怪しげな男
佐柄家当主を討ち取った。これが某戦国ゲームならば領土が広がるところだがここは現実、そうもいかない。
この世界では各地の領主は基本的に3~5村を治めて居るが、中には10も20も村を支配し、大きなまちを治める領主もいる。彼らのことを大名と呼ぶのだが、普通の領主はそういった大名の傘下に入り、言うことを聞く代わりにもしものときは守ってもらう。
佐柄家と南郷家は互いに同じ大名に仕えていたらしい。同じ大名家の傘下が刃を交えることは好まれていない。大名家にとっては勢力が弱まるから当然だ。で、佐柄家は当主の証である兜もとられて滅亡寸前なので主家に南郷の非道を訴え、南郷家当主は申し開きをするべく大名家の居城に足を運んだ。
「お頭、人がすげえですね。」
最近なんとなく敬語が使えるようになってきた茂吉がまっすぐ進めないほどの人だかりという人生初の体験に感動する。ぱっと見た限り民家がずらりと並んでおり、ここ半年ぽつりぽつりと点在する茅葺きと田畑と山々しか見てこなかった安崎も気圧されてしまう。このまちだけで人口は数千人はいるかもしれない。南郷家とは規模がちがう。
南郷家当主の護衛として大名家に向かうこと数ヶ月、月山富田城に登城するのは当主様と側近だけなので俺たちは城下を散策していた。
「茶屋でも寄りましょう。」
人混みにぐったりした茂吉達を見かねた五郎の発言により、麓村出向兵5名は茶屋に立ち寄ったのだった。その茶屋は店内ではなく外に設置された長椅子で一服するシステムで、俺たちも適当に注文した団子を貪っていた。
「よお、おめえさんたちどこから来たんだい?」
丁度感動した茂吉が故郷とは団子の味まで違うと熱弁しているところに声をかけられた。無精ひげを生やした風来坊のなりをした男はこちらにずずいと身を寄せてくる。
「俺たちは因幡の方からだよ。あんたは?」
「俺?俺はここの住人さぁ。そうか因幡か、はるばるだねぇ。」
「まあそうだな。なにもかも別世界で驚きだよ。」
「まったくでさあ、こりゃあうちのお殿様が急いで頭下げに行ったのも理解できやすね。」
「お殿様ぁ?するてぇとあんたら武士か?そうは見えねぇなあ。」
「いいや、俺たちは百姓だよ。ちょっと手柄を立てたもんで信用されてんのさ。」
すると男は怪訝な顔をした。
「おめえさんは百姓ってぇかんじでもねえなぁ。」
「それは光栄だね。あんたは武士かな?」
「そう見えるかぁ?」
「ああ、見えるとも。」
そう。小汚い身なりをしたこの男、なんとなく南郷家のお殿様と同じ匂いがする。うまれながらに人を威圧してきた人間。武士で間違いないだろう。
考えをめぐらせているとこの男は何を思ったか突然呵々大笑し、腰を上げた。
「いい眼をしている。長生きするぜぇ。俺は吉田孫四郎ってんだ。じゃあな。」
男が去って行く後ろ姿を眺める。
「ご存じですか?」
「いいや、知らん名だな。五郎も知らんか。」
「はい。」
ここは俺の居た世界の戦国時代とはまた別のようだからなあ。わからん。機会があればまた会うか。
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大名家は尼子家をモデルにしていますが、家臣団や支配領域など詳しいことが作者の勉強不足によりわかりません。そこで尼子家に似ていますが全く別の家ということにしました。同様に毛利家とかも出てくる予定ですが人名と支配領域と地名と城名が同じなだけで、無関係です。
作中「数ヶ月で着いた」とか書いてありますが、この世界は危険がいっぱい。盗賊に襲われたり、大雨で川が通れなくなって足止めを食らったりしますので、以前2ヶ月で着いた場所3ヶ月かかることもよくあります。反対に、主家に急かされて強行軍で移動したりもします。
4月19日 修正
4月26日 移動時間修正
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