第13話

しかしその当時の俺が8ミリ映写機で視た、「三節棍」の使い手その名手・達人は。

確か女だった様な、そんな記憶が在る。

それでもその節から節へと繋げられた、棍棒の長さ。

それを振り回す全身から、腕と武具を伝って更に。

三つの繋ぎ合わされたその棍棒から、産み出される爽快な迄の遠心力と。

振り回された際に最もその破壊力を産み出す、棍棒の先端のその速度。

攻撃の為のその範囲や半径のみを、取って見たとはしても。

この「三節棍」こそが中国式武具、その最強の武器で在る事に先ず。

先ずもう間違いはない。

それでも天井の低い室内や、或いは障害物が多い森林。

林の中等では。

この「三節棍」よりも寧ろ、【ブルース・リー】「オリジナルの双節棍」。

所謂【ブルース・リー】の得意とする、【ジークンドウ式ヌンチャ】の方が。

最も理想的な、その武具なので在るのかも知れない。


言われて見れば主に、室内や路地裏での。

そんな戦闘シーンの多かった、【ブルース・リー】の映像と演技に。

「三節棍」と言うあの武具を、好んで使用したその姿を。

俺は視た記憶が無い。

当然の事ながらも人へは又各々に、得意或いは不得意の。

その各種目も在りな訳で。

【ブルース・リー式】「双節棍」、【ジークンドウ式ヌンチャク】では。

神業を魅せる【ブルース・リー】も、実は「三節棍」は。

苦として居たのかも知れない。


武具を使い別けるその知恵や知識としても、正確には激しい。

そのパァフォーマンスが可能な野外や。

障害物の少ない室内で、しかも一機に。

大人数を相手にするその際には、「三節棍」を。

逆に自ずとそのパァフォーマンス規模が、限られて仕舞う様な室内。

或いは障害物等の多い狭い場所や、狭い路地裏等の空間と言った。

そんな場所では「双節棍」を。

或いは【ブルース・リー式】の「オリジナル双節棍」、つまりは【ヌンチャク】をと。

その都度巧みに使い別ける事こそが、最も理想的で在るのだろう。


しかしどう考えて見てもやはり「双節棍」撚りも、「三節棍」をマスター出来た者こそが最強で在る筈だ。

持ち前の本能とその直感で、その事へと気付いた俺は。

「中国式の武具が欲しい…」と早速、親父へと頼み込んで見た。

親父は即座に俺の願いを聞き入れ、その場で財布を開き。

5000円札を1枚、俺に手渡してくれた。

「えっ…???こんなに沢山は要らないよ…」と。

当時の物価から考えて見ても未だ、小学4年生の子供が手にするには。

5000円は途方もない程の、その大金で在る。


特に俺の場合、親へ小遣いを甚振(せび)ったり。

買い物を強請(ねだ)ったりと言う事を。

通って居た筈の高校を諦めて、社会へ出る迄の間にも。

殆ど全く、した事がない。

そうして又そんな自分在り方を、自身の信条として居た。

小学生がだぞ、しかもコレ本当の話だぞ。

俺はそんな無欲な、無垢な子供で在った。

自分で言うのもなんだけど、誰も言わないから自分で言った。

「それじゃあお釣が在ったら…その分は返すね…」と。

手にした5000円札を固く握り締め、握り締めたその手を又シッカリと。

ポケットへと入れて。

道玄坂の百軒店へと俺は軽快に、自分のその脚を運んだモノだ。


道玄坂百軒店の中へは、一軒の武道具屋が在る。

既に何度もこの店へ下調べに通って居た俺は、此処へ自分の目当てで在る「三節棍」が。

置かれてはいない事も、当然もうそれも充分に熟知をして居た。

【ブルース・リー】の人気が大爆発をしていたこの時代、未だ都内の武道具屋で「三節棍」を販売している。

そんな武道具屋は殆ど無かったのだ。

新宿の在る店には確か置いて在る筈だと、この百軒店内の武道具屋の親父も。

俺に教えてはくれたのだが。

用心深くシッカリとした性格だとは言え、未だ小学校の4年生。

土地勘の無い新宿へと向かい、自分の身の安全に自分自身で。

果たして保証が出来るのかどうか…???

