とりあえずの決断

野森ちえこ

転職と書籍化とクジ運

 なあ、オレたちいいライバルだったよな。


 小説投稿サイトのカクヨムで出会ったオレたちは共に支えあい、競いあってきた。

 コンテストや公式イベントがあればとりあえず参加ボタンを押し、われ先にと作品を公開する。

 なんていっても、ガチでプロを目指していたわけじゃなくて、あくまで趣味だったんだけど。


 でも、この趣味を長くつづけてこられたのはおまえがいたからだと思う。

 これっておもしろいのか病に罹患したときだって、おまえの存在が乗り越える力になっていたんだ。

 そのおまえが、おなじ大学のおなじゼミ生だって知ったときは仰天したけどな。


 やたらクジ運がいいというおまえは、カクヨムのマスコットキャラクターであるトリグッズもほとんどコンプリートしてたよな。

 おまえがカクヨムユーザーだってわかったのも、トリのブックカバーがきっかけだったし。

 オレなんて……オレなんて! 一回も当たったことねえのに! ひとつくらいよこしやがれ!! っていったら、トリのぬいぐるみストラップくれたよな。ふたつ持ってるからーとかいって。

 べつにとりあいしたかったわけじゃねえけどさ。なんか、負けた気がしたよな。ちくしょう。


 なあ、おまえはどうだった?

 オレは少しでもおまえの力になれてたか?


 オレはいつもおまえに励まされてたけど、おまえはどうだったのかなってさ、いまさらだけどちょっと思ったんだ。


 お互い社会に出て、学生のときほど頻繁には活動できなくなったけど、やっぱりなんかイベントがあればとりあえず参加して、作品が更新されればとりあえず読んだり読まれたりして、そんな関係がこれからもずっとつづくんだと思ってた。


 それなのに。

 なあ、どういうことだよ。

 ちゃんと説明してくれよ。

 急すぎんだろう。


 転職がきまって来月からカクヨムの中の人になるだなんて。

 そんな話、聞いてねえぞ。

 どういうことだこのやろう。


 あ? そんなことどうでもいいからとりあえず新作書け?

 どうでもよくねえよ。ちゃんと説明しやがれ。

 は? はああぁあ!? オレの作品を世にだすためにとりあえず転職した?

 とりあえずじゃねえよ。バカなの? いやおまえ、ガチでバカなの?


 ありえねえ。マジでありえねえ。

 なにオレの作品のために人生変えてんだよ。ふざけんなよ。

 そんなの。

 そんなの。

 こっちだって本気になるしかねーだろうが……!


 その後——


 ほとんどヤケクソで書いた『ライバルだと思っていた男がやたらと推してくるんだが』が企画会議をとおり出版されることになった。


 なんというか、あいつの執念勝ちである。


 編集者になったあいつと、書籍化作家になったオレ。


 書籍化されたからといってクジ運があがるわけではないだろう。そんなことはわかっている。しかし一度くらい当たってくれてもいいんじゃないだろうか、カクヨムよ。

 トリグッズが賞品になっているイベントにはいまも毎回参加しているけれど、やはり当たらない。当たってくれないのだ。


 オレのもとにあるトリグッズはあいつからもらったぬいぐるみストラップただひとつ。心なしかさみしげに見える。


 いつになったら、オレはオレのトリと会えるのだろう。



     (おしまい)


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