第6話 名前を決めよう
【前回までの『女神さま』(仮題)のあらすじ】
胡乱な女神は彼を伝説の英雄に仕立て女神の地位を確保しようとしていたが要領を得ない。
女神は彼の前世の世界の情報を自由自在に取り込めるようだった。
彼は女神に爆発力のチートを与えられた。
女神は彼とともに地上に降りて伝説を作る話ということにはなったが――。
「『動画を観れるチート』もあらすじに入れた方がいいんかな?」
「本筋に関係あります?」
「じゃあ本筋に関係できてからあらすじに入れるか」
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「敵は? 最終目的は魔王だとしてもその前になんやかやありますよね。絶対考えてませんね。どこまで用意できてるんですかその世界」
「一応生活できるだけの大気とか生態系とかあって。ほらよくあるやつ。『中世ヨーロッパ風ってことになってるシェアードワールド?
ほんとの中世ヨーロッパの文化とかとか知りません」
「それですか。それでも色々振り幅があって。ステータスオープンあるかないかとか、スライムは最弱かとか」
「ここで世界設定決めるのですか」
「まあ、とりあえず生活できれば一旦いいですけど」
「生活に不自由はさせませんよ。今思いつく支障といえばせいぜいあなたが火力調整に失敗してすべてを灰燼に帰することだけです」
「あんたが与えたんでしょーが」
「大丈夫です。女神だけは助かります」
「戦闘時にならないとそこそこの火力出ないリミッターつけるとか」
「自分でやってください。そういう調整はあなた自身でできるはずです」
「あ。はい」
できるようだった。
「じゃあ、おやつに歌舞伎揚げ食べます」
ばりばりばりばりばり。
「また食べてる。いや地上に行ってもあなたの能力は制限かからないんですか?」
「知りません。行ったことがないので。ばりばりぼりぼりぼり」
「地上に降りたらあなたがまったく常人レベルだったら無双の主人公できませんよ」
「なるほど。女神は女神で女神にチートを与えておいたほうがいいのですね。なんでもできます。以上」
「うわ。話すぐ終わるよ」
「……いいえ。だめでした」
がっくりする女神。『なんでもできる』チートは獲得できなかったようだ。
「どういうことです?」
「女神より上の力がかかっています。女神はしょせんまだ神の階級の一番下なのです。だから固有の名前さえもらえないのです。女神は悲しいのです」
「上の力? あなた好き放題書けるんじゃないんですか」
「そんなわけないでしょう。小説っていうのは色々制限があるのです。女神が女神になったのをいいことに好き放題やってるとでも思ってるのですか」
「思ってます」
「これでも色々縛りがあるのです。なんの制限もないのも楽しくありませんし。あと私が書いてるわけじゃないです。女神は女神であって書き手ではないのです」
「じゃあ、どこまでの能力が使えるんですか」
「心配しなくてもエロ動画見放題は」
「今そこは心配してない」
▲
「登場人物が相談して物語を作っていくパターンですね」
「そう」言って俺ははたと気づいた。「俺とコロニスの会話と、女神と〈彼〉との会話って相似構造として読者に見られへんかなって」
「ああ。そう言われれば」
「相似構造になることはこんな構成の小説にしてることで避けられへんのやけども。成り行きでこうなったけども」
「気にせず行きましょう」
「まあ、それを利用して面白くなるかもしれへんね」
「そうです。なんにしても完成しないことには世に問うこともできませんし」
「うん。完成させよう」
「このシステムで書いてる以上、『書けないから投げ出す』はできませんからね」
「このシステム。『こんな話を書いてます。まともに話展開しませんけどもこれは作中作だから』で成立させてるから、『書けなくなった』という事態に陥っても『書けなくなった』ことを書いて続けられる。物理的に書く体力気力が少しでも残ってたら続けられる。と」
「そうです。書けない理由はほとんど取り除かれてるんです」
「うわー。書けないのをこじらせてるところにコロニスが来てくれたおかげで書かない理由がなくなった。コロニスのおかげで。『コロニスシステム』のおかげで」
『コロニスシステム』
「作中作」を作っているという物語にすることでその作中作の完成度が低くても構わないシステム。
「本当に成立してるんかなぁ?」
「そうですね。とりあえず書き続ける手法としては間違ってません。そのへん細かいこと考えないほうがいいと思いますよ」
「うん。そうやね。とにかく続けよう」
▼
「女神が直接チートを発揮していいのは召喚した者に対してのみのようです。あと女神自身にもチート付与はできます。数と能力の制限は多少ありますが。地上に降りた後は一切チート付与できないようです」
「じゃあとりあえず地上に降りてベタに魔王倒す伝説を作れるチートをあなたも自分に付与してください」
「やっぱり魔王倒すのに相性のいい能力が良いですね」
「魔王はどんなやつなんですか。まだいないんでしょう?」
「まず最初に主人公を用意しようと思ったのです。だから魔王はまだ設定されていません。主人公が設定すれば良いと思っていました」
「それで俺が呼び出されたと」
「あなたが主人公となって伝説をつくるはずだったんですが。女神が自ら伝説を作ることになるなんて」
「ぶん投げすぎだったんですよ」
「乗りかかった船です。沈むまでいきます」
「沈んだらあかんやろ」
「女神様は地上に降りたら女神って自称してたら痛い奴と思われるので名前つけたほうがいいですよ」
「そうですね。女神は女神なのですが。細かいことを言うと女神にも名前はあるのですが女神としての
真名。悪魔は真名を呼ばれるとその者に服従しないといけない。という話がある。女神にもそのルールが適用されるのか。
「じゃあなおさら通名つけましょう」
「
「はいどうぞ」
無表情に即答する彼。
「……やっぱりやめておきます」
「なんで」
「センスないって思ってますね」
「思ってます。通名じゃなくて
「あなたにも名前が必要です」
「俺は名前は……。あれ? 思い出せない。前世の記憶はあるはある。歴代戦隊の名前はすらすら思い出せるのに自分の生活そのものを思い出せない」
だから便宜上地の文でも彼は彼だった。
「心配しなくても『塔映特撮ファンクラブ』にも入会してあります。『ラムダー第3号 宇宙大作戦』も『もっふふといっしょ』も見放題です」
「特殊な作品を例に出す……」
▲
「『ラムダー第3号 宇宙大作戦』と『もっふふといっしょ』ってなんですか?」
「『ラムダー』は俺が生まれるより前の日米合作SF映画。『もっふふ』は戦隊ヒーロー番組の劇中アニメとして放送されてる設定のアニメ。もちろんこれから『コロニスといっしょ』ってタイトルは思いついたんよ」
「あやっぱり」
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