その辺りは未だ、当然俺自身も些か疑念だった。


「ヨシッならばコレも又…何かの縁だろう…」と、子供ながらに口マセガキだったこの俺は。

大人びた言葉を使い、自分を納得させたモノだ。

しかしその結果、俺が手にした「ジークンドウ式双節棍」。

つまりはその【ヌンチャク】こそが。

実は道行く人も多く、練習場所も極限られてしまう。

そんな都会の少年には、とても適して居た。

素晴らしい武具なので在った。

その後4年生の冬から5年生6年生の、小学校卒業と成るその終わり迄。

そして中学生に成ってからも俺は、その実・実に約3年間。

学校から帰ると俺は直ぐに、【ブルース・リー】顔負けの【カンフー・アクション】と。

このヌンチャクの練習を、連日し続ける事と成った。


俺が買い物へ行った渋谷百軒店内へと在るその武道具店には、当時2種類の【ヌンチャク】が措かれていた。

1つは繋がれた棍棒の部分が8角形の、柏ノ木で作られたモノ。

コレは【ブルース・リー】の持つ黒塗り、恐らくは漆塗りのモノの筈だろう。

円柱形の棍棒を繋いだモノとはかなり、そのタイプが違う。

店の店主へ許可を得て早速それを、外で振り回しては見たが。


初めて【ブルース・リー】の映画を視た、この前年のその年暮れ。

12月のその終わりに。

俺は【ヌンチャク】を手に入れる事を既に、自分で決めても居たのだ。

計画ではその後の正月へ貰う予定だった、御年玉を全て溜め込んで。

先ずその全額を直ぐに、親に渡す事を。

そうして信頼を得て措けば、自分の欲しいモノを買いたいと。

そう言い出した際にも、反対される事はない筈で。

そう例えそれが中国式の武具、武道の達人が使う。

未だ当時10歳、小学生4年生の子供が扱うには。

危険な代物でもだ。


自分で言うのも何だが俺は非常に賢く、いよいよ訪れる。

自分の望むその交渉の段階には。

既に自分が優位な立場と成って居る事を、予め想定し。

それ迄は自分の我が儘な姿や要求を、決して簡単には見せはしない。

当然の事では在るが、交渉の段階へと望む。

その際には。

先に先手を打って相手へ貸しを作って措いた方が、俄然有利だからだ。

俺は世界中で今も尚、世界のリーダー達が行う。

そんな外交交渉術と全く同じその手段を、既に小学生の段階で使い始めて居たと言う訳だ。


外交戦術の鉄則とは先ず徹底的に、相手国側のその弱味を握り。

机の上では笑って満面の、その笑顔を見せながらも。

机の下では其処へ在る、相手の脚をけとばせと。

「おいおいっ…此方はアンタの弱味を握って…知ってるんだぜっ…」とそう言って。


その為にも交渉成立迄の間へは、普段から俺は自分のその両親の弱味を探り。

探し続けても居た。

まあ単純に言って仕舞えば、それは日常生活の中で起きる。

各種のミスで在る。


例えどんなに立派な人間でも、このミスだけはもう必ず犯す。

人間はミスを犯す、そんな生き物で在るからだ。

そして自分の行動へは逆に、普段よりも慎重に慎重を重ね。

更に相手がミスを犯したその際には、直ちに貸し一と。

シッカリとそれをカウントするのだ。

見たぞ見たぞ~と、そう言わんばかりにだっ。


コレは交渉の場合のみ処か喧嘩や戦争、そして駆け引きや勝負事へも通ずる。

その鉄則でも在る。

こうして腹を括り、土俵へ向かいその場へ立つ側と。

何も知らずにその同じ土俵へ、立たされてしまって居る側とでは。

常に監視をされていると言う、その緊張感からも。

引き起こされるストレスが、もう格段な迄に違っても来るのだ。


その事を特に勉強した訳等では無く、特に誰かか教わったと言う訳でも無い。

しかし自らのその直感からも、俺は既に。

その事を悟っても居た。

まあそんな戦術へも長けた、俺では在ったが。

処がこの【ヌンチャク】ってヤツを皆始めに、その振り方を知らねえってんで。

其所を間違えてて全く、中々上手くは。

上達出来ねえんだなコレが。(笑)


