準備だ準備だ

 娘たちを解放して男たちは目的地に向かう。

「いいかおまえら。武器はある。食いもんはさっき奪った。だが山を登るからな、装備もそこで調達する。平和的にな。」

「へ?何ですか?奪っちまいましょうよ。」

「そうっすよ。っそもそもなんで山んなかの集落なんかに行くんすか?」


 子分の発言にあきれかえる安崎。そういえば説明していなかったか。

「いいか、このままちまちま農村をつついても、いずれ干からびるか領主兵にしばかれるだけだ。」


 子分たちはそろって不満げな顔をする。自分たちなら大丈夫と思っているのだろう。だが安崎は知っている。先ほど娘から聞き出した話だとどう少なく見積もっても100万人はこの国にいる。さらには全国すべてがこんな田舎程度の人口と考えてこれなのでおそらくこの数倍は居るとみて良いだろう。もっと栄えた地域が各地にあるらしい。特に都は別格だと。となれば数人のごろつきなどたやすく消えてしまう。なにか策を練らなくてはならない。そこで練ったものが、

「孤立した集落を襲う。可能ならば支配する。」

 

 孤立した集落ならば救援が来ることはまず無い。状況が伝わる危険性も薄い。集落を襲い力を蓄える。稚拙な考え、まさに子供の絵空事。実現できるとも思えない。だが、すでに安崎はこの世界の住人ではない、農民にも商人にもなれない。氏素性怪しきものは奪うことでしか生きられない。まっとうな職には就けない。やるしかない。そうだ、奪うしかない。

「いくぞ、お前ら。」


 安崎は装備を調えるべく麓の村に向かった。

「ずいぶん廃れた村だな。」

「子供と年寄りが少ないですね、それにみな痩せ細っている。」

 ずいぶん貧しいのだろう、子供と老人が見当たらないのは家でへたり込んでいるか、山にでも捨てられたか。

「にしてもひどい村だな。」

「はい、おそらくここは年貢が二重なんでしょう。」

「二重?」

「領主様同士が領有権を主張してるんでしょう、そういう土地はどちらの領主も年貢を取るんですよ。」

「んなことやったら税収が減るだろ。」

「まあ、それはそうなんですがね。領地が減るのはいやだが合戦となるといろいろとたいへんですから、そうやって折り合いをつけるんですよ。」

「農民にとっちゃあたまったもんじゃないな。」

「しかし逃げ出すこともよっぽどのことがない限りできませんから。結局年貢が高くても耐えるしかないんですよ。」

 

  それでこの状況か、しかし・・・それはついてるな、おそろしいぐらいだ。

「おい、お前ら若い男に声かけてこい、いいもうけ話があるってな。」

「へ?まさか仲間にするんすか?」

「あ?変な話じゃねえだろ?合戦に出稼ぎに行くなんざ当たり前じゃねえのか。」

「そうっすね?」

「ここみたいな土地は戦が起きると両方から参戦要求がくるんすよ。それでどちらかにつくわけです。ただ兵を集めるとその土地を領有しているということになりますから、もう一方の領主に角が立ちますんで基本的にはやらないですね。」

「それで戦にも出られずこの貧しさ、と。」

「はい。」


 なるほど。ところでこいつやたら賢いな。五郎と名乗ったそいつをしげしげと眺める。他二名は全くわかってなさげだがこいつは違う。うーむ。まあいいか。


「よし、そういう事情があるならなおさら集まりやすいはずだ。片っ端から声かけてこい。」


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 4月16日 修正





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