第19話 リア王~コーデリア~
わたし達三人は再びジェバンニ号に乗って海を目指した。
ショゴスを倒した後は、すぐすぐ無事に到着した。
海岸沿いにある海の家の駐車場にジェバンニ号を駐車する。
「すごい……綺麗な海ですね」
エリスが青い海を見て感動していた。
わたし達はジェバンニから降りて海の匂いを浴びる。
「あんまり波はないわね。
風もないし。
海を見るには良い気候ね」
海水浴をするにはまだ寒い。
「コーデリアさんは、海はよく行きましたか?」
エリスがコーデリアに話しかける。
「いいえ。
あまり行くことはなかったわ。
ブリテンとフランスを渡るときくらいかしらね」
コーデリアはブリテンの王女に産まれて、フランス王に嫁いでいる。
ということは渡った海はドーバー海峡。
どんな景色なんだろう?
日本の海とは違うのかな?
そんな景色も気になるけど、せっかく海に来たから見るだけじゃもったいない。
「さて、海に来たら着替えないとね」
「着替えですか?」
「ええ。海には海の正装があるのよ」
わたしは二人を連れて海の家に入った。
さっき地図で海の家を確認した時に発見した。
ここでは水着を売っているのだ。
「うわぁ!」
「すごいですね」
海の家には水着が所狭しと並んでいた。
ワンフロアが丸ごと女性用水着で埋め尽くされている。
色も形も様々でよりどりみどりだった。
ワンピース、タンキニ、ショーパン、ボーイレッグ、オフショルダー、ワンショルダー、ハイネック、ビスチェ、モノキニ。
何でもあるな。
「コーデリアの水着はわたしが選んであげるわね」
「え?」
コーデリアは急に呼ばれて驚いていた。
コーデリアはまず、海に入るときに水着を着るという文化もよく分かっていないだろう。
ここに並んでいるのが外で着るための服であるかどうかもよく分かっていないと思う。
「はい、こっちに着て服を脱ごうね」
わたしは売り物の水着を何着か手に取った。
コーデリアのサイズに合いそうなものを選ぶ。
そしてコーデリアと一緒に試着室に入った。
周囲にはわたし達しかいないからその場で着替えても良いような気がするけれど。
「着替えるの?」
「ええ。まずはこれを着てみよっか」
「こんな小さなものが服なの?」
「もちろんよ。海ではこれを着るのが普通なの」
「未来というのは不思議な文化なのね」
わたしはコーデリアの服を脱がせる。
コーデリアはわたしの動きに合わせて恥ずかしがることなく全裸になる。
流石は王女様だ。
着替えを他人に手伝ってもらうことに慣れている。
堂々としたものだ。
「しかし、随分着やせするのね」
「そう?」
白い花柄のビキニをコーデリアの胸に当ててみる。
うん。
サイズが足りない。
服を着た状態での目測は合わなかったようだ。
コーデリアは思っていたよりクイーンサイズだった。
わたしは裸のコーデリアを置き去りにして一人で売り場に戻った。
コーデリアの水着を選び直す。
コーデリアの体型に合う水着となるとバリエーションが減ってしまうかと思ったけれど、そんな心配はいらなかった。
この海の家にはコーデリアのサイズでも充分な商品が用意されている。
わたしは水着を三種類ほど選んで、コーデリアに持って行く。
コーデリアは試着室で待っていた。
全裸の状態で鏡を眺めていた。
「良い体型しているわよね」
わたしはコーデリアに声をかけた。
「そうかしら?」
「ええ。町を歩けば、男性に声をかけられまくったでしょ」
この顔にこの身体である。衆人の目を惹かないわけがない。
「そういうのが嫌ですぐに引きこもるようになったわ。
町もあんまり歩いていないのよ」
やっぱりそうなっちゃうか。
最近はクトゥルフの怪物も出没するようになったから余計に外を出歩く人が少ない。
「声をかけてくる人が、忠実な召使なら欲しいけれど、そういう感じでもなさそうだし」
それもそうか。
王女様だものね。
「でも、良い身体しているのは誰もが納得するのよね。
ほら、これを着てみて」
わたしは水玉のビキニをコーデリアに着せる。
「これは、ただの下着では?」
「下着より厚手だし、それに水を弾くわよ」
露出面積はあんまり変わらないけれど。
水着の文化を分からない人にこの格好で海に入ることを説明するのは難しいなぁ。
「そんなものなのね」
コーデリアは水着を着た自分の姿を鏡で見る。
いろんな角度からポージングをして見ている。
「写真撮って良い?」
わたしはスマホのカメラを構えた。
「え? まぁ、良いけど」
コーデリアはすぐOKした。
危機感が無いなぁ。
デジタルネイティブじゃないから仕方がないけど。
そういうのも教えないといけないな。
「わたし以外の人に写真を撮らせちゃ駄目だからね」
「そうなの?」
「ええ。ろくでも無いことに使われるから」
王女の水着写真なんてとんでもない高額で売買されかねない。
風評被害も受けかねない。
そんなこんなでコーデリアの水着が決まった。
ついでにわたしも水着を着て、試着室を出る。
エリスも水着を着て準備万端だった。
青いワンショルダービキニ。
「エリスの水着は、踊り子の衣装みたいね」
そういう意味では普段とあまり変わらない。
「ええ。
このままダンス動画の撮影をしても良いですよ?」
確かにそれも良いかもしれない。
浜辺のダンス。
映えるなぁ。
「でも今日は遊びましょ。
車のおかげで、これからすぐにでも来れることができるんだし」
コーデリアが車を譲ってくれたおかげだ。
コーデリアへの感謝をこめての親睦会だ。
「遊ぶって、何をするんですか?」
エリスがわたしに訊いてくる。
「まずはビーチバレーかな」
わたしはさっき水着と一緒に買ったボールを見せる。
スイカ柄のビーチボール。
「ビーチバレーってなんですか?」
まぁ、知らないよね。
近代の遊びだしね。
あとで二人の時代の娯楽も聞いてみたいな。
わたしは二人を連れて、浜辺に到着した。
靴を脱いで裸足になる。
足裏に触る砂がこそばゆい。
春の日差しも悪くない。
浜で遊ぶには丁度良い、心地好い気候。
「ボールを高く弾いて、みんなで落とさないようにするのよ」
わたしは二人にルールを説明する。
そんなに本格的にバレーをするわけではない。
軽いボール遊びをするだけだ。
「じゃあ、いくよ」
わたしはエリスに向かってボールを投げる。
エリスはわたしの言った通りにオーバヘッドパスを極める。
ボールは高く宙に舞う。
続けてコーデリアもアンダーハンドパスをする。
これもちゃんと宙に上がる。
二人ともボールに触るのは初めてだろうにきちんと扱えている。
もともと運動神経自体は悪くない。
エリスは踊りをやっているし、コーデリアは騎士として戦争に参加するくらいだ。
動きが段違いだ。
むしろわたしが一番下手だった。
わたしのエラー回数がかさむ。
「いまのもサイリさんのエラーですね」
「ぐぬぬ……」
回数を重ねるうちにエリスに煽られるようになってきた。
そんな様子を見てコーデリアがくすくすと笑っていた。
こんな楽しい美少女たちとのビーチバレー。
ああ、幸せだ。
間違いなく幸せの時間だった。
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