第52話

(おい先ずは…左から行くぞ…)とそう言った、俺の眼からのその意思表示と。

その拳からの合図、そのコンビネーションで。

そして狙わせて貰うぞと、そう言わんばかりに突き出した。

その左肩に因る、三つその意志表示とでだ。

【アイコンタクト】を含んだ無言の合図と言うモノは、本来。

自分の味方達、つまりは仲間同士のその間へこそ。

交換し合い使われる、そんなゼスチャーの様なモノだ。

しかしその場合に因ってはそれも。

自分の目の前へと居る、その対戦相手へと対し。

それをしかも逆手に取って。

相手を陥れる為にこそ、それ等を認識させる。

そんな効果へももう、もう充分に優れている。

そろそろ頃合いだなと、そう俺が考えたその瞬間。

その場へ居た観衆の内で、馬鹿の1人が。

俺達の【タイマン勝負】へ、その茶々を入れた。


(○○連合A)「おい植田~っ…あまり振り回されると不利だぞっ…龍神はお前拠り…かなりスタミナが在りそうだからなっ…」。


まあ~余計な事を。

こりゃ既に、大将同士の。

その「一騎討ち」と同じ、ほぼ同格のモノで。

【タイマン勝負】ってんだから、それを言い換えれば。

もう「一騎討ち」じゃねえかよ…???

それを横から当人でも無い、其所へ加わる事も許されない。

その第三者が。

首を突っ込み、口を挟める様な。

そんな場面んじゃねえってんだっ。

そもそもがその「首を突っ込む」ってその意味が、この「一騎討ち」。

大将同士のその決戦に、横からその茶々を入れた。

この○○連合の、まるであの馬鹿の様なヤツの。

その「愚行」に因って。

突っ込んだその首を、その逆鱗へと触れた大将の側が。

跳ねたその事から始まった、そんな言葉な訳だ。


直ぐに「植田」は、その声に反応をし。

自らのその足の動きを、一旦止めた。

どうやら先ずはスタミナを奪うおうと言った、俺のその戦略へと。

ヤツも気付いた様子だ。

俺はその瞬間を、見逃す事は無かった。

案の定「植田」のその身体は、直ぐにその場では。

止まれなかったからだ。

俺は時計回りへ送り出し続けていた、自分のその左足を。

右へ向かって振替え。

ヤツの間合いへと向かって1歩、ヤツの左側前方へと。

前進を完了した。

その瞬間に右からの【ロー・キック 】、つまりは1発目の【回し蹴り】を。

それももう間髪をも入れずに。

渾身の力を込めて、躊躇なくそれを撃ち込んだ。


【バシーッ…】


(A組生徒全員)「オオッ…」。


(○○連合A)「植田っ…大丈夫かぁ~っ…植田~っ」。


(A組生徒全員)「植~田っ…植~田っ…植~田っ…植~田っ…植~田っ…」。


「大将同士の一騎討ち」、それが「一騎討ち」で在る以上。

本来その場へと居る周囲の者達が其所へ、参戦をする事はもう決して。

許されない。

声に因るそれが、応援のみで在るのならばまだしも。

自分が応援をする側への、何等かの気付きの為の。

そのアドバイスも本来は、極めて「無粋」なモノだ。

要は物を知らない、幼稚な者達はこの。

「一騎討ち」と言うモノの、その崇高な迄の。

その決着の在り方を、全く解っては居ないのだ。

増してや今俺は此処へ、それもたったの1人で。

この場へ居るその全員と、対戦をして居るのだと言った。

その状況もまるで、全く考えずにだ。


ましてやそれが只の観衆、寄って集って等の。

直接的には手を出さない、そんな者達では在ったとはしても。

多勢に無勢へ囲まれて尚も、その場からは決して逃れられない。

そんな戦いを強いられた、その時の俺に執っては。

その総数、総勢から感じられる。

その威圧感と気迫。

重苦しい迄のその重圧感から成る、その力は。

もう相当なモノで在ったのだと、言う訳だ。

要は俺の相手で在る、この○○連合の連中は…???

