襲撃結果
華麗に身元を明かした安崎に返ってきたのは訝しげな視線だった。
「南郷家の安崎の名は知ってるわ。最近の南郷家躍進の立役者でしょう?そんな武者があなたみたいな恰好をするとは思えないのだけれど。」
言われて服を確認。つぎはぎだらけのボロボロの貫頭衣に袖がついたモノ。圧倒的に目立ちづらい完璧な襲撃装具である。
「・・・たしかに、ぼろいっす。」
「うーむ。」
そっかぁ。
※
花嫁行列襲撃犯一行はその後こそこそと撤退を続けていた。
「ねえ。」
「ん?」
「本気で私を姫のだと偽る気?」
「ああ。」
「顔も、出自も、まったく違うのよ?」
「大丈夫。」
「だいいち、姫の振る舞いなど知らないもの。着飾ったところですぐばれるでしょう?」
「そうか?そうだなぁ…ではこうしよう。久姫は武芸に長じており、此度も自らの能力を過信して果敢に応戦した結果捕まった。故に礼儀作法に疎い。」
他にも設定をいくつか考えておくか。
「頭ぁ、はよ逃げませんと、追手が来やすぜ。」
「あ!?あー大丈夫だろ、敵の総数もわからねえなか姫の護衛を割いてまで追手なんかだすかよ。今頃大急ぎで味方の砦に走ってんじゃねえのか?」
あ、しまった。頭呼ばわりされたからつい口調が荒れた。女兵士がやはりと確信を持った顔つきになった。あー本格的に身元を怪しまれているな。どうにかして安崎オチバ本人だと信じされる方法は・・・別になくてもいいか。こいつただの足軽だし。手は打っているからな。「花嫁行列から姫が攫われた。」という誤情報を広めるために誰か攫う必要があっただけのこと。性別も身分もどうでもよかった。うん、まあいいや。
※
「後方部隊、被害はいたって軽微のようです。」
「うむ・・・」
因幡の姫の嫁入り行列。道中因幡国衆による襲撃を受けつつも姫を守り抜いてきた。無事に但馬の地に帰還することに成功し、もう一息と意気込む中での襲撃である。
「常陸守どの、ひとまずお味方の砦まで進んではいかがでしょう。」
「いえ、奴らを追撃すべきと存じます。」
「いや、敵があのような少数で、しかもこちらまで寄らずに引くとも思えん。第二陣がいるはずだ。この先も隘路、襲撃をしのぎ切れるよう、布陣を張りなおしたほうが良い。今、周囲も探らせている。」
花嫁行列の責任者、茶鍋常陸守の言葉に周囲の者が得心したりとうなずく。そうだ。なんの意味もなくあんなことをするものか。因幡山名の旧臣が自暴自棄になって襲いに来たのであれば輿を狙うはず。そうでないならば、別の目的があるはず。
それから半刻ほどたったが、周囲に敵の姿は見えず、花嫁行列は訝しみつつも但馬豊岡に向けて出発した。
※
簡単解説 官職
この時代は正式に任命された人以外にも勝手に名乗る人が多かったらしい。花嫁行列護衛部隊長も常陸とはなんの関わりもありません。
戦国記 鳥取に転移した男 山根丸 @yamanemaru55
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。戦国記 鳥取に転移した男の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます