第54話

駆け足で前に出て、右半身と成った俺は。

ヤツの側、前方へ置いた自分のその右足を軸に。 【スキップ・ステップ】で勢い良く踏み込み。         

その右爪先で「ストップ」、「急ブレーキ」を掛けた。

間合いはもう、充分過ぎる程に取って在る。

先程ももう、此処で述べた様に。

ヤツの怪力へと掴まれば

俺はもうそれも散々とした、コイツとのその苦戦を。

強いられる事と成るだろう。

そして俺がこの間合いを、広く取っているその理由へは。

もう一つ在る。

体重が軽く、「スピード」の在る俺の。

その攻撃力と破壊力を、最大限に活かすその【鍵】は。

この間合いこそがその、「本領発揮」の為の。

その源泉で在るからなのだ。


走り込んだ勢いと、その際に加速をした。

【ダッシュ】力を全て、自分の重心へ掛けて利用をし。

更に其所へ、「ストップ」を掛けたその片足を。

「ブレーキング」のその軸として。

その「ブレーキ」の力のみでは足りない余りに、「ブレーキ」と成っている。

その軸足を越えて行く。

上半身の在り余る、その勢いを利用した。

まあ所謂コレも又在る種の、「慣性」の法則で。

俺の攻撃、主にその打撃力は。

遥かにその体重差で勝る、この相手「植田」へも。

「植田」のそれを上回る程の、強烈な迄のその一撃と成る。

その打撃力と破壊力を、与え齎す事と成る。

その技を生み出す為の、技術でも在る訳だ。


爪先で「ブレーキ」を掛けた、その右足を軸に。

俺はもう一機に、その場で自分の身体を反転させた。

当初から、右利きの構えを見せて来たこの俺に。

「植田」は俺のその右からの攻撃を、もう充分な迄に警戒し。

先程から繊細な迄の、その注意を払っても居る。

こうした図体の度デカイ男ってのは、以外にも。

その実実はとても、とても繊細で在るのだ。

俺が今回のこの攻撃で先ず、右半身と成って。

自分の身体を前に進めたのには。

対戦相手で在るこの「植田」へ【罠】、【トラップ】を仕掛けるその為にだ。

間合いを活かしたその走り込みに因る、その「スピード」へと乗った。

俺の身体は。

「ブレーキ」と成ったその右軸足を基点として、もう一機に。

その勢いを失わず、左側前方へと反転をする。

この際に、勢いへ余り尚も前へ出様とする。

その自分の重心と、体重を利用して。

軸とした右足からは逆足、その【左回し蹴り】を。

俺は力強く放った。

つまりコレは「陸上競技」の【三段跳び】、その要領でで在る。


【ダッダッダッダッ…ダンッ…ダンッ…クルッ…バシーンッ…】


(○○連合観衆全員)「オワーッ…」。


「植田」の身体へ俺がブチ込んだのは、ヤツのその脇腹を狙った。

【ミドル・キック】で在る。

【左回し蹴り】のその【ミドル・キック】は、俺に意表を突かれた「植田」の。

その右脇腹へと【ヒット】、命中をした。

「植田」がその一瞬、自分の右側へと。

その身をくねらせたのが見えた。


(俺)(もう充分な手応えは在ったが…如何せんあの身体だ…特にヤツの腹は…ブ厚い脂肪へと包まれても居て…然程の痛みも…実は感じないのかも知れない…しかしもしも…効果が無かったとはしても…その打撃力と破壊力はもう…充分な迄に伝えられた…俺の繰り出した全てのその技は…今の処3種類…【ジャブ】のみが2回…その2回も…【顎】の先端と【蟀谷】…つまりはそれが一つ一つ…全く違う種類の技だ…要は「変幻自在」…今後繰り出される俺の攻撃へヤツは…その防御へもヤツは…一層と戸惑う筈だ…)。