一体何人居るんだって、その話だが。

俺はそれでも全く、一歩も退かずに。

その場へと漂う気迫と威圧感、そして重圧感をもう一機に。

一喝をして跳ね飛ばした。

俺の最も最強の、その武器の一つは。

産まれながらに、この命へと備えられ齎された。

その大声。

つまりは地声の、そのデカさが在る。


(俺)「おうっ…今のは相当に効いた見てえだなっ…んじゃ~今度は2発目を…何処へ喰らわして遣ろうかっ…???」。


(植田)「……………」。


(A組生徒全員)「……………」。


その際その場所へ居た、全ての者達が。

一斉に静まり返り、一斉にその息を飲んだ。

俺の大声は本当に、自分自身の脳を破壊し。

一旦本気で出したその後には、自分の頭が痛く成る程のモノだ。

まさに破壊的な、その爆発音。

そのモノなので在る。

「植田」は沈黙を続けながらも、自分の身体を。

その体勢を起こした。

俺に喰らった【ロー・キック】が、それ程でも無いと言ったその様子で。

負傷をした筈の、その自分の左足で。

敢えて足踏みを繰り返して居る。

しかし今の【蹴り】へはもう、それも相当な迄の。

その手応えが在った。

俺の右足のその【回し蹴り】は、もう見事な迄に。

ヤツの左膝裏を、その外側から捉えた。

【膝蓋骨】(しつがいこつ)の少し下、丁度間接の

そのど真ん中。

所謂急所と言われる、その部分へだ。


この場所へ破壊力を伴いながらも、命中をしたその【蹴り】の威力は。

間接と共に靭帯へも、大きなその痛みと。

下手をすればその靭帯や、軟骨迄もの損傷を。

齎し兼ねない。

一瞬「植田」が、その表示を歪めた。

相当に効いた様子だ。

俺も自分の足の、その甲が痺れる程の。

その充分な迄の手応えを、感じても居た。

動きを止めたヤツの、その様子を観て。

即座に俺は、2発目の【ロー・キック】を。

今度は自分の左足で、1発目のその【蹴り】が入った。

ヤツの同じその左膝へと、迷わずに放った。


【バシーッ…】


(A組生徒全員)「オオッ…」。


重々しくも鈍い、そんな手応えが在った。

先程の蹴りは膝の外側から、今度は膝の内側からだが。

【膝蓋骨】(しつがいこつ)の些かその上の部分、それでも膝裏の急所へは程近い。

その場所を的確に、俺の【回し蹴り】は捉えた。

しかも決して悪くはない、腕も脚も外側より。

内側の方が、その作りも弱く。

そして衝撃を喰らった後のそのダメージと、その後の痛みも極めて。

大きなモノと成るからだ。


既に1発目の【蹴り】で、ヤツはかなりのダメージを負って居る様子だ。

同じ場所を何発も、立て続けにけに攻められるのは。

その場所へ相当な迄のダメージを、蓄積させて行く。

最初の発動で、つまりは1発目の【蹴り】で。

膝間接やその周辺の靭帯へ関わる、その損傷で。

特に大きなそのダメージを、受けて居たその場合。

2発目3発目のその【蹴り】が、例え膝間接へは直接命中をし。

当たらなくとも。

その際に受けるその衝撃だけでも、充分な震動に因るその痛みが。

伝わている筈なのだ。

膝ってのは特に、まあスポーツや。

普段の生活も含めて、特にこうした戦いのその場合には。

もう極めて大切なモノだ。


特にこの図体のデカさ、そしてこの体重では。

膝へ掛かるその負担は。

只それが歩くだけでも、並々成らぬモノ。

相当なモノの筈だ。

増してや骨や間接、或いは靭帯等を痛めれば。

それが少しでも、充分な負担負傷と成り。

蓄積すればかなりのその痛みへも、当然繋がって行く。

「植田」はその場で動きを止めた、自分の両膝へ。

両手の掌を当て、前傾姿勢と成り。

その儘首だけを上げて、此方を睨んで居る。

表情は全く変わらずに、眼からのその眼光は更に。

未だ負けじと、そして一層と強く。

そう輝いても居る。


まあ今に成って振替って見ても、もう俺は自分このその人生を根刮ぎ。

この時に全て棒に振った様な、そんな2日間で在って。

それが例え別の地元の人間達の、そのプライドを掛けた。

○○連合の地元での、その喧嘩だったとはしても。

その後44年の、その歳月が過ぎ去った今も尚。

この現在でも結果的に、絶大な迄のその被害を被ったのは。

寧ろ俺の方で。


誉めて遣る気等はもう、端から更々。

全くせんのだが。

この15歳の春、俺がこの高校を。

自主退学をするその際に。

自分の胸へと誓った、その想いは。

ならば俺はこの自分の人生を、誰よりも楽しく。

そして有意義に、又面白く。

波乱万丈に生きて遣るのだと。

そうそんな想いで在り。

更に死ぬ迄のその間に、自分のしたこの希少で希有な。

全てのこの体験を。

この経った2日間の、自らのその。

高校生活で起きた、その総ての出来事も。

当然皆含めて。


その後の俺の人生を、総て総括し。

一つの物語として、小説にして遣るのだと。

そう想って居たので。

まあそれが今本当に、こうして実現し。

この場を借りて、書いても居るんで。

寧ろそれで、良かったんじゃねえのか…???

貫き通し決して譲らない、そんな俺の人生ってのは…???

そして未だ未だ、全く完結もしてねえんだし。

只1つだけ、遂げられなかったその想いは。

今はもう無き、自分の両親達へ。

全く親孝行が、出来なかったの。

只それだけだなっ。

胸につっかえた、その想いってのは。


(生徒全員)「植~田っ…植~田っ…植~田っ…植~田っ…植~田っ…」。


著者・龍神 武明

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