禍福はあざなえる縄のごとしというはずなんだけど

 こんにちは、山根丸です。ここ二週間ほど本編をちょこちょこ修正しています。それも文体を変えるとかそんな軽めなものではなく、本筋が変わるやつです。思いつくままに書き進めた結果、どうしようもない矛盾がいくつも発生してしまいました。このような事態が二度と起こらないようプロットを組んで進めるようになりました。混乱させてしまい申し訳ございませんでした。


 また、人名などを史実で統一しました。城・地名・人口などを現代のものに統一しました。

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「まったく、ひどいな。」


「そうっすねえ。」


「いやなことは重なるもんだな。」


「そうっすねえ。」


 神聖教派閥争いに負け、国庫を空っぽにした挙げ句、得られたものはまったくなかった。


 得たものといえば精々中央派の坊さん達が「安崎殿は積極的に戦ってくださった!」とやたら友好的になったことぐらいか。割に合わない。


 自分の考えなしの決断でこんな事になった。さすがに反省している。しっかりと悔い改めたいのでお堂に籠もっていたのだが、五郎に「一大事です」と呼び出された。


「で、どうだった?」


「へい。」


 但馬山名家が因幡山名家当主山名誠通を彼の居城、布施天神山城で討ち取った。


 この情報を手に伝令が駆け込んできたとき、盗賊衆はきちんと機能しているようで感心だな。なんて感想を持った。


 あまりにも荒唐無稽なので、情報伝達訓練とかだと思った。


 ところが伝令はちょっとやばい呼吸状態で、乗ってきた馬とそろって疲労困憊。どうも訓練ではなさそうな様子、訓練でここまでやるとしたら危険なのでやめさせるレベル。


 となると彼が息も絶え絶えに伝えてきたこの情報は少なくとも現場が事実だと認識していることになる。


 ふむ、とはいえ話は膨らむものだ。かつて水泳の授業で一回転飛び込みを敢行した結果飛び込み台の頑丈さに負け、頭をぱっくりとやって病院に運ばれた友人がいたが、噂に尾びれと背びれがついた結果、三回転を決めて着水したが勢いが良すぎて集中治療室に入ったことになっていた。


 話が肥大化したときに必要なのは情報を現実化することである。


 水泳少年の件を例にすると集中治療室はともかく三回転飛び込みはない。どうやったら2,30cmのスタート台から三回転できるのか。普通にありえない。なので 飛び込んだ 怪我をした という現実的な話にして考えてみる。


 今回の情報にあてはめてみよう。


 まず、農作業で忙しいこの時期に遠征するなんて考えがたい。ついでに当主が戦場でもないのに討ち取られるとも思えない。つまりは、だ。布施天神山でなんらかのごたごた、謀反か家臣同士の刃状沙汰が起こり、混乱した人々が他国の仕業だと慌てふためき、それを聞いた人々が他国が攻めてきたと慌てふためいた。こんなところではなかろうか。


 当たらずとも遠からずといったとこだろう。安崎は自分の推理に自信を持ったが、さすがに憶測で話を片づけるのはいけない。なにせ因幡には安崎の旧領も南郷の本領もある、ことの大きさによっては動かなくては。


 そこで、こちらからも事実を確認させる人員を送り、探ったのであった。


 お堂に籠もっていたせいで山のごとく積まれてしまった。再び籠もるのもちょっと違うので仕事を処理する。まあミミズ文字なんてわからないので花押ぺたぺた押したり相談に乗ったりするだけだが。


 誤情報をつかむことを避けるべく神聖教中央派の優秀なお坊さんにお願いした。


 さて、彼によると、美作が派閥争いでわちゃわちゃやっている隙に但馬から因幡に大軍が侵入。警戒していなかった因幡山名は奇襲に対処できずにあっさり本拠陥落、一族は捕まった端から首をはねられたらしい。


 信じられん。しかし、こいつは信用できる。なにせ神聖教の人間だ、教養があり、こういう仕事も慣れている。教義により嘘もつかない・・・ということはつまり?


「落ちちゃったかー。」


「そうみたいっすねー。」


 いやーまさかそんな、ある?そんなこと。


 現実だと思いたくない。そんな心を振り払い、気持ちを切り替える。


「…間違いないな?」


「は。布勢天神山城の城門に因幡山名当主・嫡男の首がさらされておりました。」


「…そうか。ご苦労だった、下がって良い。」


 僧侶を下がらせると、安崎は深く息を吐いた。


 事態はかなりマズイ。うじうじさせてくれないぐらいマズイ。


 どれぐらいマズイか説明する前にざっくりと山名について確認しておこう。


 山名家はかつて六分の一殿と謳われていた。これは日本国66カ国の六分の一の守護であったからである。


 強大である。あまりにも勢力がでかすぎるので足利義満にしばき倒され、多少衰えたが、それでもなお強大な勢力を誇っていた。


 ところが戦国時代の一因、応仁の乱が発生する。


 山名家は片方の総大将として戦い、疲弊した。


 すると、下克上の機運も相まって各地の守護領が削られまくった。


 山名家としては取り返したい。領国を奪ってきたやつは許せない。こういう動機のもと山名家は行動している。


 まあ、わからないでもない話だ。


 さて、そんな山名家と我々がどう関係しているのか簡単に説明しよう。


 山名家は伯耆・出雲・但馬・美作の守護でもある。


 ただひとりの人間が守護職を兼任しているのでは無く、山名一族が守護職を分け合っている。伯耆守護職は山名太郎の息子三郎、但馬守護職は山名太郎のいとこの孫の八郎、こんな具合に。


 これが一致団結していればよかったのだが各自ばらばらなせいで立ち回りもばらばら。


 現在、伯耆山名は尼子に屈伏、因幡山名は尼子に味方している。但馬山名としては許せない状況なのだそうだ。美作の山名領はすでにない。守護職ではあるのだが。


 なので、但馬山名は大内と手を組んでいる。にくき尼子を挟み撃ちにしようというわけである。


 そして今回、但馬山名が因幡山名を潰した。


 尼子家にとってまったくよろしくない状況である。


 なぜならそのまま伯耆に進まれると本国出雲がやばいから。


 安崎家にとっても全くよろしくない状況である。


 なぜならそのまま美作に進まれると支配領域全部がやばいから。


 総評しよう。まじやばい。


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