刃をたずさえ、穏やかに語る

 襲撃は無事に成功した。畑仕事をしていた村人を2,3人しばき、村人を引きずって民家に侵入さらに複数人捕まえた段階で異変を感じた村人達が集まってきたので恫喝する。「こいつら殺されたくなきゃ村人全員集めろや!」と、こんな具合に。

 

 「お頭!村人全員集まりました!」

 「念のため周りも確認しろ。見張りも立てとけ。」

「へい!」

 さて、村人がかなり多い。俺たちの人数では村人が暴れ始めたら逃げるしかない。そこで村人を二グループに分け、一グループは縄で縛って蔵に閉じ込める。出入り口は一つなので見張りに古参(ごろつき三人組のこと)を一人と新参(麓村のやつら)三人を配置。もう一グループは集会場にまとめ、残りの仲間達で見張らせる。面倒だが、暴れられちゃあたまらないからな。人質は必須。


 杖をついたよぼよぼの人物がでてくる。こいつが村長か?

「安心しろ。なにも襲撃しにきたわけじゃあない。ここは特殊な村だからな。少々手荒な真似をしたが、おとなしく言うこと聞けば指一本触れやしねえ。」

「・・・して、その、なんのご用で?」

「ああ。これを見ろ。」

 俺は一枚の書状を村長の眼前に掲げる。ふと、こいつ字が読めるのかと疑問に思ったが、

「こ、これは。南郷家の!」

 杞憂だったようだ。俺が見せたのは南郷家当主、南郷忠恒の花押入りの紙。内容はこの村君の好きにしていいよ。というもの。

「そうだ。我々は南郷家から遣わされた。逆らわない方が身のためだ。」


 ちなみにこの書状、偽書である。当主に会ったら首が飛びかねず要求を伝えたら取り囲まれかねない。時間をかけるわけにはいかなかったので、姫君に花押だけ(木の板に五郎の持っていた短刀で)書かせ、麓村のお寺で紙やら筆やらを拝借して作成した。南郷家にばれれば首が飛びかねないが、どうせ捕まれば首が飛ぶので気にしない。


「いいかよく聞け。年二回、夏と秋にここに来る。その際収穫物の3割を納めろ。畑でとれたものすべてのうちの三割だ。狩りの成果などからは徴収することはない。」

 この要求、かなり甘めである。社会の先生が「戦国時代のころはホントひどくてね、七公三民、つまり70パーセントの税金をかける領主もいたんだ。」とおっしゃっていたのだから間違いない。・・・甘めのはずなんだが村人は皆一様に渋い顔である。いままで年貢無しだったからか。なんて奴らだ。


 と、領主でも何でも無いのに年貢を集めようとしており、この村を支配しても南郷家に上納する気は無い自分のことを棚に上げて安崎はぶつくさ言う。


「頭、敵に襲われたときに守ると取り決めをかわしてはいかがでしょうか。」

 俺がうんうん唸っていると賢い五郎が耳打ちをしてきた。

 悪くない案だ。ただ食料を差し出せと言われるより心情的に受け入れやすかろう。


「ただ搾り取ろうって訳じゃない、いままでできなかった交易をかわりにやってやってもいいし、敵が来たら守ってやろう。」

交易をしているかどうかは調べていないが、麓村の奴らは知らなかったので少なくとも麓村とは交易していない。そして、相変わらず渋い顔をする村人達。


「おまえたち、なにか勘違いしていないか?」

 怪訝な顔をする村人達を前に続ける。

「我々は南郷家の命でここにいる。しかしここは佐柄家の領地だ、我々に従わないというのならば、佐柄の兵がやってくる。ここは本来佐柄の土地だからな。我々は宿敵である佐柄の力を削ぐためにこの地を守りにきたが、当の村人が要らないというのなら、仕方が無い。佐柄領は八公二民だったか?」

 年貢高など知らんが。

「はい、戦の支度もございますので年貢を上げているようです。」

「加えておぬしら、今まで年貢逃れをしてきたのだからなあ。最初は一切合切もっていかれるだろう。」

「は、小麦一粒にいたるまで根こそぎ持って行くものと思われます。」

 よしよし。さすがは五郎。こちらの意図をしっかりくんでくれる。俺は真っ青な顔をしている村長に顔を近づけ囁いた。


「で、どうする?」


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 安崎 オチバ18歳

 手勢 23名

 拠点 山中村 

 支配地域 山中村 人口100名

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 子分、ごろつき、古参と呼び名がころころ変わり、作者が混乱したので、名前をつけました。

 賢くて誠実 五郎

 語尾が「っす」 平兵衛

 口調が荒い 茂吉


 見切り発車は良くないですね。麓村の奴らはこの先も麓村のやつらです。



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