杪夏 3
それからしばらく山を登っていき、生い茂った草木をかき分けてついに見つけたのは『白い物体』だった。
それは細長く、異様に巨大で、気づかなかったことが夢であったように存在を主張していた。
さらに進んでいくとだんだんとその物体の全容が見えなくなり見上げることすら憚れた。
目の前の物体を詳しく見れば表面は滑らかで継ぎ目も無く、白く輝く美しいまでのフォルムで息を呑むほど美しい美がそこにあった。
僕は気付けば見惚れていた。
中に入って
相変わらず形のない声が聞こえてきて現実へと意識を戻される。
壁面には「図書館」とわずかに読み取れる文字が書かれていた。
するとその横、正面の壁の一部が発光し、長方形に切り取られた壁が消える。
中からは真っ白な光が漏れ出した。
それが入り口だと分かり、恐る恐る中に入る。
真っ白な空間の真っ白な廊下を歩いていくとまた新たな入り口が現れた。
自動ドアだ。
その向こうに一人の少女が立ってこっちを見ている。
「ようこそ。私の亜空図書館へ」
中に入ると少女は僕を歓迎してくれた。
少女は僕を見て目を見開いた。
肩まで伸びた金髪に銀色のまつ毛、宝石のような緑色の目、小さくて赤い唇。
自分と同じくらいの身長の彼女はあまりにも多くの色を持ち、あまりにも美しかった。
ここまで美しい少女を見たことがない。
世界の全ての美を彼女は持っているのではと思う。
あの異様に美しい建物といいこの少女といいここまで美に触れてしまえば僕はいつか日常をつまらないと感じてしまうかもしれない。
それは一種の恐怖になり得た。にしてもここは本当に現実なのだろうか。でも実際に目の前には少女がいる。それは紛れもない事実。いや、しかし、こんな所があればもっとニュースに取り上げられているはず。
んー・・・・。
「君、ねぇ、君ってば。聞いてるー?ありゃ、固まってるよ。いやー近くで見ると相変わらずそっくり。パッとしない顔は特にね」
ケラケラ笑いながら少女は楽の周りをくるくる回っている。
その視線に気づいて楽は無理やり視線を少女の先にある空間に逸らす。
そして、目の前に広がっていたのは想像をはるかに超えるほど普通の、図書館
だった。
古くホコリの被った本や少しばかりの長机と小さな子供用の読書スペース、カウンターに置かれたウサギのぬいぐるみ。
僕らが当たり前に想像できる図書館の姿がそこにあった。
「ここは?」
「お、やっと動いた。で、しゃべった」
彼女は続ける。
「ここはね、私の家なの。図書館なのは私が好きだから。ここは私のイメージで出来てる空間。子供があらゆる想像で現実を見るように私がイメージしたものが現実になる。そういえば君の名前は楽(がく)だよね、知ってるよ。なぜかって?それは、」
「ちょっ、ちょっと待って。急に情報が多いんだけど、ここに来た時から多いけど」
あまりの情報過多に話を遮る。
すると、彼女はそんなことは初めからわかっていたようにおどけてクスクス笑う
「じゃぁ、質問コーナー。はいっ、楽くんどうぞ」
そんな彼女の動き一つ見ても意識が飛ぶほどに現実離れして綺麗だった。
真っ白なワンピースも忙しなく揺れている。
最初の質問は当然。
「君は、だれなの?」
彼女はうん、と頷く。
「私は
ワンピースの両方の裾を持ち上げて丁寧にお辞儀をする。
「僕を呼んだのは君、だよね」
「そう。驚いた?聞こえた声の主がこんな美少女なんて」
「いや、そこじゃない。いや、美少女には驚いたけど、じゃなくて声だよ。声」
「あー、どうやってあなたに声を届けたのかね」
「それはねー」
「それは?」
「実は私、世界とね繋がってるの」
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