まつりごと



 政とは選良たちが知恵を振り絞って行うものである。人の為すことである以上、過ちも発生するが、一つの過ちが数百数千もの民に影響を与えるため、政を行う者たちは並々ならぬ責任と覚悟を背負っている。


何が言いたいかというと、エリートはエリートでも好まれない方のエリートだった安崎は、政治経験はおろか碌な知識もない。どうしよう。子分改め家臣たちも出自が農民だったり農民だったりするので期待はできない。平兵衛に聞いてみたところ、年貢低いと嬉しいっすとのことだった。とりあえず年貢下げとくか。


実に安直でなんの考えもない政策だったがなかなか好評らしい。良かった良かったと仲間内で乾杯していたところ五郎に見つかりお説教されている。 


政策の重要性に始まり、年貢が低いということは収入が低いということで、軍事力も低くなる。更には危急の自体、洪水やら地震やらに対処する蓄えも減る。その点どうお考えなのかと問い詰められ、なんも考えていなかったことがばれた。普段穏やかな人は起こると怖い。また一歩真理に到達した。


つらつらくどくど責められた後、あなたは領主の自覚が足りない。とりあえず領地経営の要である神聖教に挨拶に行ってこいと城から叩き出された。


神聖教、実にうさんくさい名称である。怪しみながら領内の教会なる場所に行ってみたところまるっきり寺であった。日本の寺。


「これはこれは。ご領主様御自らお越しくださるとは。」

「なに、御坊にちと頼りたいことがあってな。」

「おや、召し出していただければこちらから参りましたのに。拙僧にできることでしたら何なりと。」

「うむ…」


 奥から出てきた、ザ・僧侶なおじいさんに詳しい事情の一切を省き、新任であるから領主の何たるかを学びたい旨を伝える。神聖教はどこの領主ともズブズブの関係で、各地の教会の責任者は総本山で教育を受けたものだけがなれる(五郎談)ので、自分たちより詳しかろうと考えたのである。直接的には五郎に叱られたから来たのだが。


「左様ですなあ…」

神聖教の僧侶は廃れた山寺のような、つまりは質素であるが故に清廉な空気を醸し出している教会に案内してくれた。拙僧は非才の身であるため大したことは言えないが、と前置きした後、手習いの小僧に教えるような穏やかな顔で語った。


「尊敬する師から聞いていたことがあります。」

「ほう、それは?」

「領主とは領地そのものであるそうです。領地のすべての権利と義務を負うものだと。何事にも縛られない代わりに、すべてを縛る責任があるのだと。そう言っておりました。」


老僧は穏やかな顔に似つかわしい穏やかな声でそう言った。

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