第2話

 単に近隣住民が腹立たし気に窓からのぞいているだけかもしれない。だが、それとは何か違うような気がして、みづきは紗枝さえに声を落とすよう訴えた。


 紗枝は、口元に人差し指を立てるみづきを見て、

「ウケるぅ」

 と、けたけたと笑い声を上げた。


 そうじゃない、と喉元まで出かかって、みづきは自分の目を疑った。

 紗枝の肩越しに見える桜の木の下に、うっすらと人影のようなものが映ったのだ。

 輪郭が曖昧で、それが実在するものなのか、照明灯の光の具合による錯視なのか、判別がつかなかった。


 けれど、妙にみづきの胸をざわつかせた。

「紗枝、ここ、ヤバイ。帰ろう」


 みづきが震えながら立ち上がると、紗枝がより一層声を上げ、みづきを嘲笑した。しかも、スマホのカメラをみづきに向け、みづきの怯える様を動画配信したのだった。


「ちょっ、やめてよ!」

 と言うみづきの声は、恐怖で上ずっていた。


「マジ、ウケるぅ。あははははっ」

 紗枝の大きな声が響き渡った。


 その時ふと、公園の中に人影が増えていることに気付いた。

 一体、二体、三体、四体……。

 錯覚ではない。どんどん人らしきものが集まっている。


 みづきは堪え切れず、ひとりで公園を駆け出していた。紗枝のことなど構っていられなかった。その間にも人影は増え、みづきはその合間を縫うように公園の外へと飛び出したのだった。

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