一世一代の襲撃
心地よい夕暮れ時の中、俺たちは森に潜んでいた。
「佐柄の館は南郷家との小競り合いのせいで守りが堅くなっている。」
「はい。堀とか塀とかありますね。」
「一旦近くの山に潜むぞ。」
「お頭!それじゃあばれちまうよ。」
「安心しろ。平兵衛、今日は雨だな?」
「へい、おそらく当分降るっす。」
「雨?雨がなんになるんですか?」
「めくらましだ。俺たちの存在と、ついでに罠だな。」
たとえ佐柄軍が大損害を受けて逃げ帰ってきても、あの館は20名も籠もられたら手が出ないほどに堅牢だ。そうこうしているうちに周辺の領主が集まってくるかもしれない。
「一度きりだ。やつらが這々の体で帰還し、あと少しで館に帰れると気が緩んだそのときを狙う。襲撃の際は隣のやつの肩叩け、夜だと暗いからそれで合図しろ。」
安崎達が目的地に到着する少し前に雨が降り始めた。ぽつぽつと静かに降り始め、やがてバケツをひっくり返したような大雨になった。雨音が強すぎるため至近距離で大声を出さなくては会話もままならない。
「お頭ぁ!これ、佐柄がきてもわからねえっすよ!」
「あぁん!?気合いで見つけろや!」
みなが雨をかぶり、蓑で身体を覆ってはいるが、膨大な水の圧によって体力は削られていく。まずいな、こんな大雨だとまるで状況がわからん。それに、南郷家は勝てたのか?もし負けていたら俺たちは・・・
不安と闘いながら待ち続けて半刻ほどだろうか、突然馬のけたたましい鳴き声が響き渡った。独特の音、普通の鳴き声ではなくなにかあった音。
安崎は待ち望んだ瞬間に歓喜し五郎と茂吉の肩を叩く、この大雨の中、馬に乗るやつらは佐柄家しかいない。安崎が刀を抜くと周りの者も真似た。男達が一斉に騎馬の地団に襲いかかる。
騎馬の一団は大混乱に陥ったがさすがは武士、反応するものも多く乱戦となった。盗賊達が騎馬から引きずり下ろして武士を斬りつけ、武士が馬上から槍を突き出す。騎馬の一団は混乱で気づいていないが、安崎は騎馬の一団が自らの手勢の倍ほどはいることがわかった。このままではこちらが小勢であることがいずれ暴かれ蹴散らされてしまう。大将を討たねばならないが、混戦で大将がどこにいるのかまるでわからない。
そのとき安崎は南郷家の武士の言葉を思い出していた。特徴的な兜、家紋入りの兜。あたりを素早く見回すと騎馬と騎馬に挟まれた男が目に映った。やや腰をかがめたその男の兜は・・・・・
「居たぞぉ!!!そいつの首をはねろ!!!!!」
言うが早いか安崎は即座に駆け寄り斬りかかる。男も応戦し切り結ぶが茂吉が後ろから斬りつけ、うっ、と呻いて男がよろめく瞬間を逃さず、安崎は兜の男を袈裟切りにした。
安崎はすぐさま家紋の兜を剥ぎ取りそのまま戦場から離脱する。盗賊達もあとを追うが、騎馬は主君を助けるため追撃はしなかった。
湖から這い出て数か月。安崎は領主を討つことに成功したのだった。
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