破格の体重差が在り、瞬発力や筋力でも。

到底敵わない、そんな対戦相手へは。

自分の自重、つまりは体重とその重心移動を活かして。

それを利用をした。

「スピード」へ乗せたその打撃力を、破壊力へと変え。

充分に利用すれば良いのだ。

コレは移動速度と在る程度の運動神経、そしてそれ以前にもう何よりも。

知恵と知識と経験値。

更にはそれを知った上でこそ考える、思考能力。

つまりは知能こそが成せる、その技な訳だ。

その際に捻出をされ、繰り出された圧倒的な迄の。

その打撃力と破壊力、つまりはその【パワー】へ。

流石にこの怪物も些かは、辟易(たじ)ろぐ筈だろう。


最近「極真空手」かその分派で在る、「空手」のチャンピオンと。

元【UWF】の【前田 明日】さんが、【YouTube】の動画で。

コレを紹介して居たが。

俺はもう当時未だ、中学校の2年生。

14歳のその時に。

既にこの「慣性の法則」が引き起こす、この現象へと。

気付いても居た。

つまり自分の運動中に、その体感と直感に因って得た。

体験とその経験値から、それを理解して居たのだ。

先程も既に紹介をしたが、俺が中学生次代に。

早朝の「自主練」で行って居た、【バスケット・ボール】のその際に。

【スキップ・ステップ】と言った、走行中に同じ脚。

片方を2度踏む。

その2度の【ダブル・ステップ】と、【スキップ】とを応用した。

変則的な脚の送りで在る、その運動が。

まさにそれなので在る。


(○○連合メンバーB)「植田負けるな…頑張れ~っ…」。


(○○連合観衆の全員)「ウオオォォォォォォ~ッ……植~田っ…植~田っ…植~田っ…植~田っ…植~田っ…」。


ヤッパリ地元意識ってのは、もう何処でも一緒で。

まあ特に不良グループってのは、その意識が強ええんだなっ。

まあそれを利用したのが、地元定着型の。

スポーツ・チーム。

所謂【ローカル・スポーツ・チーム】ってのの、その在り方なんだが。


俺がどんなに、自分のその知恵と経験値。

そして知識と鍛練をし抜いた、その技で攻め様とも。

この場で自分達の「副リーダー」、副番の「植田」を応援する。

その「植田」への【Love Call】は、もう決して鳴り止む事はない。

無かった。

此処で3発目の【ロー・キック】を、ヤツの膝裏への【回し蹴り】を。

俺は狙いに行った。

流石に3発もの俺の【回し蹴り】、【ロー・キック】を。

それも的確にその「急所」で在る、膝裏へと喰らえば。

それを喰らったその脚は、この場の戦闘で最早。

使い物とは成らなく成るだろう。

俺は先ず左足を一歩前へ、そしてその左足を軸足に。

右足からの【ロー・キック】【回し蹴り】を、「植田」の膝裏へとブチ込んだ。


【ダンッ…バシュ…】


【バシッ・クルッ…スタンッ…】


(○○連合観衆全員)「ウオオォォォーッ…」。


「植田」はその場で自らの左脚を浮かせて、その脚を自分の右側へと送り。

俺の右足の蹴りのその力をも利用し、その場で一回転。

つまりは【ターン】をしたのだ。

コレには流石に俺も驚いた、コイツヘこんな身軽な芸当が出来るとは…???

その後の長い人生の中で漸く、俺も解って来た事だが。

意外と太ってるヤツでも、運動神経は良く。

その場で回る【ターン】位ならば、全くその際にバランスも崩さずに。

重心を安定させて、それをこなせる様なヤツも実は。

結構居るのだ。

要は脂肪が多いだけで、実際には。

持って生まれた「運動神経」とそれは、全く別の話。

つまりは何の関係もない訳だ。

まあ脂肪が着けばそれだけで、肩周りや足腰等の。

その筋肉は自ずと増量、強くも成る筈だろうが。


まあ最も新日本プロレスの初代、【タイガー・マスク】で在った【佐山 聡】さんも又。

現役のその終盤にはもう、結構太目には見えて居たモノだ。

俺はこのこの【佐山】さんの、現役終盤時代。

その少し以前の【佐山】さんへ。

恐らくは太り始めて居た頃の、その【佐山】さんへ。

俺が当時未だ17歳の時、この学生生活。

たった2日間の、高校生生活のこの少し後で。

まあ丁度、2年位後にだなっ。

【渋谷】の「東急ハンズ」で、【佐山】に逢っても居る。

もう空いた口が塞がらない程の、圧倒的な。

その胸板だった。

まあもう間違いなく祖先は、「遊牧民族」系の血が交ざった。

その血筋だろう。


【ドドドドドド…ドカッ…ブーンッ…ズダーンッ…】


「植田」がその場で【ターン】をしたその所為で、俺の放った【ロー・キック】【回し蹴り】は。

まあヤツの脹ら脛へは、辛うじて当たったモノの。

然程の破壊力も、そしてその手応えすらをも感じず。

放った【蹴り】のその力を、逆に上手く流された俺は。

「植田」とその場で同様に、一回転。

つまり【ターン】をして仕舞った。

問題なのは俺のその、【回し蹴り】が当たる。

それ因りも早く。

「植田」が自ら、先に回り始めて居たと言う事だ。

回転を先に終えた「植田」は、そのタイミングを狙って。

俺に【ショルダー・タックル】をブチ噛まし、仕掛けて来た。

俺はこの時初めて、この「対戦相手」で在る。

○○連合の【副番】「植田」が。

自分の作戦を自分で組み立てられる、直感系の【将軍】で在る事へと。

気付いたのだ。

そして同時に、「植田」は相当な知恵と知能を持った。

戦士なので在るのだと。

 

