宗教紛争 拡大

 一話・二話大幅に修正しました。

 今回は地名が次々と登場します。岡山県にあまり詳しくない方はグーグルマップや地図帳を片手に読んでいただくとわかりやすいかもしれません。

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 中世欧州でキリスト教は絶大な影響力を保持していたと初めて習ったときの困惑を今でも覚えている。キリスト教といえば教会でのお祈りしている集団のことだと覚えていた幼い頃、かれらのどこら辺に影響力があるのだろうかと歴史の先生に聞きに行った。授業を行った先生とは別の人だったので、私の「宗教がなぜ権威を誇っていたのか」という知りたいことを狙えていない質問のせいでやや異なる角度からの説明となった。先生は突然押しかけてきた自分の受け持ちではない生徒に対し嫌な顔一つせず対応してくださった。先生の「当時は今よりも死が近かったから宗教に頼る面もあったんだ。」との回答は未熟な私を納得させうるものであり私はそれに満足してしまった。私の感じた違和感はそこではなかったというのに。


 もちろん死に関わることも見過ごせるものではない。だがそれに加えて、法学・医療・教育・・・多岐にわたる活動は中世の住民にとって生活の根幹に関わるものであり欠かせないものだ。


 冠婚葬祭を執り行い、医療に従事し、学を修める立派な人々、そりゃあ力を持つわけだ。


 その神聖教を味方にできたならどれほどの利益があるだろう。元々の権威を追従するのではない。勝利の一因になれば、どれほどの協力をえられるだろうか。


 だからこそ、中央派を勝利させ様々な便宜を図らせる。そのための戦だ。


 ※


「弓構え、放てえ!」


 津山城の北方に位置するこの山は常の静謐な空気を血と泥で汚し、熱気と怒号に包まれていた。


 安崎の支持表明直後、地方派領主が安崎にむけて一斉に宣戦布告を行い、鏡野・津山連合軍2500が津山城目掛けて進軍を開始した。


 これを迎え撃つべく、勝央1000と津山1000の軍、あわせて2000を進発させた。


 山に覆われた美作国の地形を活かした安崎軍は、敵の足止めに成功。その間に美作地域に伝令を飛ばし、自領・中央派領主の兵を集めた。


 しかしながら敵も指をくわえて見ているはずもなく、津山南西部の領主、美咲領の領主が津山城に進軍を開始した。


 報を受けるや安崎はただちに軍を展開。


 津山南西部兵1500に対し1000を。美咲兵 1000に対し1000を迎撃に配置した。


 また、久米南の兵を北上させ美咲領で戦わせる。


 …本来であればこんな布陣は愚策である。美作南東部に赴任して僅かな月日しか流れていない。まだ統治は十分に行き届いておらず、前領主の息のかかった者たちが安崎憎しと立ち上がる可能性もある。


 そんな者たちや各地から攻め寄せる敵兵が挟撃を仕掛けできた時点で戦線は崩壊、この戦に負ける。


 そこまでわかっていてなお、この形にせざるを得ない理由がある。


 美作南東を任せるとお達しがあった日に書状と共に地図を受け取ったその瞬間、美作南東部の街と道が大雑把に記されたそれをひと目見て津山の城を拠点としようと決めた。


 津山の城は美作国の中心部に位置する。真庭・鏡野・美咲・勝央・美作・智頭を結ぶ交通の要衝にある。人もモノも集まりやすく、発展したのは必然だろう。だが同時に攻められやすいという欠点も抱えていた。各地に道がつながっているため、危機に陥りやすい。


 さらに、この時代の城はいわゆる「お城」ではない。天守閣を備えた白壁の立派で荘厳な建造物ではなく、砦に毛が生えたようなものだ。それゆえ数千の敵な囲まれれば落ちはすまいが防戦一方になり、今回の戦の目的である中央派の勝利が遠のいてしまう。


 これがリスクをはらみつつも兵を展開せざるを得ない理由だ。


 各領主家を中央派支持に転向させるためには本拠地に攻め入る必要がある。どこに進軍するかよりどりみどりである点だけ敵に悟らせず有利といえば有利なのだが。


 祝山城は易々とは抜けないから津山北上は無理だ。鏡野は山がちな上に縦に広い、制圧には手間取るだろう。主力が拘束されて津山城が落とされるのは避けたい。


 決まりだな。


「美咲を落とす。美作地域兵を向かわせろ。」


 ※


 津山の兵で津山城を守備しつつ、美作の兵を美咲領に進軍させる。同時に久米南の兵を北上させることで挟撃の形を成立させる・・・


 当初策定した戦略は見事にはまり、美咲領領主は降伏、中央派を支持することを宣言した。


 直ちに美咲領の兵と共に津山城に集結、津山南部を掌握するべく西進を始めたところで戦況を一変させる凶報が入ってきた。


 美作西部の二領が地方派を支持すると宣言。進軍を開始した。


 ※


 簡単解説 交通路


 本作では、現代日本の高速道路と鉄道線路を街道としている。


 津山市市役所から智頭町町役場までは街道がとおっているので大軍の移動が比較的楽だが津山市市役所から奈義町町役場に行くのは大変。


 この設定にしてしまうと板東の交通路が異常なほど整備されていることになる。



 簡単解説 宗教抗争情勢 各派閥人口および主要城

 <地方派>


 津山 安崎領・南郷領以外 4・2万


 鏡野 1・5万


 美咲 1・8万 派閥総人口7・5万


   祝山(医王山)城

     

 <中央派>

 安崎領 久米南全域 5000 津山市南部津山駅以東 3万 美作南部楢原駅以南 5000 勝央全域 1.1万 計6万 

    

    津山城 三星城


 美作 安崎領・南郷領以外 2・5万 派閥総人口8・5万


 <中立>


 南郷領 西粟倉 1200 奈義町 6000 津山加茂駅以北 2万8千      計3万6千 


     矢筈城


 地名・人口について


 あれこれ試したのですが結局人口と地名は現代日本と同じにします。人口は各自治体のホームページを参照していますが2017年度と2011年度が混在していたりします。あまり気にしないでください。また、人口分布を現代

と同じにした影響で、1540年頃は比較的栄えていなかった地域が大繁栄したりしていますが別の世界の話なので。

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