第2話 いつもギリギリのネタで生きている

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【コンフィ・ドゥ・カナール】

 鴨肉のコンフィ。

 フランス・南西部の伝統料理で、塩をまぶした鴨もも肉をじっくり低温のオイルで2時間ほど火を通し、漬けたもの。


 ■


「た、タマとられる思ったトリ……」


 はあはあと、両手ならぬ両翼を床について息切れするコンフィ・ドゥ・カナール、もといフクロウ。


「そんで? あんたは、何の妖怪なんだ」


 タケルが少し強めに聞く。

 タケルは妖怪が見える子で、どうやらうちに来るまで、結構大変な目に遭っていたらしい。だから、妖怪には警戒心が強い。

「ご紹介が遅れたトリ」そう言ってフクロウは身体を起こした。


「ボクはフクロウの経立ふったち! 気軽にトリさんと呼ぶトリ!」

「ふーん、経立か」


 あたしが言うと、「知っているのか、サチ」とタケルが言う。

 歳を重ねた動物が妖怪になるっていう、妖怪としてはメジャーな存在だけど、その名前自体はマイナーかもしんない。

 けど、鶏の経立は聞いても、フクロウの経立は聞いたことない。まあ、たたりもっけみたいな妖怪もいるから、フクロウの妖怪は普通にいそう。フクロウ神秘的だし。


「で、トリさんは何を相談しに?」

「よくぞ聞いてくれたトリ!」


 バサア、と両翼を広げて、トリさんは言った。


「実は人間の子である二人に、頼みがあって来たんだトリ!

 このトリの! 新しい語尾を考えて欲しいトリ!」



 ……その言葉を聞いて、あたしの頭の中で「だなも!」と言ってるたぬきがひょっこり現れてきた。


「ど、どうしてそんなことを相談しに来たのかなななな」

「サチ? どうしたんだ、そんなに震えて」


 タケルが不思議そうに尋ねる。

 ギリギリのネタかもしれないからだよ、と伝えても、タケルは不思議な顔をするのみ。

 そういやタケルって、親戚の家を転々としてきたんだから、ゲームとかしたことないのかもしれない。なんてこったパンナコッタ。


 そんなあたしの動揺はつゆ知らず、実は、とトリさんが言った。


「森の住民にアンケートをとったところ、」

「森の住民言うな!!」


 思わずあたしは叫んだ。

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