「植田」が発動をした、その【ショルダー・タックル】。

そのブチ噛ましは、極めて低く。

腰を折り頭を屈めたその状態で、それは俺の【鳩尾】(みぞおり)へと。

その分厚い肩をブチ当て。

その肩をズッシリと、俺の身体へと埋め込ませた。


(○○連合観衆全員)「ウオオォォォーッ…植~田っ…植~田っ…植~田っ…植~田っ…植~田っ…植~田っ…」。


【鳩尾】へ右肩からのブチ噛ましを喰らって仕舞ったその瞬間に、俺は自分の腹部を本能的に。

自分の背後へと逃がした。

打撃力を弱める、その為にで在る。

しかし【鳩尾】を捉えた「植田」の、その右肩は。

その儘俺の、腹筋のそのど真ん中へ迄に滑り込み。

【臍】(へそ)の辺りへと深く、そして鋭く突き刺さった。

俺の身体はその儘再び、自分の後ろへ。

今度はベランダ側の窓下へと在る、その低い壁に向かって。

弾き飛ばされるとは想って居だが。

しかし「植田」は敢えて、その直前を狙い。

その場で自分の脚の運び止め、更にピタリと。

その場へ静止をしたのだ。


腹部へ受けた破格な迄のその衝撃から、俺の身体は堪らずに。

前方へ「く」の字へと曲がり。

その場で止まった「植田」の背中へ、その上半身を。

自分の上体を預けた儘で、完全にヤツの背中の真上に。

乗って仕舞っている。

(俺)(しまった…)。

と俺はその時直ぐに、自分の置かれたその状況へと。

気付いても居たのだが。

「植田」は既にこの時、俺の身体を少しだけ浮かせて居て。

この状況からはもう何か、掴む物や場所でも探さなければ。

現状、自分の両脚を浮かされてしまった俺には。

その為す術すらもが無い。

「植田」は実は、この今回の攻撃で。

端からこの状況を、狙って居たのだ。

ヤツは即座に、間髪を入れず。

自分の背中へ乗せたその俺の身体を、今度はそれももう一機に。

渾身のその背筋力を屈指して、俺の真下からそれを。

丸ごと教室の天井へと向けて、勢い良く「噦り上げ」た。


(不味い)、とそう感じた俺は。

それも咄嗟に、そして本能的に。

ヤツの腰へと回されているそのベルトを、右手で力強く掴んだ。

「植田」の発揮したその度パワー、渾身のその怪力に因って。

俺の身体はその儘、それも一瞬で。

宙に舞って仕舞った。

俺は咄嗟に掴んで居た、そのベルトを。

コレも又本能的に。

それもその絶妙な迄のその【タイミング】で、掌から放し。

自分の身体が投げ飛ばされる、その放物線と。

その先の落下点を、頭へと描き。

自ら自分のその身体が落とされる、その落下点迄をも。

俺は調整する事へと挑んだ。

それも一瞬の、その間にで在る。

俺の描いた、その落下点とは。

その際この場所へ、特設リングを作るその為に。

教室の前方へと寄せられ並べられた。

俺の右側へと在った、机のその上だ。


「噦り上げ」られ次第に高く、宙へ浮かび上がり行く俺の。

その重力との、その変化へと反応をして。

ベルトを掴んだ掌や、腕肩へと掛かかり始めた。

微妙なその力の加わり方を、完全な迄に。

掌へと感じ、それ等を掌握しながらも。

宙へ浮かんだ、自分の身体を右へ大きく。

捻りながらも。

上手く掌から、その握力を調整し緩めて。

それを絶妙な【タイミング】で、自分の手から離したのだ。

俺の身体は一端勿論、宙には舞ったのだが。

「植田」のその、【ショルダー・タックル】を喰らった。

その際の立ち位置が。

運良く教室の入口から、その奥へと在る。

バルコニー側へと在ったその御蔭で。 

この場所へ開設をしたリングの、その脇へと並べられた。

黒板側へと寄せられていた、その机の上に。

空中で半回転をし落下、自分のその背中側から。

学校中に響き渡る程の、激しいその音を立てて。

俺は落下をしたのだ。


勿論机がコレも運良く、その時俺の右側へと在った事が。

確かにその、不幸中の幸いでも在った。

「噦り上げ」られるその瞬間に俺は、それもう咄嗟に。

天井へ吊るされている蛍光灯の着いた、その室内照明の位置迄をも。

