魔法のトリ

板谷空炉

魔法のトリ

 トリあえず。と、思っていた。


 友人から聞いた噂だと、何でも願いを聞いてくれるトリがいるらしい。だけど目撃情報は、一切無いとのこと。

 そんな迷信を真に受けた馬鹿な俺は、休日にそのトリを探した。しかし何処にもおらず、夕方になったため諦めて家に入ろうとした。

 だけどその時。

「家に入れろチュン。何でも願いを叶えてやるチュン」


は?


 探していた「何でも願いを聞いてくれるトリ」がいた。とりあえず、家の中に入れることにした。そして俺は床に座り、トリはテーブルの上に座らせた。


「んで、すんげえオマエは悩んでいるように見えるチュン。その願い、叶えてやるチュン」

「え、何で悩んでるの知ってるんだ?」

 黄色くて丸くとても可愛らしいトリの癖に、口調は上から目線だ。それがとても愛らしく、とてもウザい。だけど願いを叶えてくれるのは、嘘じゃないみたいだ。

「オマエ、どうしてオレを探していたのか、分かっているんだからなチュン」

 この鳥怖え……

「いや、だってさ……」

 俺はこのわけわからないトリに、ポツリポツリと過去と今のことを話した。


「わかるーー! 報われない努力めっちゃつらいのわかるチュン」

「それはよかっ」

「まあそんなの、聞かれなくても知っていたけどチュン」

 やっぱりこいつウゼえ……。焼き鳥にしてやろうか?

「焼き鳥になんてならねえよチュン」

「バレてたか……」

 というか、こいつは何者なんだ? 願いを叶えるトリとは言っているけれど。

「そんで、オマエの願いはさっきと変わらないチュン?」

 え? でもそんなこと、言っていいのか……?

「オマエのことはモロバレだチュン。だけど変える変えないはオマエ次第だチュン。

 考えてることは分かっても、意思を変えるか変えないかの未来なんぞ分からねえんだチュン。

 さあ、どうするんだチュン……?」


 トリがじっと、こちらを見てくる。

 それでも俺の願いは変わらなかった。だから──





「さーて、次のところに行くかチュン。やっぱり人間の苦労を吸うのが、一番の栄養だチュン!」

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魔法のトリ 板谷空炉 @Scallops_Itaya

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