第51話

(A組生徒全員)「植~田っ…植~田っ…植~田っ…植~田っ…植~田っ…」。


俺は「植田」のその身体を軸に、ヤツの右側。

自分の左側へと、ユックリと回り始めた。

左足を前へ、右足を後ろへ。

ヤツへ対し、身体の左半身を向けながら。

左そして右と、両足を一歩づつ。

自分の左側へと送り続けた。

先制攻撃の為にで在る。

1発目のその【ロー・キック】を、自分の右足で放ち。

狙いと成る相手のその左膝を、寄り近くへ迄に誘い込み。

一撃でヤツの膝を仕留める、その為にだ。

 

しかし「植田」は俺のその誘導と、誘い込みのその動きへ。

全く乗っては来ない。

その場で四股を踏んだ、その姿勢でピクリとも。

全く微動だにはしない儘だ。

流石この東京でも、指折りの大きな区。

それも新興住宅地の、不良連合。

その不良連合を束ねた、連中の副番を張るだけの。

男では在る。

それとも喧嘩へヨッポドの、その自信が在るのか…???

終始ドッシリと構えた、その態度で居る。

即座に俺はそれももう、全く休まずに。

その儘ヤツの間合いへと、自分の脚を進めた。


此処で俺はそれも一変をして、「臨機応変」な。

その作戦の変更を行った。

左から先制の「威嚇射撃」、当たらずともその後へは。

確実な脅威と成る。

【ジャブ】を打ち込むその為にだ。

ボクシングの【ジャブ】へは、威嚇と撹乱。

そして誘導と防御。

更に連続させた場合の、そのダメージの蓄積と言った。

そんな効果迄もが在る。

勿論この【ジャブ】の延長線上へは、【左クロス・カウンター】等の。

KOパンチも当然、含まれてはいるモノだ。

「左を制す者は…世界を制する…」とはまさに、良い得て妙。

【モハメッド・アリ】はそれを、本当に良く言ったモノだ。


間合いを詰めて、「植田」がその俺の。

「射程距離」へと入ると。

俺は1発目の【ジャブ】を、渾身の力を込めてのそれを放った。

ヤツは自分の右腕で、それを交わし。

俺の伸ばしたその拳へ、自分の右腕の甲を当てて。

それを跳ね除けた。

しかし充分な、その手応えは在った。

その後も俺の拳が、未だ痺れても居る。

ヤツの腕も又、俺と同じ様にそうだろう。

いや寧ろ固めた拳に因る、その一撃を喰らった。

「植田」の腕の方が、痺れている筈でも在る。


【ブルンッ…】


案の定「植田」は、自分のその右腕を振った。

更に俺はヤツの左から、2発目の【ジャブ】を放ちに。

今度は更に、その移動速度を速め。

直ぐに前へと出た。

「植田」は俺の右側へ動いた、更に俺は2発目の【ジャブ】を放つ。


連続して放たれる、その【ジャブ】は更に。

その【ジャブ】そのモノの脅威を、倍増し。

高める程のモノだ。

そして左右その両側から、続いて繰り出される。

【ストレート】や【フック】、或いは【アッパー・カット】等の。

総てのその変則技や、通常のそのパンチの脅威迄をも。

自ずと高め、引き上げてもくれる。

だからこそ先ずは、【ワン・ツー】。

そして【コンビネーション】と。

複数のパンチを屈指して、繰り出すその技術を。

「ボクシング・ジム」では教えるのだ。

「植田」は後ろへと逃れ、2発目の【ジャブ】は空を切った。

俺は更に、間髪を入れずに。

その間合いを詰める。

「植田」は再びの、俺の【ジャブ】を警戒し。

漸く俺の時計回りのその動きへと、自分の身体の動きを合わせて。

その場で回り始めた。


1発目の【ジャブ】は避けられ、ヤツの腕へと当たったが。

どうやらその衝撃力に因る効果は、もう充分に在った様だ。

まあコレは俺も端から、あんまり好きじゃねえんだが。

「鳴かぬなら…鳴かせて見せ様時鳥…」、ってヤツだ。

一端始まっちまった、その喧嘩や戦場では。

例えそれが、自分の嫌いなタイプの。

戦術や攻撃でも。

可能な限り、それを使用する事を。

俺はお薦めし様。

「敗北」をすればもう当然、その戦い自体へ。

何の意味も無く。

仮に許される範囲での、悪義を働き。

例えば勝ったとはしても。

勝ったその後で反省や、或いは自分のその在り方を。

改めるのか…???