俺は全て思い出して居た。

(俺)(下手をすれば彼処へぶつかる…)と、そう感じて居たからだ。

照明は2本の鉄パイプで、天井から下げられている。

その高さはざっと、2m30㎝と言った所か…???

更に植田の身長と今俺が、背中に乗せられて居るその高さ。

そして天井迄の、その高さをだ。

ざっとした感覚だけでも良い、一々巻き尺でそれを

計らなくとも。

「どんぶり勘定」でもう充分だ。

  

しかし喧嘩も戦争も、真の強者と成る。

そんな兵士達は皆。

先ず自ずと、その戦いの場所と成る。

その場の環境と状況を。

そしてその場所へと在る、可能な限りのその全ての物を。

隈無く把握し。

記憶して居る者で在るのだと言う事を。

俺はこの日の前日、あの場所で。

つまりはトイレを選んで、俺が行った。

13対1の、その喧嘩の際に。

全て学んでも居た。

記憶…???

いや記憶よりも寧ろ視覚、「視覚感覚」でそれを。

確認して措くのだ。

つまり例え頭でそれを、覚え切れなくとも。

【死地】。

命へと迫る危機感、最も危険なその状況下へと。

自分が追い込まれたその際には。

人は視覚で確認をしている、その全て映像の中から。

その場で最も必要なその情報を、自分のその命へと刻まれた。

その記憶の中から。

命のその奥底から、それも一瞬で。

それを検索し引き摺り出す、見付け出すと言う訳だ。


勿論当然、この対戦相手「植田」の。

その腰へと回し巻かれた、そのベルトの様子も皆全て。

俺は一端自分のこの眼で、それを確認をし。

シッカリとその様子を、自分のこの眼に焼き付けても居る。

そしてその場所へ在り、武器や武具として使えるモノの。

その全てもだ。

「植田」が腰へ巻いていたベルトも勿論、その内の一つだった。


そして在れから、44年の長き。

その月日が流れた現在でも。

俺の記憶の中へはその時、「植田」が腰へ巻いていた。

そのベルトの様子が。

もうハッキリと、鮮明な迄に思い浮かべられる程だ。

バックルの形やベルトの色、そしてそのベルトの太さ。

バックルから飛び出した、その帯の長さや。

表皮へと浮かんだ【皴】、擦りきれ始めた角の部分迄もの。

その一切その全てをだ。


恐らくは牛革で作られた、そのベルトは。

投げ飛ばされそうに成って、それを回避する為に。

俺が掴んでも全く、簡単には破れたり壊れたり。

掴んだその自分の手を、滑らせる様な。

そんな心配も全く、無い程のモノだ。

しかしまさか床から、3メートル近くも在る。

天井へ貼られたその石膏ボードを、自分の身体が突き破り。

其所へ自分が突き刺さる事を、回避するその為に…???

そのベルトを掴むとは。

俺ももう努々と、全くそうは想わなかった。


「植田」に真下から、自分の身体を「噦り上げ」られた。

その後で。

ほぼもう既に、空中を舞い始めて居たその時の俺は。

自分の右側へと寄せられていた、その机の上。

最も衝撃の少ないと想われるその高さから、その場所へ落ちる様に。

ベルトを離すその絶妙な迄の【タイミング】をも、自分の掌で感じながら。

そしてそれ等を割り出した、直感に因るその感性からも。

背後へ投げられ、垂直落下。

下手をすれば床へ、頭から落とされると言う事も。

全て回避し。

自分の理想的な受け身を取る為の、その体勢と。

その落下点迄をも具現化をする、その事へ。

この時成功をしている。


仮にもしも、この戦闘中に。

「植田」が得意そうな、相撲の体勢。

つまりは「四つ」に成った場合に。

俺は昭和の横綱、あの【千代ノ富士】の。

その基本型と成る。

「左前褌」(ひだりまえみつ)を、狙っては居たのだが。

しかし咄嗟に、それも左手で。

その「前褌」を取らないで、本当に良かった。(笑)

いやいや、冗談は抜きにで在る。


著者・龍神 武明

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