コロニスといっしょ 第二部 長編制作紆余曲折篇
鐘辺完
第1話 長編に挑戦
第二部 長編制作紆余曲折篇
「やっぱり長編小説を書こうと思ってはいる」
『思って
「なんか毎晩のように何か書いてたみたいですけど」
コロニスが寝床に入った後に俺はちまちまと独り執筆している。毎日じゃないけど。
「ほら何十年経ってもまっとうな長編小説書かれへんのやから。じゃあまっとうじゃないやつ書こうと」
「まあ『コロニスといっしょ』がそれですね」
「そうそう。第一部ではショートショートを紹介する形で結果的に長編文字数をクリアしようという目的でやってきたけど、第二部では実際に長編小説に挑戦しようと思ってて」
「たたき台があるんですか? それとも初期構想だけ?」
「うん。ある程度、設定とか登場人物とかはできてるけど」
「じゃあ、それを私が読んであれこれ話しつつ、その長編小説を完成させていく趣旨ですかね」
「そう」
俺の名前は
座卓の上にノートパソコン。
俺はその前にあぐらをかいて座る。
俺の右横にアライグマのコロニスがいる。
コロニスの席は手すり背もたれ付きの椅子である。コロニスの体格だとノートパソコンのモニタを覗くのに丁度いいのである。
と、だいたいこんな配置で俺たちの“会議”は行われる。
モニタに書きかけの小説のテキストが表示される。
▼
彼が目を覚ますと目の前に自称女神がいた。
「目覚めましたか。女神は女神なのです」
上下感覚もよくわからない足場もない空間に彼はいた。
地面も空もない。曇り空のようなすべて灰色。女神の姿以外は。多少の色の濃い薄いはあれど背景は灰色一色だった。
「あなたは女神が作った世界で生活していただきます。女神は女神しています」
自称女神は天女の羽衣を派手に装飾したような豪華な純白のドレスをまとっていた。髪の色は淡い赤紫の巻き毛ショートだ。美人である。
「それはわかりました。何をすればいいんですか」
上か下かもわからない感覚に戸惑いながら彼は女神の話を聞く。彼はここで話を聞いておいたほうが身のためな気がしていた。それ以外取るべき手段もなさそうだし。
彼は黒髪短髪黒目の十七歳くらいに見える。
「まだ世界がちゃんとできてないのであなたがつくってください。説明めんどくさいのです」
「? 私はあなたの世界創世の助手になるんですか?」
「いえ。助手じゃないです。女神は天使を助手にします。あなたはあの世界の人間だったのでそこから一回死んだくらいでは天使の末席には入れられません。女神はまだ新米なので天使の助手もつけてもらえません」
「私がいた世界は汚れてるから?」
彼はとりあえず『人間は一回死んだだけでは天使になれない』に言葉を返した。
「そんな社会派の話は聞きたくありません」
「女神様がそんなこと言いますか?」
「女神は社会派ではありません。社会派の女神も存在しますが、基本的に女神というものは社会を理解しません。数学もあんまり理解しません。微分とか知らないです」
「それって女神様は学がないってことでは」
「そうです。学があっても女神にはなれません。女神は孤独です。女神もなんやかやあって女神になりましたけど、女神同士飲みに行く女神会とかやってるやつらもいますけど、女神はまだ女神になって日が浅いので女神同士の横社会に入れないのです。社会科は苦手です」
「女神社会になじめてへんだけやん」
「関西弁でツッコみますか。女神は女神ですよ」
女神はちょっと喜んでいた。関西弁でツッコまれるのが嬉しいらしい。
「女神は分かりました。私にどうしろうというんですか」
「女神は思うのです」
「さっきからひっかかってたんですけどあなたは自分のことを〈女神〉って言ってますね」
「女神は女神になってから日が浅いので女神としての個人名もまだないのです。女神が自分のこと女神って言って悪いの? 女神悲しい」
▲
「女神がやたらしゃべる話ですか」
「うん。基本的には『異世界転生もの』のオーソドックスなのを書こうと思って始めたら女神がぐいぐい来てしまった」
「これは〈彼〉が主人公ですよね?」
「さあ?」
「さあ、って」
「普通に考えたら〈彼〉が主人公だしその想定で書いてるけど」
「じゃあ主人公ですやんか」
「それが、俺が書く小説の主人公はやる気をなくす」
「なんですかそれ」
「俺が長編小説を書けない理由のひとつがどうもそれらしい。他にも理由はあるけど」
「わたしはあんまり小説とか物語をつくる方法論はわかりませんけどもね。一応最初にテーマとか主人公というのは固定するもんですよね?」
「そう。まっとうなモノカキならそうするはず」
「じゃあそれでいきましょうよ」
「う……ん……。ただしばらくすると、彼が主人公であるかどうか揺らいでいくんやけど」
「あー。まあとりあえず続き行きましょうか」
▼
「女神なのはわかりました女神様。なんにしても私はこれからどうしていいかわからないので。私をここに呼んだ理由はなんですか。ここはどこですか。質問していいですか」
