第2話 うどんめがみがめんどう

「前回のあらすじ」

「あらすじやるん?」

「やったほうがわかりやすいでしょ。どうせ紆余曲折するんですから」

「まあ、確かに」


【前回のあらすじ】

 〈女神〉は〈彼〉を英雄に仕立て上げて伝説を作らせて女神の地位を確保しようとしていたが要領を得ない。


「あー、そういことになるんか」



     ▼



「俺はあなたとこういう会話を続けて、あなたが女神でいることを終わらせるために2年間ここにいる運命なのですね」

 彼は一人称を〈私〉から〈俺〉に変えた。女神への敬意が落ちてきたのでこのタイミングで変えた。しかしですます調は基本的にまだ守る。まだ敬意をある程度示しておかないと生殺与奪を握られているようだから後で怖いことになるのを避けるためにもツッコミのキレのため以外にはですますで行くことにしていた。

「英語で言うとゴッデスターミネーターですね」

 スペルは〈goddess terminator〉。

「できれば早く終わらせる方法を知りたいです」

「終わらせません。女神は女神なのです。女神で長くいたいのです」

「気に入ったフレーズ多用したいんな」

「女神は女神でいたいのです。女神としての名前もなく女神としての名前をもらえないまま女神としての名前もなく女神でなくなるなんて女神として女神ません」

「内容ない上、語彙が少なすぎる話はやめてください」

「あなたはこれから受肉して下天してもらいます」

「整理していいですか」

「女神は女神なので月のものはありません。誰がお付きの天使も付けてもらえん女神ですか」

「そっちの生理じゃなくてね。漢字変換何使ってるんですか」

「Google日本語入力です」

「やっぱり使ってるんかい」

「女神は説明が下手なので下天して下界の下僕の下位を聞くのです」

「さっき語彙なかったくせに急に『下』で韻踏む。なぜ。そして韻踏むから言ってることわかりにくい」

「せっかく韻を踏んだのにそれの説明をさせるのは野暮というものです。ギャグ言ったときに一番恥ずかしいのはギャグの説明を求められて説明するときなんですよ。女神にそんな辱めを。恥を知りなさい」

「わかりました。もう行きます」

「ごめんなさい。もうちょっとボケに付き合って」

「いや。何がしたいんですか」

「女神がつくった世界は中途半端なのです。女神の下界はまだちゃんと構築されていないのです」

「うん。じゃあ俺はどうなるんですか」

「あなたは受肉されて設定が雑な草原に放り出されます」

「裸で?」

「装備はつけてあげますそれ以外にもあなたが地上で生きるためにチートな能力が与えられます女神が与えます無償で与えますうれしいですか」

 なぜか息継ぎなしで言った。

「どんな能力ですか」

「それはあなたが考えるのです。女神はノープランです」

「女神はノータリンですか」

「ノープランです。ノー足りんタリンでないです。女神に脳は必要ないのです。脳があるうちはまだ神の領域には及ばないのです」

「無脳ですか」

「無能ではないです。無能じゃないもん。女神無能じゃないから。女神になったんだから。ぐすんぐすん」

「泣くな」

「はい」

「すぐ泣き止む」

「女神は脳神経でものを考えていないので感情のコントロールがしやすいのです」

「あの、誰か会話できる人に代わってもらったりできますか? もうどんなツッコみしていいか」

「コロッケうどんが食べたい」

「あかん。もう会話のキャッチボールが」

 ちなみに女神は「もうどんな」からコロッケうどんを連想している。って説明すると恥ずかしい。


「ではあなたはうどんなチート能力が欲しいですか」

「うどんなチートはいりません」

「いや、どんなチートが欲しいですか」

「チート……。チートはいくつでどれくらいとか制限とかありますか」

「女神は女神なのでちっぽけな人間の考える程度のことはみんなできます」

「元の世界に戻して裕福な生活させて」

「できません」

 食い気味即答。

「普通考えるでしょ。なんでここに来たか知りませんけど、急にわけわからんところに呼び出されて。家に帰ってエロ動画観て寝たいです」

「わかりました。いつでもあちらの世界のエロ動画配信サービスとつながる脳内スクリーンをチートとして与えます」

「いやいや待って、それよりもっと生きるのに必要なチートを」

「生きる希望でしょう? エロ動画」

「そうですけど。まず衣食住を揃えて安全で安定した生活の上でこそのエロ動画です」

「いいのですか下ネタで話を続けて」

「まずいならやめます」

「まあいいのです。本当は女神もアンダージョーカーなのです」

「やめましょう。限度超えそうなんで」

「残念です。せっかくピーがピーピーなネタを」

「ネタを披露するために俺を呼んだんですか」

「そうです」

「なんでやねん」

「それもありますけど、ちゃんとあなたを女神のつくったの世界へ主人公として生活にしてもらっての主な目的です」

「話やっと戻った。文法おかしいけど」

「じゃがいこ食べたい」

 『じゃがいこ』。有名な菓子メーカーの有名な棒状のポテトスナック。

「今出して食べたらええやん」

「いいの?」

 真顔できょとんとする女神。

「食べたら満足するんでしょ?」

「わーい。これから重力が発生します」

 突然、仮の下の方向に床が現れる。

 ここまで女神と彼は仮の上下を同じ方向にした姿勢で地面も見えない灰色の空間で会話していた。上下合わせたほうが会話がしやすいから。

 本当に上か下もない状況だった。

 少しずつ重力が発生して三半規管が仕事をし始めているのを彼は感じる。本能的に体の上下を保持しようとする。

 床に焼き肉テーブルが現れた。もちろんセットの椅子も一緒に。

 焼き肉屋の、鉄板が真ん中にしつらえられたテーブルの席に、彼と女神は自然と着席することになった。

 鉄板の上に上ロースと羊羹が一緒に現れた。鉄板はすでに焼き肉開始できる状態だった。肉の焼けるにおいはいいのだが羊羹がこげるにおいで台無しである。じゃがいこもコロッケうどんも置いてある。


「ほれでああ、あおんをりええほいれえもるお」

「ロースほおばりながら喋らない。いいけど聞き取れるようにして」

「じゃあ別の口から食べ……、おっとアンダージョーカーになってしまいました。失礼しました」

「危ない」

「わあいあえんいえんおうおめあみあんで」

「だから聞き取れるように」

(聞こえますか。女神はあなたの心に直接語りかけこのタレうまいわいますじゃがいこもさくさくしててうまいので酒も出そう)

 焼き肉卓に日本酒の瓶とグラスがあらわれた。

「声に出してください。あなたの思考は乱れすぎてわかりにくいです」

「食べながら。もぐもぐ。話すともぐもぐ咀嚼とぽりぽりぽりぽりぽりぽりぽりぽりぽりぽり」

「途中からじゃがいこかじるのに集中してる。本題を進めないと二階級降格ですよ」

「女神じゃなくなるのはずずずずーっ……」

「喋りながらうどんすするな」


     ▲



「面白いです」

「やろ?」

「わかってますよね?」

「えーと。長編小説としてはこれじゃまずいとは思ってる」

「このまんまで長編小説の長さやるのはしんどいですね」

「うん。なんかこう女神に自由にやってもらうことしたらこうなって。これをちゃんと作品として成立させるのは大変だから」

「ベタな異世界転生モノにするのはあきらめてますね」

「うん。一応『ベタを目指す』という姿勢だけは見せる感じで」


 ちなみにサブタイトル『うどんめがみがめんどう』は回文です。

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