第28話

(俺)(俺の前蹴りのその威力だけではなく…実は俺の後ろの…自分の背中を着けたこの壁と…BARへ在るカウンター椅子の様な…小便器のその形が…俺の全てのパワーを…倍増させてくれている…それからこの両サイドへと在る…この衝立てなんだけども…此所での今のお前等に執って…一番手強く厄介なのは…実はこの衝立なのかも知れねえなっ…)。


素人相手に使う、【ストレート・パンチ】の連打は。

その1発目を、的確に命中させると。

後はもう2発目3発目と、もう面白い様に当たり続ける。

打突系格闘技を応用した喧嘩、得にそれが。

【ボクシング】等の【パンチ】で在る場合は。

素人が相手ならば、【ジャブ】と【ストレート】の直進型。

つまりはその【ワン・ツー・パンチ】のみでももう、

もう充分な程だ。


ボクサーは相手に決して、自分を狙わせない。

狙わせないその技術を、持っているからだ。

そもそもは其所からがもう、全く違う。

だから格闘技ってのは、面白い訳だ。

勿論それは一瞬の、反射神経を促す。

その直感力で在ったり。

又は天性的な、動体視力で在ったり。

【ダッキング】や【スウェイ】や【サイド・ステップ】や。

頭を上下左右、又は横へと振り動かす。

技術で在ったりと。

それももう、その場面に因って様々。

色々で。

そして在る意味又、それも無限に在る訳だ。


まあ基本的に、動き続けているモノと揺れているモノ等は。

なかなか上手く、その的を絞れずに。

狙い難いモノだ。

この狙わせない技術を、最大限に利用したボクサーが。

【モハメッド・アリ】や【シュガー・レイ・レナード】、そして【トーマス・ハーンズ】だ。

特にこの1981年、世界統一ウエルター級タイトルマッチで行われた。

【WBA】世界チャンピオンの、【トーマス・ハーンズ】。

その戦績で32戦32勝30KO無配の、当時22歳と。

【WBC】世界チャンピオン、【シュガーレイ・レナード】

戦績は31戦30勝21KO1敗 25歳、この2人の闘いは。

その熾烈を極めた、ボクシング史上最もその見応えの在る。

名勝負で在るのだと、そう言って良い。

そもそもがこの、対戦成績が凄いモンなっ。

【ハーンズ】の方が【レナード】よりも凄い戦績だが、【ハーンズ】の所属する【WBC】よりも。

【レナード】の所属する【WBA】の方が、所属選手の多い団体でその層が厚い。

つまりは【レナード】も、この地点でも全く負けては居ない。

彼等は皆、その撓やかな身体とフットワーク。

つまりは脚を使い、見事な迄にそれを成し遂げた。


そして素人は、【パンチ】を避け様として。

例え身構えて居ても。

視覚で捉えたその攻撃へと対し、的確に反応対処出来る事は。

もう極めて少ない。

コレもう極めて条件反射へも近い、防衛本能のその為せる技だからだ。

つまりその本能的な反射神経からそこ、産まれるその反応なのだからだ。

 

喧嘩や格闘技では、どちらかと言えば寧ろ。

自分の視覚のみへは、決して頼らずに。

全体をボンヤリと観ながら、自らの反射神経を解放するのだ。

後は瞬間的な身体の持つ、その反応へ全てを。

任せるべきだ。


暫しの間に続いた、硬直状態のその後で。

今度は前方へ2人が、俺の正面を固めて来た。

連中も全員が、馬鹿だって訳じゃない。

中には頭の切れる、そんなヤツだって。

当然居るには居る。

1人を蹴りで押し戻しても、もう1人が入って来る。

連中の作戦へも、変化が出始めた様だ。


俺は自分の両サイド、衝立ての向こう側へと居た。

左右の1人つづへと向けて。

自らの眉間の上で握っていたその拳を、肘を伸ばしなから。

大きくユックリと広げると、一端それを引き戻し戻して。

再び左右へ居た2人のその顔面へ迄に、それを又一機に伸ばした。

スライド式のドアーを左右に押し開く、その様にで在る。


こんな状況下で逆に、目の前でユックリと起こる。

その動作へ。

大概の者は当然、逆に驚くモノで在る。

そして驚いたその際の意識が、解放され。

安心感へと変わったその瞬間に、そこへこそ油断が生ずる訳だ。

一端突き出された腕と、その拳が引き戻されて。

再び突然顔面へ、突き伸ばされた時。

人はその受け身を、簡単には取れないモノだ。


伸ばした拳は左右へ居た2人の目尻、その顳顬を捉えた。

眼・鼻・口のその周りは、それが相手が素人で。

グラブを着けない、拳のパンチで在るのならば。

当たればもう当然、最もその戦闘意欲を失う。

そんな場所でも在る。

俺の拳を浴びた2人はその場から、後ろへと一機に後退り。

後退をして行った。


特に急所を狙ったと言う打撃攻撃等ではなかったのだが、運良く俺のパンチは。

最も良い場所を捉えた。

先ずは左右の2人を、俺の側から退ける。

俺の真正面、前に出て来た新たな2人へ。

その後に特殊な攻撃を、仕掛けるその為にだ。

その為の魔術的な不意打ちパンチを、俺は使ったのだ。


特殊な攻撃を仕掛けるその為に一旦、その際両サイドへ居た2人を。

先に後方へと退けたのだ。

前からは2人の不良達がドンドン、俺に詰め寄って来た。

俺は両サイドへと在る衝立てを掴んで、器械体操の選手が平行棒のその演技で。

自分の身体をフワリと宙へ浮かせる、その様に。

その場で飛び上がった。


一端両脚を、自分の身体の胸元へ勢い良く引き込んで。

引き込んだその両脚を今度は、一機に前へと突き出した。

まあ要はこの状態で、両サイドへと在った。

陶器製の衝立てを利用した、【ドロップ・キック】なので在る。

伸ばされた2本の脚は、正面2人の胸元へと命中をし。

2人共に、その自分の背後へと在る大便室へ。

まるで吸い込まれるかの様に、飛ばされて行った。


【バコッ】

(不良CとD)「オワーッ…」

【ガシャーン…】


この【器械体操式ドロップ・キック】は、俺の正面へと立ったその2人を。

一辺にを跳ね退ける、そんな方法は無いかと…???

