中編

(ざっと、中等部棟を見たが、おかしなところはなかった)


 敵が、この学院をかくれみのにしていることは、もはや明白。

 文化祭当日、天童てんどう深町ふかまちは二手にわかれ、高等部棟に侵入を図った。


 高等部棟の廊下は、ほどよく人であふれていて、水干姿すいかんすがたの深町も、今日は、ほどほどの違和感だ。

「ちゅろす、しなもんふれーばー」

 深町はチュロスの出店をみつけると、即座に注文に並んだ。


 そのときだ。

「あっ、いたわっ」

「生き牛若丸さまっ」

 切羽詰まった声たちが近づいてきた。


 その声は、高等部女子のものだった。

 深町は、その女子たちに囲まれた。

「演劇部ですっ。お願いっ。牛若丸役の子が足首を捻挫ねんざして舞台に立てないのっ。あなたが代役になってっ」

 そして有無をも言わせず、女子たちは深町の両手両足を束縛し、全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れのごとく連れ去った。


「ベタ展開っ!」

 深町が叫ぶのにもかまわずだ。

 


 そのころ、天童は高等部棟の最奥にしのびこんでいた。

 中等部より、建物の構造が入り組んでいる。


 天童の感じた違和感はなんだったのだろう。

 折り返しの階段をのぼったときに、白い人影が視線の端をかすめた。その影は階段の裏に入っていった。そこは行き止まりのはずだ。小さな物入れの扉があるだけ。


(さっきの人物はどこに行った?)

 天童は、慎重に物入れの取っ手に手をかけた。

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