龍と虎

タルタルソース柱島

今昔ベーコンレタス異種族巻き物語

 むかしむかし、あるところに龍造という偉丈夫がおりました。

 龍造は早くに妻をなくし、村のはずれで一人さみしく暮らしていました。


 ある日のことです。

 龍造が山に山菜採りに行くと猟師の仕掛けた罠に一匹の虎が掛かっているではありませんか。

 龍造は以前、大名屋敷で虎の描かれた屏風を見たことがあったのでひと目で虎であると理解できました。


「おうおう。かわいそうになあ。猟師のやつも虎なんか食わんだろ」

龍造は恐れることなく虎に近づくと罠から解放します。

 虎も虎で大人しく助けられ、やがて茂みの中に消えてゆきました。



「お頼み申す」

それから数日後のことです。

 龍造が夕餉の支度をしていると戸を叩くものがあります。

「どうされました。旅の方」

表に立っていたのは、歳のころ10代後半くらいの若い男でした。

 黄色まじりの黒髪とツリ目が特徴的な男でした。

 ははぁ、これが世にいう傾奇者ってやつだな?

 龍造はひとり納得します。


「実は諸国漫遊の旅をしているのですが、履物の紐が切れてしまいまして」

「それは難儀ですね。もう暗いので泊まっていかれますか?」

龍造は青年を哀れに思い、彼を一晩泊めることにしました。

 その夜は、青年が珍道中を語って聞かせ、龍造は久しぶりに楽しい夜を過ごしました。

 同時に青年が旅立ってしまうことを残念に感じます。


 そんな龍造の願いが叶ったのか、翌日は生憎の悪天候でした。

「いや、これは参りましたね。龍さん、申し訳ございません。今日も停めていただいても」

青年は申し訳無さそうに頭を下げます。

 龍造は気安く承知しました。

 青年の名は虎吉と言いました。


 そんなふたりは大変仲が良くなり一日が一週間に、一週間が一月になり、やがて季節がめぐりました。


 ある日、龍造は町へ買い物へ、虎吉は

家で留守番をすることになりました。

 朗らかな陽気の中、つい縁側でウトウトしてしまった虎吉は目覚めると隣家の奥さんが目の前で腰を抜かしているではありませんか。


 ハッと己の姿を見た虎吉は、若い虎の姿に戻っていました。

 虎吉は慌てて走り去ります。



その夜、龍造は姿が見えない虎吉を心配しながら眠りにつきました。

 月が中天を回った頃です

「龍さん。龍さん。俺です、虎吉です」

夢の中なのかぼんやりとしたまま龍造は耳を傾けます。

「今までとても楽しく過ごさせてもらいました。ありがとう」

「俺はいつぞに龍さんに助けてもらった虎です。でもこのことをはなさないでください」


一呼吸おいて虎吉がささやきます。

「はなしてしまうと、俺は龍さんを食っちまわないといけなくなっちまいます」

ぼわわんと耳鳴りが聞こえた龍造は深い眠りに落ちていきました。



 それからの龍造はもぬけの殻のようでした。

 ぼんやりと空を見上げ、気力なく日々を過ごしています。

 それから再び季節がめぐります。


 ある日のことです。

 ついに龍造は、昔助けた虎が青年になって家に来たことを話してしまいます。


 すると途端にビュウウと激しい風が吹き抜けました。

そこには一匹の虎が立っていました。

「龍さん。はなさないでと言ったのに。俺はあんたを食っちまわないといけない」

龍造はにやりと笑います。

「虎! オレはおまえがいなきゃ生きていても楽しくない。それならいっそ食われたほうがマシだ!!」

と。

虎はやれやれと首を振りました。

「仕方ない人だ。今までは龍さんに食われていたけど、今度は俺が食う番ですね」



むかしむかし、あるところに虎とおじさんが住んでいました。

ふたりはそれはそれは仲良く添い遂げましたとさ。

めでたしめでたし。

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龍と虎 タルタルソース柱島 @hashira_jima

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