考え始めた直後に思い浮かんだ、そのアイデアだった。

しかし向こうももう必死で在る、間髪を入れずに左から又2人が。

俺の腕を掴んだ。

漸くこの場所が持つ、自分達に執っての。

その最大の問題が、解り始めたらしい。

俺をこの人が意図的に、作ったと言う訳でもない。

無意図な人工物で在りながらも、天然の作りのその要塞から。

引き摺り出そうって、その魂胆の様だ。

再び俺の正面へは、入れ換わった2人が。

俺に詰め寄って来る。

俺のその【器械体操式ドロップ・キック】を見た2人は、身体を些か屈めながらも。

俺に迫って来る


俺は今度は前方と右側の相手へ、自分の意識を集中し。

大きく自分のその腰を落とした。

前からの相手へは身体を屈め、両腕の脇を絞めて。

まあ所謂「チョーパン」だなっ。

その頭突き技と肩との体当たり、つまりはヘット・バットと。

更にはショルダー・タックルで。

正面へ居る2人を、相手を退けて。

その勢いで弾き飛ばすつもりの、その体勢をだ。


少年時代、それも小学校。

既に1年生位から。

喧嘩の世界へとのめり込み。

其所へ入り込んだ俺や、俺の地元の連中達とは。

全く違って居て。

恐らくは中学や、この高校でのデビューの。

この学校周辺。

この学校の周囲のその地元の連中は皆、腕っぷしもそれ程迄には。

強いモノでは無かった。

要はつまりそのスタイルから、不良の格好へと憧れて。

髪型やその服装から、不良と成った。

そんな連中の様だ。

俺達渋谷の子供達は違う、格闘技や【ブルース・リー】へと憧れて。

それを実践しても来た。


俺の両脇下、その両サイドへと在る。

衝立てのその高さは、丁度鳩尾(みぞおち)程で。

この高さで腰を落とした俺の身体は、当然その衝立てが邪魔と成り。

そうそうそう簡単には、引き上げる事も出来はしない。

つまり簡単に言って仕舞えば、この連中まだまだ。

腕力が弱いのだ。


更に俺は頭を使って、俺の左側から。俺の身体を強引に引き上げ。

引き摺り出そうとする、その連中2人の側の。

陶器の脇へ在る衝立て下へ、開いているその隙間の部分へ。

自分の左足を、膝から差し込んだ。

要は自分の身体をその場所へ、左右のその衝立てを利用して。

脚と膝で施錠、ロックをした訳だ。


【バリバリ…バツバツバツバツ…】

破かれていたワイシャツの、その残りのボタンが。

もう一機に引き契られた。

まあもう端から、始まる前から。

それは覚悟をしていた事でも在る。

左側へ居た2人は案の定、俺を引き摺り出せずに。

手子摺って居る。

シャツを引き契られた事で、俺の眼の色が変わった。

一変をして、「怒髪天を衝く」その怒りが。

俺を支配したので在る。


こう成るともう、元々眼の大きなこの俺は。

相当な気迫と、その威圧感で。

度迫力の、その表情だったろう。

「一進一退」、俺の全身全霊を掛けた。

その集中力が、一機に燃え上がり始めた。

それもその筈、何たって13対1だ。

しかも未だ15歳の、高校1年生がで在る。

俺はその時「死地へ居た…」と、そう言ったとはしても。

決して過言ではない。


そんな俺の様子を、その場へ居た全員が強く感じたのか…???

一瞬にしてこの場所のその周囲の動きが、全て静止した。

俺自身も感じて居たのは、その場所を張り詰めた。

驚くべき程の緊張感で在る。

俺は喧嘩を続けながらもその際に、周囲の状態。

今の状況と戦況を、全て確認し始めた。

この時の俺はそれも、不思議な事に。

自分でも驚く程のユトリと、その余裕の様なモノを。

持ち合わせて居たのだ。


「心・技・体」。

どんなに鍛え上げられた身体能力を持つ者で在っても、その場での心の在り方とその状況下で。

萎縮をしてしまったり。

余りにも過剰な緊張感へと、飲み込まれて居たり。

不運やミスを予測予感して自らの、その気持ちと。

その精神の舵を、取り損ねれば。

時に自分の知り得る、自身の能力迄をも。

全て飛び越えて。

最大限迄に発揮される筈の、人間の潜在能力は。

自分が気付かぬその内に、その発動迄をも。

押さえ込んで仕舞うモノで在る。

つまり非常な迄に心と脳、思考とその精神とが。

リラックスをしている、その時のみにこそ。

己が想ってもみなかった、その場での瞬発的な。

自らの成長迄をも兼ねた。

そんな能力の覚醒が、齎されるので在る。


そう、何故かこの時の俺は。

自分でも強く、それを感じて居たのだが。

まるで自分自身が、別人の様だったと。

その後あの時に、俺の命の中へと現れた。

その別人としての人格や、その能力は。

暫くの間、全く現れては居ない。

そしてヤッパリ俺は、あの時。

自分の前世の、その記憶を取り戻し。

覚醒をして居たに、先ず間違いはないのだ。


著者・龍神 武明

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