「質問していいかを聞くなら質問をする前にしてください。あなたは異世界転生して活躍するのです。ここはあなたと話すための亜空間です。私は女神なのです」
「ベタなWeb小説のパターンですね」
「そうなのです。あなたはベタな主人公になるのです。女神がざっくり土台をつくった世界でベタに伝説になる主人公になるのです」
「私がベタ主人公ですか」
「ベタなのです。女神は初心者なのでトリッキーなことは避けたほうがいいのです。主人公が異様にやる気がないとか、主人公が魔王に取って代わるとか、主人公が神にさえも取って代わろうとするとかそういうことはなしで。これらもベタと言われても女神にはこの程度のトリッキーしかわかりません」
「いらないことに饒舌ですね」
「いいのです。それが女神の個性です。気にしなくていいのです。女神が他人と会話することが苦手で順を追った説明とか相手のことを考えずについつい頭に浮かんだことを口にしてしまうことがあるのはわかっています。まんじゅう食べたい。悪いくせだとわかっていて治らないのだからそれはもう個性として受け入れてもらう。ちょっと右足の裏かゆい。しかないのです」
「わかりました。せめて本題と関係ないことを意図的に合間に挟むのはやめてください話が進みにくくなるんで」
「進まなくてもいいのです。話をどう進めていいのかわからないのです。女神はあまりこの世界を構築することに自信がないので、できるだけ先延ばしにしたいのです。誰が説明代わって」
「先延ばしにしていいのですか? 女神様くらいになると寿命が限りないとかでしょうけど」
「寿命は那由他ありますけど、世界構築の期限は2年です。あなたが2年でなんかうまいことベタなストーリーの成功者となって物語が完結しないと女神は女神としての地位を失います。二階級降格です。神格を失って上から二番目の天使にされます。女神は女神である間に女神って言えるだけ言いたいから一人称は女神なんです。女神は女神なんです」
▲
「なるほど。こうなるとなんか女神のほうが主人公かもしれません」
「そうそう。〈彼〉は女神のボケにツッコむポジションというか、受けに回るので主人公っぽくなくなってきた」
「秀さんが先のこと何も考えてないことが女神の胡乱さにつながってますね」
「うん。……これしばらく続くから」
「『これ』って胡乱な女神の話が?」
▼
「2年ですか。じゃ……」
「2年でなんとかしろとか言われても難しいですよね。世界構築とかものすごい細かいところまで考えないといけないから。もしくは細かいところ無視できる世界にしてください。羊羹も食べたい」
「話をすすめてください。羊羹は関係ないです」
「羊羹は好きですけど芋羊羹とか栗羊羹とかはあんまり好きじゃなくてシンプルな練り羊羹が」
「羊羹は関係ないと言うてます。よう考えなはれ」
「よう考えてみましょう。ようかん……。洋館? 腰間? 腰間って何? 変換候補にあったけど腰間。遥堪とかもある。これなに?」
女神様ともなると脳内にかな漢字変換機能があるらしい。
ちなみに遥堪は島根県にある地名。
「……女神様。あなたは色々致命的な問題があるのかもしれません」
「いえそんなことありません女神は女神ですよ。神のはしくれですよ。なんですか! はしくれとは失礼な」
「自分で言ってることに怒らない。落ち着いて。はい。深呼吸して」
「はー。はー。はー……」
「ちゃんと吸って。なんで吐き続けるかな」
「過呼吸です」
「過呼ですね。吸ってないです」
過呼吸-吸=過呼。
「大阪の吹田市は『すいた』なんですよね。『ふきた市』と間違える人がいます。『
「なんで異世界の女神が急に大阪の地名を」
「羊羹もまんじゅうの日本のものです。女神は日本のことはよくわかってますし日本に住んでいたことも有馬温泉」
「古いダジャレ入れてきた」
「わかっています。本題が進まないのですね」
「2年でなんとかするんでしょ。この会話を2年続けて二階級降格するならそれでもいいです。けどここで2年間私は生活できるんですか」
「そうです。あなたはまだ肉体がないのです。肉も食べたい。上ロース」
「わかりました。今はツッコミに専念したらいいんですね」
「……話をすすめます」
「ツッコミやるって言ったらボケるのやめるんかい」
「女神は女神なのです」
「それはもう12回くらい聞いた」
「後でちゃんと正確な数を数えておきます」
「数えなくていいから」
▲
「つまりこれは女神と〈彼〉の会話を楽しむ小説ですね。現状は」
「そんなつもりはなくて。ただなんかこの女神のノリがなんか気に入ってワルノリしてしまってる」
「うーん。まあまっとうに小説書くことをここでは放棄してるんだからこのまま行きましょう」
そう。『コロニスといっしょ』という小説の中の作中作だから。それ単体で成立しなくていい。
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