強行軍

 で、各々準備した結果、仲間になりたいやつはそこそこ集まったが物資がない。武器も食い物もない。この村どうやって生きてきたんだと疑問になるほどすっからかん。とりあえず新しい仲間には鍬やら木の棒やらを持ってこさせた。貧弱な装備に不安になる。いざというときはかまわず見捨てよう。


 作戦を伝えて進軍するが、驚いたことに山中の集落の存在をだれも知らない。焦る。あの娘が適当なことを語っていた場合、全員飢え死にする。山を数日登るとつくとのことだが、数日分の食料はない。計算によると死にはしないので、飢え死に寸前の状態で目的地を襲い、食料をいただく計画となっている。だめかもしれない。あまりにも余裕がないその計画にめまいがする。


 道中はなんら危険は無かった。雨も降らず、盗賊も野犬も現れない。ただただ腹が

減るだけである。用意した食料は二日で底をつき、かなりの強行軍で進んだため仮に麓の村に引き返そうとしても帰りの道中で餓死することはほぼ間違いない。最初は不満を口にするものも居たが、事ここに至り、盗賊たちには強い緊張感と連帯感がうまれていた。もはや奪う以外彼らが生き延びる術はないのである。失敗は即ち死を意味していた。


 激しい空腹の中、安崎たちはさらに半日ほどでついに件の集落を発見した。家が見えるギリギリのあたりでみなが座り込む。

「規模がわからんな。畑はずいぶんと広いが家はそうでもないか?」

「見渡す限りの畑ですね。家は30軒ほどですか?」

「多いな。こんな山の中にこれほど大きな集落があるとは、やはり年貢を納めていないな?」

「おそらくは。領主どころか地元の農民も存在を知らないようですから、年貢を納めず栄えているのでしょう。」


 すると連れてきた農民たちは怒気をみなぎらせていた。彼らが貧しいのは年貢のせいである。悪いのは重い年貢を課す領主なのだが、自分たちは苦しい思いをしているのにこいつらはずるい、ということだろう。言葉にするとマイルドだが実際は目から光が失われ静かに殺意をみなぎらせていた。怒鳴ったり憤怒の表情をするよりよほど恐ろしい。だが、その怒りの矛先は俺ではない。


「さあ、おまえたち自分たちだけ豊かな暮らしを謳歌している連中を懲らしめようじゃないか。なあに本来は領主の懐に入るはずのものだ。おれたちが奪っても問題あるまい。・・・いくぞ!」

「「「「「「おお!」」」」」」

 安崎率いる20数名の盗賊団は、平和な集落に襲いかかった。


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突然ですが、安崎と子分達が捕まえた領主の娘は南郷といいます。つまり、安崎はこの先、「お前初犯どこ?」と問われた場合「南郷家の領地。」と答えることになります。麓村は佐柄家の領地です。


麓村は東山の鳥取県若桜町側の麓をあたりをイメージしています。

南郷家の領地は大体鳥取県若桜町です。

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