褒美

入りませい。と、やたら格式張った呼び声がかかり、俺は大広間に踏み込んだ。


月明富田城で櫛やら簪やらを買い漁り近隣領主に売りさばいて大もうけしていたところ南郷家に呼び出されたので、すわお咎めかと戦々恐々としている。


大して金に困っているわけでもないのに迂闊なことをした。ああ、心なしか殿様の顔も恐ろしく思える。


「よく参った。」

「はっ。」

「主は此度の戦において際立った功績を挙げた。そこでじゃわしから褒美をつかわす。」

褒美?処罰じゃないのか。ほっと安堵のため息をつく。しかし褒美か、金子でもくれんのかな。

「安崎彦五郎、お主に南郷家侍大将の身分を与える。」

おお、思った以上の褒美だ。侍大将になれば、どこの馬の骨ともしれないやつという評価を脱することができる。子分たちをまとめるのも楽になるぞと感動に打ち震えていると謎の単語が聞こえてきた。

「加えて・・・」

加えて?まだなにかあるのか、金子かな?

「旧佐柄領を与える。しかと治めい。」

・・・は?

「ははぁ。」

と口には出したものの大混乱である。え?領地?


佐柄領は鳥取県智頭町のような形をしている。本村はJR智頭駅の辺り、総人口は約5000人といったところか。


「すげえぜお頭!城持ちかよ!」

衝撃の発表の余韻そのままに麓村にて酒盛りをしている。

「はい。素晴らしいことです。ただ、話が美味すぎます。たしかに大将首はとりましたが、本隊を撃破した南郷家より報償が大きいのは考えられません。」

茂吉は素直に祝福し、五郎は南郷家の対応に疑念を抱いているようだ。五郎は相変わらず鋭いが、

「それなんだがな、どうも政治がからんでいるらしい。」


 尼子家の立場からすると、傘下を攻め滅ぼした南郷家は許しがたい。ただ、先に始めた訳では無いから責めるだけなのもかわいそう。佐柄領は南郷家の家臣に与える形をとれば南郷家そのものに得はないから罰としては十分だし、南郷家の勢力圏が拡大することになるから報酬とも言えて良いバランスだ。よし、佐柄当主を討ち取った男に与えれば文句もでるまい。

 

 こういうことだと南郷家の役人に耳打ちされた。「あくまでも南郷家の家臣であるということ、ゆめゆめお忘れ無きように。」だってさ。

「ま、素直に領地をえたことを喜ぼうじゃないか。」

「そうっすよ。」






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー       

          安崎 オチバ 十八歳               

 南郷家 侍大将

 拠点 麓村

 支配領域 山中村 100人

      旧佐柄領 5000人

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

※鳥取県智頭町


総人口 6,233人

世帯数 2,674世帯

2024年3月1日現在の鳥取県の町。出典:智頭町ホームページ (https://www1.town.chizu.tottori.jp/1/)


和牛やキクラゲが名産らしい。


町の大半が森林で、豪雪地帯。作者は鳥取に雪のイメージがないが、調べてみたら


月最深積雪の大きい方から(cm)

135(1984/2/10) 111(2017/1/24) 98 (1984/3/11) 87(2011/1/17) 86(2023/1/28) 86(1984/1/31) 85(2017/2/11) 78(2009/1/15) 74(2022/1/21)


出典:気象庁ホームページ

 気象庁「智頭 観測史上1~10位の値(年間を通じての値)」 (https://www.data.jma.go.jp/obd/stats/etrn/view/rank_a.php?prec_no=69&block_no=0718&year=&month=&day=&view=)を加工して作成。


こんな感じだった。


月最深積雪の大きい方から(cm)

120(1961/1/18) 118(1896/1/23) 106(1943/1/9) 106(1895/1/21) 103(1945/1/19) 100(1961/2/3) 87(1984/1/28) 86(1983/2/12) 82(1969/1/3)


出典:気象庁ホームページ

 気象庁「新潟 観測史上1~10位の値(年間を通じての値)」 (https://www.data.jma.go.jp/obd/stats/etrn/view/rank_s.php?prec_no=54&block_no=47604&year=&month=13&day=&view=h0)を加工して作成。


新潟がこんな感じなので、新潟と同じレベルの豪雪地帯らしい。この情報、本編に活かせるといいけど。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る