押しかけ子分

 安崎はとりあえずの行動方針を固めることにした。当面は衣食住の確保と自由な生き方の模索。これを目標に生きるとしよう。うむ、不安でいっぱいである。


 安崎は自伝を書けばものめずらしさから軽く話題になるであろうマイナーでアングラなお仕事をしていたおかげで危機的状況への対処も一般男子高校生よりすぐれている。すぐれているのだが、安崎の脳裏に今浮かんでいるのはかつて同じ界隈で生きていたとある外国人である。彼は実に優秀な男で機転が利いた。半グレと軽くもめたときはなんの打ち合わせもなしにカレー屋の店主に化けて敵を誤誘導した。そんな彼はもともと別の夢を持って来日したのだが、ビザが切れた後も日本に居残っており、まっとうな職には就けなくなったので安崎と同じまっとうではない職に就いていた。


 現代日本は外国人に厳しいとよく言われたが、この世界も外国人、もとい異邦人には厳しかろう。当然件の男のようにまっとうでない職業につくしかないが法整備がされていない世界では命の危険は元の世界と桁外れなはずだ。江戸時代に窃盗を重ねて死罪になった男の逸話を思い出し、安崎はぶるりと身体を震わせる。


 加えて職業以前に命の危機がある。まず食料がない。さらに、先ほどの農民の服装から推定される時代の農村は閉鎖的である。この場合、外との交流が無いといっているのではなく、中の交流が固いというニュアンスとなる。具体的にいうと、知らない人間がやってきたら集団で袋だたきする。それもヤンキーの袋だたきを超えた、最後まで行う袋だたきが繰り広げられよう。自分が肉だるまになる光景を想像しながら行動には十二分に注意せねばと決心する。それにしても腹が減った。キノコでも探してみるか?


 獣道を注意しつつ這い上がっていると後ろから声がかかり、安崎は足を止めて振り返った。見知らぬごろつき風の若い人が三人。安崎は即座に逃げ出した。


「おい!待ってくれよ!あんたの子分にしてもらいてえんだ!」

 三人のごろつきはその場にしゃがみこんで安崎を呼び止める。このシチュエーション、現代日本を生きていた頃ならばまず逃げていた。


 子分というのはもう少しなし崩し的になるものであって、自分から頼み込んでくるやつは基本信用できない。加えて突然すぎる。かつて安崎に「いやあ、子分にしてほしいって突然土下座されてよ。俺もなかなかのもんだろ?」と話していた知り合いは子分改め敵対組織のスパイに刺されたと聞いて以来音沙汰が無い。そういうこともある、大体そういうことなので安全策をとるのが暗い世界を生きるものたちの基本である。基本なのだが、安崎は切羽つまっていた。今日の飯も危ういのである。たとえ将来裏切られようが今は受け入れた方が良い。という結論に至った。


「良い心がけだ。理由を聞こうか。」

「おお、おめえの強さに感服してよ、殺しに慣れたやつはいくらでもいるがあんなに手際良く淡々としたやつは見たことがねえ。子分にしてくれ!俺たちはここらは詳しいんだ!役に立つぜ!」


 うさんくささは消えない。「あんたの強さに感服した。」と連れて行かれた先で大勢のヤンキーに囲まれたことがある。ちなみに逆も二度やった。だが今日の飯も危ういのである。大事なことだ。


「よし。お前ら三人子分にしてやる。ただし、二つ約束してくれ。俺の過去は聞かない。裏切らない。この二つだ。」

「おお!ホントか!もちろん約束するさ!」

「ああ、俺も。」

「俺もっす。」


 人目につかない場所に移動してごろつきたちと向き合う。

「俺はとある事情で今夜の寝床もなけりゃあ食い物もない。次の動きのためにお前らの話も聞いておこうか。」


 ごろつきどもが口々にうったえたところによると、8日前悪事がバレて殺されそうになったので村から逃げ出し今に至る、とのこと。


「食料も底をつき途方に暮れていたときにあんたに出会ったんすよ。」

 ごろつきのひとり(平兵衛というらしい)が現状をまとめた。同時に納得する。いつの時代だろうと初対面の人間に突然子分にしてくれなんて別の目的がなければ言わない。しかし、こいつらも切羽詰まっている。おそらくは盗賊になるつもりだろう。日雇いの仕事もまちに行けばあるだろうがここは見渡す限り山だからな。一日二日でたどり着ける場所にまちはあるまい。食料のない俺たちはたどり着く前に行き倒れだ。


「話はわかった。じゃあ計画を立てるか。」

 俺が納得しているとぽかんとする三人組。

「あのーなんの計画で?」

「そりゃもちろん盗みの計画。」


 おおっとどよめく三人組。ひそひそと「盗賊だったのか。」「道理で鮮やかな動きだったわけっすね。」「どうする?」「このままじゃ野垂れ死だ、ついて行こうぜ。」と言葉を交わす。どうやら盗賊になるつもりはなかったようだ。早とちりしてしまったが気にしない。


「ぜひ、話をきかせてくだせえ。」

 内緒話がすべて聞こえてくるあたり、裏が無くて逆に怪しいが、今はそれどころじゃない。生き抜かなくてはな。


 さて、この世界での記念すべき初犯は、

「村娘を捕まえる。」

 複雑な戦略を示したところで理解できるとは思えない。価値観が違う。義務教育をこいつらはうけていない。なにより付き合いが浅すぎる。心情を推し量り内容を補うほどの信頼関係を築けていない。だが、


 安崎は単純明快に作戦と成功する根拠を伝える。今彼らを導く。それができればうまくいく。


「いくぞ。」




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 安崎オチバ 18歳

 手勢 3名

 拠点 無し

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 何話か統合しました。今まで適当に区切りをつけていたのですが、編集中に見返したところ、読みづらいという衝撃の事実に気づきました。なんということでしょうか。


 諸般の事情により、「三人の男」ではなく三人のごろつきにしました。

4月16日 修正


4月20日 修正


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