とりあえず婚約解消って、許されるとでもお思いで? KAC20246参加

うり北 うりこ

第1話


「とりあえず、婚約解消しよう」

 

 最近よそよそしかったのはこれね。

 納得しながらも腹立たしい。

 

「とりあえずとは、どのようなおつもりでして?」

 

 私たちは政略結婚だ。家同士の約束をとりあえずで解消されては堪らない。

 

「もうエリーゼなんか懲り懲りなんだ。いつも僕のことをバカにしてるじゃないか」

「していませんわ」

「冷たい目で僕のことを見てるくせに」

 

 そりゃ、おバカさんなことを言われれば冷たくもしたくなるでしょうに。


「私が原因で婚約解消をしたいとおっしゃるるのですね?」

「別にそういうわけじゃ……」

「いいですわよ」


 しどろもどろとなった婚約者に微笑む。

 特に恋愛感情はない。長年、婚約者をしてきたので多少の情はあったが、それもここ最近なくなった。


「そのお話は来月まで待ってくださるかしら? 私の誕生パーティーに婚約者がいなくては格好がつきませんもの」

「わかった。それまでなら……」


 私が世間体を大切にすることを知っている婚約者は、それで納得したらしい。


 今まで、何度浮気されても目をつぶってきた。結婚に夢を見ていなかったこともあるし、新しい相手と関係を一から構築するのは面倒であったから。

 何より、私の行動に口出しを一切しないところが都合が良かったのだ。

 

 けれど、事業が軌道に乗った今、この男は必要ない。女だからとバカにされることも、下に見られることも、もうないから。

 

 

「普通に婚約解消を申し出てくだされば、こんなことしませんのにね?」

 

 去っていく婚約者を眺める。


 あちら側の強い希望で結ばれた婚約。

 解消されても、こちらに痛みはない。


「とりあえず、なんかで片付けようとなさるからでしてよ?」


 それに、私の悪口をずいぶんと言いふらしていたようですしね?


 誕生パーティーまでに、あの男にとっての最悪の婚約解消を計画しなくては。

 浮気相手のあの女にもね。


「お二人の愛を妨害する愚かな婚約者でしたわね。その女からの復讐、楽しみにしていてくださいませ?」





 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

とりあえず婚約解消って、許されるとでもお思いで? KAC20246参加 うり北 うりこ @u-Riko

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