僕の秘密を話さないで欲しいだけなのに、華さんは僕を離してくれません。

米太郎

第1話

 催眠術というものは、現代における魔法のようなものだ。

 相手によっては効かないこともあるのだが、効く相手にはどこまでも効く。


 そんな相手であれば、誰でも自分の言うことを聞かせることができる。


 目の前に座っている女子。

 俺の催眠術を受けてみたいと、やってきたのだ。

 俺は、その要望に答えるために催眠術をかけてやる。


「……あなたの瞼が、だんだんと重くなってくる」


 俺がそう言うと、目の前に座っている女子は、だんだんと目を閉じていった。

 そして、驚いたように笑っている。


「ええぇーー? ‌うそうそ! ‌なにこれ、すごいすごい! やっぱり安城あんじょう君ってすごいよ!」

「そうでしょ? これからもう少し強めの暗示をかけていくからね」


 放課後、二人きりの教室で催眠術体験をしてみたい人を募ったんだ。

 リラックスして、とても気持ち良い気分になれるからって。

 前評判も上々。

 俺が催眠術体験をした子に対して、最後に追加催眠をかけているから。



 何をされるかも分からないまま、そんなところに一人でのこのこと現れるやつがいたら、俺はおかしいと思う。

 高等教育を受けているはずなのに、中身は低能なまま。


 だから、催眠術もかかりやすいんじゃないかって思うよ。


 俺は、催眠術の続きを行う。


「そうしたら、次は、声が出なくなるからね。俺の合図で声が出なくなるよ」

「えーー、ヤダヤダー。本当に声が出なくなったら怖いーー」


 ここに来る奴は、大抵そうだ。

 ただのアトラクションだと思って、楽しんでいる。

 そういうやつがいるから、俺も楽しめるんだけれども。


「……はい!」


 俺の合図で、女子の声は出なくなった。

 一生懸命に口をパクパクと開けているが、声が発声できていない。


「それじゃあ、最後の催眠やってみるね。あなたは、段々と身体の力が抜けていきます」

「……」


 もはや、この子は何も見えないし、何も言えない。

 俺は、優しく抱きかかえると、女子を椅子から降ろして、地面に寝かせてやる。


「どう? 催眠術って面白いよね?」


 俺の問いかけに、わずかに頭が動く。

 意思はまだある形だ。


「リラックス出来てきてるね。そしたら、これから、もう少し気持ち良くなれるからね……」


 これで、外傷も無く拘束出来ているような物だ。

 こうなればやりたい放題。


 最後の催眠さえすれば、なんの証拠も残らない……。


 ゆっくりとくつろいで寝かせた所で、マッサージでもしようとしたところで、教室の扉が開いた。



「……あれ? ‌安城君、何してるの?」



教室の入口には、華さんが立っていた。

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僕の秘密を話さないで欲しいだけなのに、華さんは僕を離してくれません。 米太郎 @tahoshi

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