戦の始まり
「槍はそっちだ!」
「刀研いどけよ!」
ここは麓村。かつては平穏、いや静寂な村だったが、安崎達が住み着いてから賑やかな村になった。騒々しいと言い換えても良い。
そんな麓村だが、現在騒々しいを通り越して殺気だっている。安崎一味が戦支度でせわしなく動いているためである。
麓村の兵は此度の戦において本隊ではなく安崎率いる部隊に組み込まれる。安崎に率いられるのはここ半年同じなのだが、安崎が指揮系統の最上位というのは初であった。そのため安崎直下(古参・麓村からついてきた奴ら・山中村の数名)は大手柄を前に興奮している。
安崎は自軍の最終確認を行っていた。武器、食料。けして不足の内容に気を配りつつ、仲間の様子も見て回る。一世一代の戦いを前にメンタルに不調をきたしていないかは重要だ。ついでに軽く雑談をかわしていたのだが、
「あ?半兵衛もういっぺん言ってみろ。」
「へ?観天望気が得意っす。」
・・・まじか?正直半兵衛に知的な印象はないぞ。いや観天望気と知的さに関係はないか?どうする、信じるか?・・・いや、別に観天望気ができるからどうということもないか。こちらが戦の時間を選べるなら雨のとき襲撃とかやれるけど、今回待ち伏せだからな。うん。
「いずれ役に立つ。そのときは頼む。」
「はいっす!」
新事実の発見もあったものの、準備は滞りなく終了し、いよいよ村を出発する日となった。
「よおし!いいか、よく聞け。これより作戦をを伝える。」
俺の前にはギラついた目の男が数十人。気合いは十分である。
「俺たちはこれより進軍を開始し、佐柄家本村に到着後森に潜む。その際なんか良い感じに罠を張り敵の退却の邪魔をする。敵がきたら大将首のみを狙う。他は気にするな。」
「お頭、大将はどんなやつっすか。」
「ああ、良い質問だ。南郷家の武士曰く、『武門の家は名誉を重んじます。どれだけ危機が迫ろうとも家紋の兜を身につけているはずです。』とのことなので家紋の兜を被り、立派な鎧を着けたやつが大将だ。これが家紋らしい。」
安崎が見せた和紙に書かれた家紋を子分達が食い入る様に見つめる。なにせ敵の総大将だ、討ち取ればどれほどの褒美がもらえるのか。
子分達が目の色を変える中、五郎が不安げな顔で質問してきた。
「あの、お頭。良い感じの罠ってのは具体的になにをやるんですか?」
ああ、うん。さすがは五郎、わが盗賊団きっての知恵者。そこに気づくとはやるな。
安崎は穏やかな顔で告げる。
「これから考える。」
目の前の五郎は真っ青である。
「なにが不安だ?戦まであと数日ある、その間に考えりゃ良いだろ。」
安崎はガシッと五郎に両肩を掴まれる。
「かしらぁ、あと数日ですよ?失敗すれば俺たち皆さらし首です。」
「お、おう。」
「今考えましょう。」
五郎の初めて見せる表情におののきつつ安崎達は罠の案を出し合った。
結果、全然だめである。
「どーすんですか!?もう出発しないといけないのに。」
「つってもなあ。今から用意できて、妨害に適しており、最悪見つかっても罠と思われない。そんなのあるかぁ?」
「しかし、罠がなくっちゃ。多分向こうは騎馬ですよ?疾走する騎馬を止めるのは無理ですよ。」
「そうだなあ。よし、縄にしよう。」
「縄?」
「ああ、太い縄を道を横断するように張る。騎馬は足をとられるって寸法だ。」
「・・・良い案ですね。どう考えたって道に縄があれば怪しまれますが。」
「この際しかたねえな。」
気を取り直して、出陣の号令。
「お前ら、これまで戦場を駆けずり回った日々を思い出せ。俺たちは強い!俺たちなら大将の首をとれる!」
一拍おく。苦楽をともにした仲間達を見回す。俺たちなら、やれる。
「いくぞ!」
「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「おおっ!!!」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」
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