第3話

「はあ、はあ……」

 息を切らせながら公園を振り返ると、真っ先に注意喚起の看板が目に飛び込んできた。


『大きな声で話さないで』


 みづきはその文言に違和感を抱きながらも紗枝さえのことが気になり、ベンチに視線を向けた。すると、つい今しがたまでスマホを手にしていた紗枝の姿はなくなっていた。


 ベンチの上に載せていたコンビニの袋も無数にいた人影も何もかもが消え、代わりに桜の木の下に照明灯と月の光が紗枝に似た影を作っていた。


「紗枝……」


 みづきは公園に足を一歩踏み入れようとして、慌てて元に戻した。

 大声で紗枝の名を呼ぼうと思ったが、目の前に掲げられた看板がそれを制止する。


 みづきは急いでスマホを取り出し安否確認しようと思ったのだが、いくら探しても紗枝の連絡先は見つからなかった。

 共通の友人に「紗枝の連絡先を教えて」とメッセージを送ったところ、紗枝という人間を知らないと返ってきた。


「嘘だ……」

 呆然としながら再び桜の木の下を見やると、紗枝の面影は跡形もなく消えていた。



 帰宅後、両親から夜遅くに無断で外出したことを叱責されたが、

「今、それどころじゃない!」

 と言い返して、みづきは部屋に入り、夢中で紗枝の存在を探した。


 高校の学級写真、修学旅行のしおり、紗枝から借りた漫画……。だが、間接的にも紗枝は姿を消していた。

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