宗教紛争

 奇跡的に農業改革が軌道に乗り、ひとまず来年も年を越せそうである。他国からの食料調達も順調だ。いや良かった良かった。


 お祝いに平兵衛と乾杯する。酒と呼ばれているドロドロとした液体を流し込んで、

 ビールではない。泡盛とかでもない。ラーメン屋に置いてある泥ラー油をイメージしてもらいたい。あれの色を赤から白に変えたものだ。


 初めて見たときの衝撃たるや尋常なものではなかった。これ飲めんのかよと目で訴えたがまったく意に介さず平兵衛がグビグビと良い飲みっぷりを披露しやがったので仕方なく口をつけたことを思い出す。


 知ってる酒とは全然別物だが、酔える。酔えるのだ。酔うとどうなるか?楽しくなる。


 陽気に笑い合うひととき。しかし、楽しい時間はあっという間に終わるもの。三回戦に突入する直前五郎につかまった。

 


 真っ昼間から酒盛りとはずいぶんと良いご身分ですねと微笑む五郎。


 額面通りに受け取った平兵衛がマズイ返しをしたのでさらに微笑んで酒なんか飲んでないで神聖教に挨拶に行ってこいと城から叩き出してきた。前にもこんなことがあった気がする。



 ところでみなさんは神聖教教会は一領に一つという大原則があることを知っていただろうか。浅学の身であるため恥ずかしながら私は知らなかった。・・・神聖教に出会ったのもつい最近なわけだが。さて、聡明にして博識な五郎くん曰く、神聖教が急拡大した頃に武家と揉めた。武家は自分の領地で自分以外の勢力に好き勝手してほしくない。揉めにもめた結果、教会がひとつだけならば監視もできるし変に散らばらないから安心だ、というわけで領地一カ所につき教会は一つだけになったらしい。


 さて、美作南東部にはもともと10の領地があった。今は5である。潰された領地は全て安崎の領地になったので統合され6がひとまとまりになった。


 領地が統合され、一つの領地に複数の教会が存在することになったわけだが、これは良くないことなので教会も統合するらしい。


 よくわからないシステムだが、ここまでは良い。


 問題はどこの教会に纏まるかで揉めていることだ。


 なんでも、教会には二派閥有るらしい。都にある総本山に従う中央派と独立独歩を是とする地方派である。


 これがかなり仲が悪いらしく、眼の前で都など我々には関係がないのにとグチグチ言っているのは地方派の僧である。神聖教の聖職者のことは面倒なので僧と呼んでいる。


 美作東部全域の教会が真っ二つに分かれて言い争っているらしく、結構な問題である。俺が牛すげぇとかやってる間にこんな事になってるなんて。


 教会は領主とズブズブな関係である。互いに便宜を図り合っている間柄なのだ。そのため抗争が起きる際は領主も参戦するのが伝統なんだとか。眼の前の僧も先程から「だから協力して欲しい」と繰り返している。


 洒落にならない事態に慌てふためき、適当な言い訳をつけて城に逃げ帰る。ただちに書類の海に埋もれている五郎を引っ張り出し、対策会議を開く。


「五郎、どうする?」

「はい。南郷家に伺いを立てましょう。殿は南郷家の家臣ですので同じ対応を取ればよろしいかと。」

「うん?どちらが勝っても良いのか?」

「彼らは総本山との関係を巡って対立しているだけなので、我々にとってはどちらが勝っても大差ありません。」



 ※


 安崎殿はご自由に、と。


 幾度か顔を合わせている南郷家の役人は相変わらずの生真面目な顔でそう告げた。


 話をまとめると、南郷家は与力の統制がとれないため方針を決定することは控えるらしい。


 なるほど。美作北東の6割を土豪が占めている。


 彼らを下手に刺激する真似はできないということか。


 ふむふむ、それならばうちも…と考えたところで安崎は、はたと思い立つ。


 刺激しても良いのではないか?聞いた話によると美作東部の教会派閥は真っ二つらしい。片方が劣勢でないのならば勝敗を決めるのは領主だ。


 安崎が治める領地は美作南東部の6割である。南郷家が支持を決定しなかったことから美作北東は支持が割れていることがわかる。そして方針を決定しない以上南郷家が攻めてくることはありえない。


 となると、どれだけ多く見積もっても敵方は美作東部の3割程、勝てる。


 勝利を確信した安崎は地方派を支持することを美作東部にむけて布告した。

 

 ※ 


 簡単解説 安崎の考え方


 安崎は南郷家が美作北東の4割で美作南東の6割が自分の領地。土豪の派閥比率が4・6。美作東部を20と考えたとき、10は主家と自家なので除外。6が敵対しても各地に散らばっているので勝てると考えた。土豪の派閥比率が仮説な上に、領地の広さも人口も経済力もこの考え方では考慮していない。


 ※

 簡単解説 美作国の人口


「美作南東」 

 美咲 1.8万 美作南部 1.5万 勝央1.1万 久米南 5000 津山南部 5万

 計 10万 

 

 内安崎領 久米南全域 5000 津山市南部津山駅以東 3万 美作南部楢原駅以南 5000 勝央全域 1.1万 計6万


「美作北東」 鏡野1.5万 奈義6000 津山北部 5万 美作北部 1.5万 

 西粟倉 1200

  計8万7千


 内 南郷領 西粟倉 1200 奈義町 6000 津山加茂駅以北 2万8千      計3万6千     


「美作西部」 真庭4.5万 新庄 800 計 4万6千


 地名・人口について


 あれこれ試したのですが結局人口と地名は現代日本と同じにします。人口は各自治体のホームページを参照していますが2017年度と2011年度が混在していたりします。あまり気にしないでください。

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