それでも通らなければ、その場での勝敗を棄て。

両者その引き分けを、促せば良いだけの話だ。


それに喧嘩や戦争は、下手をすればその場で。

自分や大切な人の、その命さえをも落としかねない。

極めて過激な、そんな状況下の。

モノでも在るからだ。

生きて居続けてこそ、成功も幸せも。

伴に訪れるモノだ。

そしてそもそもが喧嘩や戦争に、御法度。

反則や薄汚い手等は、端から存在をしない。

つまりは相手がそれを、使うかも知れないのだと言う事を先ず。

深く認識をして、居なければ成らない。

まあだとしてもコレ等の事を知った上で、両者五分と成る。

最後のその落とし処を、付けれる者こそが。

極めて優れた、その兵士なので在り。

【参謀】や【軍師】、又はその【大将軍】でも。

在る筈なのだ。


まあ良いや、この際一旦自分の頭で良く。

考えて見てくれ。

良い機械に成る筈だ。

しかしそれにしてもどう観ても、それも一般的に。

身体測定で使われている、その体力測定方法。

「反復横飛び」が、苦手で在ろうと想われる。

この男のその体形を観て。

先ずは自分の脚を使った、その戦法戦術で。

対戦相手のこの「植田」の、そのスタミナを奪おうと言った俺の作戦は。

どうやらもう、正解だった様だ。

この動きを続けながらも、その儘ヤツのスタミナを奪い。

疲労困憊をさせ、疲れさせて仕舞うか。

或いはヤツが動きを止める、そのタイミングを見計らって。

俺はヤツの、その左膝を狙うつもりだ。

「植田」はそれに気付いては居ない、俺が自分の右側から。

攻めて来る筈だと。

そう想い込んで居て、それを警戒し。

俺と同じ向きへ、つまり時計回りへとドンドンと。

動き始めた。


俺は徐々に、その速度を速めた。

回転の速度を速めれば速める程に、コレだけの体重を支えている。

そのヤツの身体は。

最早決して、それも一瞬では。

その場へは止まれなく。

俺は更に、その移動速度を速める。

更に加速をした、その動きの中で。

ヤツのスタミナも同様に、激しい迄の。

その消耗をする筈だ。


人はシュミレーションを行える生き物だ、行ったシュミレーションを終えたその地点で。

既にその運動へ必要な、13%迄もの筋肉が。

その細胞内で育ち。

その成長を完了するのだとさえも、そう言われてもいる。

勿論スポーツや格闘技、そし武術や。

アラユル戦術迄をも含める。

そして更に、総てのアラユル作業迄をも含んだ。

つまりは総ての、その物事と事象へは。

其所へそれ成りの、確実性を産み。

安全性や安定性迄をも産み出す、その手順が在る。

まあ仕事の前の、その「段取り」ってヤツも含めてだ。

この自分の頭の中へと叩き込んだ、繰り返しと言うその動作や手順も。

「仮想現実訓練」、所謂シュミレーションでも在る。

【Virtual reality training】(バーチャ・リアリティー・トレーニング)で。

全ては自分の身体へと、染み込ませて。

それを記憶させる。

反射的動作やその習慣としても、身に付ける事が可能で在り。

それをマスター、覚え込ませて仕舞う事も又。

出来るモノなのでも在る。


肉体労働迄をも伴う、全ての作業や片付け。

或いは整理整頓。

スポーツや格闘技、或いは武術や。

そして例えそれが、戦争の際に行う。

その戦闘戦術でも。

一端自分の身に付いた、その習慣や。

反射神経やその直感から産まれる、その身体の反応も皆全て。

自分の頭の中へと叩き込まれた、そのイメージに因って。

捻出をされ繰り出される、モノで在るからだ。

俺は前日の晩、コレ迄の自分が。

この学校内で遂行をして来た、全てのその作戦と。

又同様に。

この図体の度デカイ怪物、「植田」とのこの対戦へも。

それももう何度も、「仮想現実訓練」。

所謂そのシュミレーションでも在る。

【Virtual reality training】(バーチャ・リアリティー・トレーニング)を、こなしても居る。


戦闘が開始されて、既に約1分余り。

「植田」はもう、自分のその息を。

切らし始めても居た。

自分のその息と呼吸を、ハアハアと荒げ始めて居て。

既にその眼さえもが、些か虚ろに成り始めた。

様にさえも思える程だ。

まさに俺の描いた、その作戦の通りだ。

この瞬発力の化け物へは逆に、その持久力が。

もうまるで無い。

体形と言うモノはその個人の、身体能力のその在り方を。

実に如実な迄に、表す筈のモノだ。


(A生徒全員)「植~田っ…植~田っ…植~田っ…植~田っ…植~田っ…」。


荒がる呼吸こそは、この騒ぎの中で。

全く俺の耳へは、聞こえなくとも。

次第に開かれて行く、「植田」のその口元が何よりも。

その事を示してもいる。

俺は左から【ジャブ】を狙うぞと言った、そんな意思表示の構えで。

敢えて自分の拳を、些か身体の後ろへ。

そして左肩をヤツへと向かって、前に突き出した。

その姿勢を取った。

そんな俺の体勢と、その姿勢の様子を観て。

ヤツの眼は更に。

其所へ追加をした、俺の眼の表情から発する。

その同じ、意志表示と共に。

左拳と眼光とのその左右を、交合に注視し。

既にさ迷い始めてもいる。


著者・龍神 武明

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