俺が始めに観た、【ブルース・リー】の映画は確か。

「ドラゴン怒りの鉄拳」だった筈だ。

俺はその予告編を、11PMか何かの。

深夜番組で視て。

その週末に映画館の前へと、それも早朝6時から並んだ。

【ヌンチャク】の振り方ねえ~っ、んじゃソイツも此処で一つ。

教えて措くとするか。


難しいのは始めに振り始めるその方向で、そこを間違えるともう。

もう何度も何度も自分の頭、主に後頭部を。

激しく打つ事と成る。

俺も始めはそれももう、相当~な回数で。

もう何度も何度も。

自分の頭、その後頭部を叩いて居た。

それでは著者、【龍神 武明】に因る【ジークンドウ】。

【ブルース・リー式】「オリジナル双節棍」、【ヌンチャク】指導と。


この【ヌンチャク】の使用技術で最も難しいのは、

自分の身体の左右で交合に。

それを回す事で在る。

それには受け取る側の掌のその場所と、その際の姿勢。

その受け取る手のその位置を、先ず自らの身体へ染み込ませる様に。

身体で覚えて仕舞わなければ成らない。

始めにイキナリ振り回しながらも、それを受け取る練習をする撚りも。

先ず最も受け取り安いその姿勢と、受け取る掌の位置を。

身体で染み込ませる。


それにはその際の姿勢、体勢となるその【ポーズ】を。

先ずシッカリと決めて。

その体勢を自分の身体へ、完璧に覚え込ませてしまう。

まあコレもう、「構え」ってヤツな訳だが。

この「構え」ってのは実は、【スピード】とその対応力を要求される総ての【スポーツ】へは。

とても重要で在り。

素早い反応とその反射神経に因る、例えばそれが【野球】や【ボクシング】で在れば。

最終的なその【打撃姿勢】り

そしてのその、【ヒット・ポイント】へ迄のその【モーション】。

【バット】や【パンチ】の描くその起動を、最短距離で。

撓やかで美しく、描く事が大切なので在る。


それが身体の左右交合に振り回す際の、【ヌンチャク】の場合。

初めの体勢と最終的なその姿勢は、それが右から左へと。

交換されるだけで、全く同じなので在る。

つまり、受け取ったその姿勢を自らのそのイメージと。

その体勢を作り上げてから、それ等左右での姿勢を。

身体へ叩き込んでから、【ヌンチャク】を振り始める事で在る。


しかし其には先ず、2本の【棍棒】部分を繋いだ【鎖】や。

或いはその【紐】の長さが、自分の体格や体型と。

一致していなければ成らない。

小学校4年生の終わりにこの「ジークンドウ式・双節棍」、【ヌンチャク】を手に入れた俺には。

この【ヌンチャク】を繋ぐその【鎖】の部分が、些か長かった。


この本物の【ヌンチャク】を手に入れるそれ以前に、実は俺は。

硬質ナイロン・ビニールで出来た子供用の【ヌンチャク】を一つ、既に持って居た。

二つの【棍棒】を繋ぐそのジョイント部分が、軽い【鎖】で出来たタイプのモノだ。

このナイロン・ビニールで出来た【ヌンチャク】の、その関節部分も。

又同じ様に、俺には些か長く感じられて居た。

「自分の身体へ合って無い…」と直感的に、そう強く感じた訳だ。


俺は二つのその【棍棒】を繋いだ、【鎖】の輪の部分を。

ペンチで押し開くと。

其処から一つの輪を抜き取り、再び【棍棒】を一つに繋ぎ合わせた。

すると自分の受け取りたい掌の位置へもうピタリと、振り回された【ヌンチャク】のど真ん中が。

もう絶妙な迄に納まったのだ。


「弘法は筆を選ばず…」、とも言うが。

筆…???

冗談じゃねえ、そもそもが筆処じゃねえ。

危険から自らの命を守り、下手をすれば。

【死地】を免れる為の、その武具の調整だ。

妥協も安売りも、決して出来はしねえ。


著者・龍神 武明

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