし」

「そんなんで続きますか?」

「うーん。ぐちゃぐちゃになるかもしれんけど、それを一旦やってみるのは経験として価値あるような気がする」

「じゃあやってみてください。ひとまわり成長してみせてください」

「成長するかどうかわからんのよ。無駄だったってオチもあるよ」



     ▼



「俺の名前は……。名前……。なんやったっけ……」

 彼は自分の元の名前が思い出せない。その違和感が受け入れられない。本来馴染んでいるはずの自分の名前を名乗りたかったができない。

「あなたがここに来る前の記憶はいくらか欠けています。大丈夫。いずれ思い出します」

「女神様が女神と自称するように俺は俺でしかないのか」

 彼は他に何かを忘れていないかと思った。が、思い出せることは思い出せるからあるのはわかるが、思い出せないものは元々ないのか記憶から欠けてるのかわからない。

「付き合ってた彼女のことがまったく思い出せない」

「あなたのお付き合いの経験はゼロです。記憶から消えてはないです」

「なんか薄ら付き合ってたことがあったような記憶はありますよ」

「それはクラスメートとかの好きな女子と仲良く会話したりした記憶でしょう。交際にカウントされません」

「ええ? ちゃんと付き合ってた記憶……が……ない……」

「はいはい。これから伝説作ったらモテますよ」

「わかりました。善処します」


「女神とあなたの名前ですね。女神は〈アテナ〉であなたは〈邪武ジャブ〉」

「どこかで聞いた名前来た。勇者なのにジャブなんですか」

「大丈夫。フルスイングで殴ったら世界が壊滅するからジャブだけで大丈夫なのです」

「フルスイングで10ギガトンパンチだから」

 やることはパンチではないけど。


「もうちょっとオリジナルな名前にしませんか」

 〈アテナ〉と〈邪武ジャブ〉ではまずいと〈邪武ジャブ〉(仮)は思う。

「カンブリア爆発パンチとかどうですか」

「いやパンチの名前じゃなくて」

「じゃあ、女神はラム・ウ。あなたはエテア・サキユ」

 〈ヰ〉は〈ゐ〉のカタカナ。〈わゐうゑを〉の〈ゐ〉。

「なんかわからないけどそれでいいです。出典は?」

「いろは歌です」

「……えーと。……なんとなくあるようなないようなとこ」


 いろはにほへとちりぬるをわかよたれそつねならむうゐのおくやまけふこえてあさきゆめみしゑひもせす


 さてどこにあるでしょう?



     ▲



「ああ。いろは歌から名前つけるのって私の名前つけたのと同じパターンですね」

 コロニスの名前は寿限無から取っている。ってこれを説明入れたほうがいいのか説明しなくていいのかの塩梅も難しい。

「そうそう。考えるのが面倒になって」



     ▼



「女神はラム・ウヰですけど本当は女神の女神ですからね。女神は女神なんです。女神は女神なんです」

「これから言う機会減るからって繰り返さない」

「これからうちはラムだっちゃ」

「それはやめましょう」

「ダーリンがそういうならやめるっちゃ」

「ダーリンじゃないでしょ。そういう関係になってないでしょ」

「知っていますか? 昔の有名な海外ドラマの、魔法使いの奥様の夫の『ダーリン』と、あの鬼娘がダブル疫マンを呼ぶ『ダーリン』って同音異義語なのです」

 魔法使いの夫は「Darrin」で個人名。

 鬼娘が浮気男を呼ぶのは「darling(darlin')」で「最愛の人」みたいな意味である。

「知ってた」

「知っていたのですか」

「これを読んでる人はついてこれてるんですか」

「一方はリメイクされていますしもう一方はBSで再放送していますから両方観てる人もひとりくらいいるのではないかと思います」


「俺はあなたをラムさんと呼べばいいんですね」

「なんかうれしいのです。ラムと呼ばれることが。ラム。船の先端につける敵の船に突撃するためのパーツ。衝角ラム

 衝角ラムは正確には水面下で正面に突き出ている。敵船を沈めるためだから。

「じゃあ俺の衝角ラムとなって敵を貫いてくれますか」

「それは愛の告白ですか。わかりました。文通から始めましょう」

「いや告白してないし」

「それが告白でなくてなんなのですか。ラムわからない」

「一人称ラムなんですか」

「ラムじゃだめですか? あなたが、えーと名前なんでしたっけ? ウヰノ・オクヤマ?」

「名前つけたら覚えとけ。覚えられんのならメモしろメモ」

「記憶にはあるんですけど検索するのが面倒で。

 いろはにほへとちりぬるをわかよたれそつねならむうゐのおくやまけふこえてあさきゆめみしゑひもせす……。あれ? どこ?」

「ほら最後のほう。えてあさきゆ。エテア・サキユ」

「エテアですね。これからエテ公と呼べば」

「それはやめて」

「じゃあダーリンで」

「そっちのほうがましですが」

「エテアと呼びます」

「そうしてください」

「じゃあ伝説を作りにいきますか。2年以内で」

「まだ色々足りないでしょう」

「あとはアドリブでいけます」

「女神様は地上では女神じゃなくなるんでしょう?」

 〈女神〉という職能ジョブのまま地上で活動するのは動きにくいんじゃないかとエテアは考えたのだ。

「そうです。うちは女神でいたいのですが地上でうちはめがめないのです」

 女神からラムになった彼女の一人称は〈うち〉に決定したようだ。

「『めがめない』てなんですか」

「あと、神が神のまま地に降り立つことは基本的にあってはならないのです。神は穢れてはいけないのです。だからうちも女神であることを一旦放棄して受肉するのです」

「地上に降りる前にラムさんもチートスキル装備しないと」

「そうでした。うちは自力で伝説を作るためにチートを自らに付与するのです。上からそういう許可出てました」

「どこからどう許可とかとってるんだろう」

「そこは神の領域なので秘密です」

「わかりました」

 エテアはあっさりひいた。触らぬ神に祟りなしだから。



     ▲


「やっと主人公に名前つきましたね」

「うん。けど、このエテアが主人公かというと……」

「違うんですか」

「ほら。登場人物が相談しながら話が進むからまだ追加キャラが入ったら関係性がなんとかして」

 基本、主人公は可能な限り早く登場させるべきなのは知っている。

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