勝利の逃亡
「うまくいったすね!」
「大成功だなぁ!」
男たちは晴れやかな顔を浮かべる。顔には気力がみなぎっており走るその足も力強い。策の完遂。やりきったものたちの心をそのままに、場は一部を除いて明るかった。
その一部、つい先ほどまで花嫁行列の一員だった兵士は、全身に怒気をみなぎらせ、周りの男どもをねめつける。
「ふざけるな!私はただの足軽だ!」
「いいや、お前は久姫だよ。」
安崎の力強い表情と、断定的な口調に気圧されつつ兵士は吐き捨てるように言った。
「こんな格好の姫がどこにいる、第一私は男だ。」
足軽は皮肉気に笑うが、返ってきた反応は兵士の期待に添うものではなかった。
謎の自信にみちあふれている。
やけに誇らしげなふとましい男が進み出、周りの仲間が肩をたたく。
「俺、おなごがどうか、わかる。」
端的な言葉である。どう解釈してもほかの意味にはならない。
安崎が、まるで技師の腕を信頼する工場長のように、実に頼もし気に男を見やる。
「こいつはすごくてなあ。服装、声、姿。どんな変装をしていても性別を当ててくる。」
「・・・は?」
「なにせ女の体をしている遊女に『心がおとこだから』つって手をださなかった豪傑だ。」
ふとましい男の肩をたたき、ひとりの仲間がつぶやく。
「まあはやい話が、変態だよ。」
女兵士は顔をひきつらせた。
安崎はまじめな顔に戻って女に向き合う。
「姿のことは安心しろ。城に戻り次第着飾ってもらう。お前は今日から久姫だ。」
相変わらず身を縮める女兵士。
「そんなことが通るわけないだろう。」
「いいや、通る。俺も、殿も、大殿も認める。お前は久姫だ。」
女兵士は苦悶というより理解できないと顔に浮かべつつ沈黙していたが、やがて何を思ったか胸を張る。
「ねえ。」
「ん?」
「姫を相手にしながら無礼極まりないわね。まずは名を名乗りなさい。」
突然堂々と、いや、ふてぶてしい態度になった女兵士に安崎はぽかんと口を開け、次の瞬間礼をとった。
「ご無礼をお許しくだい。尼子家家臣南郷家侍大将、安崎オチバと申します。但馬山名の非道に抗するべく、参上つかまつりました。道中、よしなに。」
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更新あいてしまってすみません。当分は月に一度の更新になりそうです。これからもお付き合いいただければ幸いです。
安崎くんの性格が変わっているようにみえますが、襲撃直後で気が大きくなっているだけですのでご安心ください。ランナーズハイみたいなものです。
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