第3話 どれだけ良い意味の名前つけても、親しみやすさがなかったら覚えられないトリ

 ギリギリのネタを回避しつつ話を聞くと、ほかの妖怪たちから、

「『~トリ』ってなんか安易じゃない?」

「もっと強いキャラ付けして欲しいんだよね」

「語尾がダサいんでトリさんのファン辞めます」

 などと言われたらしい。このトリ妖怪、アイドルかなにかだろうか。



「今人の子は、『推し活』が流行っていると聞いているトリ。なら、『推し』のポイントをよく知っていると思ったトリ。

 さあ! なんかいい案を出すトリ!」



 このトリ、上から目線だな。語尾よりそっちを直した方がいい。

 とはいえ、なにか納得できる案が出ない限り、トリさんは帰らないだろう。


「どうする?」とタケルが聞いてくる。


「まあ害はなさそうだし、相談乗ってあげてもいいけど」

「二人が帰ってくる前に、何かいい案見つけないとなんだよなあ……」


 それはそう。

 タケルは妖怪が見えることを、うちの両親に内緒にしている。

 でも、タケルの霊力と我が家のアレがアレして、妖怪が見えない人でも見えるようになっているのだ。私も本来なら見えないんだけど、この家にいると妖怪が見える。

 今両親が帰ってきたら、バッチリトリさんが見えてしまい、タケルの秘密を話さなくちゃいけないだろう。

 ってなわけで、タイムリミットは夜ご飯までだ。


「トリあえず、トリさんはトリ妖怪だから『トリ』ってトリ付けてたんだよな?」

「早口言葉かな?」


 タケルの言葉に、あたしは思わずツッコミを入れる。


「なら、やっぱり『トリ』を意味する語尾が必要なんじゃないか? 例えば、外国語からとったりとか」


 タケルがそう言うと、ハー、と息を吐きながら、ヤレヤレ、と言わんばかりに首を振るトリ。

 

「お前、物語の序盤に設定詰め込んで満足するタイプ?」


 すんごい煽りが来たな。語尾も抜けてるし。

 タケルは意味がわからないって顔をしてるけど、ここに小説家志望の子がいたら怒っていたかもしれない。知らんけど。


「別に奇をてらう必要はなくて、もっと親しみやすくて、皆の耳に残りやすい語尾がいいトリ」

「じゃあ、鳴き声から取るとか? 『ホーホー』とか」

「んー、四文字は多いトリ。けど、鳴き声っていうのはいいトリ」


 それぐらいのライトさで、というトリさん。

 うーん、これは困った。

 フクロウの鳴き声なんて、ホーホーぐらいしかわからない。



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