体育祭①
今日は体育祭。
先ほど開会式が終わり、俺はたった今、自クラスの応援席に座ったところだ。
体育祭とか、陽キャのためのイベントだよな。俺は勝ち負けとかどうでもいいし、スマホでもやってるか……。そんなことを思った俺は、ポケットからスマホを取り出し、パズルゲームをやり始める。
空は曇っていて、屋外でも画面がそれほど見えづらくないのがありがたかった。
四十分ほどゲームをやっていると、突然、メッセージの通知が来た。表示されたメッセージは無藤さんからのもので、「百メートル走の予選は見てくれましたか?」という内容だった。ずっとゲームやってたから見てないな。無藤さん、出てたのかな……?
俺はすぐに「無藤さん、百メートル走に出てたの? 結果はどうだった?」と返信する。その数秒後、無藤さんからメッセージが返ってくる。
——はい。結果は決勝進出でした。返信が異様に早いですが、体育祭ちゃんと見てます?
うっ、バレたか……。無藤さんの鋭さを感じさせる質問に一瞬、ドキリさせられる。しかし、「決勝進出」という文字に目を戻すと、自然と彼女を称賛したくなってくる。
決勝進出ってほんとすごいな。無藤さん、運動もできるなんてまさに完璧超人だ……。
——おめでとう! 午後の決勝はちゃんと見るね。
俺は無藤さんに叱られたくはないので、「体育祭ちゃんと見てます?」という質問には答えない形で返信する。
——ありがとうございます。次は部長が出る種目なので、ちゃんと応援してくださいね。
無藤さんのそんなメッセージの後には、おそらく誤爆したのだと思うが、「LOVE」という文字がデザインされたうさぎのスタンプが送られてきていた。
画面に映るうさぎのスタンプを見ていると、思わず笑みがこぼれてしまう。無藤さん、今頃「送り間違えた!」って、あたふたしてるのかな……?
スマホを見ながらにやついていると、「続いての種目は大縄跳びです」というアナウンスが聞こえてきた。無藤さんによると、部長が出るんだっけ……?
目線を上げ、しばらくグラウンドを見ていると、俺のクラスの応援席前に三年生の一集団がやって来た。偶然にも、その集団の中には部長の姿があった。部長、一人だけ金髪だからわかりやすいな。
「それでは始めてください!」
「……せーのっ!」
開始のアナウンスが入ると、回し手のかけ声とともに大縄が回され始めた。それと同時に、部長を含めた集団が跳び始める。
その直後、俺は一気に顔を熱くする。部長が跳ぶたびにその大きな胸が揺れてしまっているのが見えたからだ。
ぶ、部長! 刺激が強すぎるって……! 心の中でそう叫んでいると、クラスの男子たちの囁きが聞こえてくる。
「あの金髪の女子、やばくね?」
「な、めっちゃ揺れてる! しかも、顔もめっちゃ可愛い!」
俺はそんな囁きをする男子たちの方にちらっと目をやる。「顔もめっちゃ可愛い」か……。部長は可愛い系の顔立ちだと思ってたけど、やっぱりそうなのか。
しばらくして競技が終わり、結果発表のアナウンスが入る。
「……第二位は四十八回の一組。第一位は五十二回の六組でした」
部長のクラスは惜しくも二位だった。部長、頑張ってたんだけどな……。とても悔しそうな表情をしている部長を見ながらそう思っていると、不意に彼女と目が合った。その瞬間、彼女はいつもの明るい笑顔に戻る。
「おーい、みっきー!」
部長は俺に向かって大きく手を振ってくるが、手を振り返すのは恥ずかしいので、軽く頭を下げておく。すると、彼女は満面の笑みを浮かべた。
部長は顔立ちもそうだけど、いつも笑ってるから誰が見ても可愛いらしい人って感じがするなぁ。
◇
「続いての種目は百メートル走決勝です。……最初のレースは一年女子です」
午後のプログラムが始まって一種目が終わった後、そんなアナウンスが聞こえてきた。
あっ、無藤さんの応援しなきゃだ……! 俺はスマホを一旦ポケットにしまうと、無藤さんを応援するため、レーンの方に目を向ける。
各クラスの選手がスタートラインに立った後、次々に選手の名前がアナウンスされていく。
「……五レーン。一年五組、無藤優李さん」
——ワァーッ!!
無藤さんの名前が呼ばれた瞬間、一年生の応援席から歓声が轟き、驚いて思わず「え?」という呟きがこぼれてしまった。無藤さんが一年生の間で人気だってことは知ってたけど、これほどとは……。
無藤さんは一年生の応援席の方に向かって軽く手を上げる。まるでプロの陸上選手みたいだ。
「…………位置について」
少ししてスタート前のアナウンスが聞こえてきた。その瞬間、歓声に包まれていたグラウンドは静寂に包まれる。俺はなんとなく緊張してきてしまい、思わず鼓動を速くする。無藤さん、頑張って……!
「…………用意……」
——パァンッ!
ピストルの音が鳴った瞬間、選手たちが一斉に駆け出した。無藤さんは完璧なスタートダッシュを決め、他の選手たちから頭一つ飛び出す。そして、他の選手にぐんぐんと差をつけていき、最終的に圧倒的な大差をつけての勝利を収めた。
——ワァーッ!!
再び無藤さんに対する歓声が上がるが、彼女は喜ぶ素振りは見せず、一年生の応援席に向かって丁寧に頭を下げる。
俺はそんな無藤さんの姿を見つつ、大口を開けていた。……え? 無藤さんって、足にエンジン搭載してる? それに、素人目に見てもフォームがすごい綺麗だった。
無藤さんの走りに感心していると、クラスメイトたちの会話が聞こえてくる。
「あの一年生、速すぎないか?」
「無藤って苗字の子だよね! 陸上部かな?」
「そうじゃね? ちょっと見づらかったけど、美人って感じの子だったな」
「ね! まじ綺麗な子だった」
そんな会話を聞いていると、無藤さんが草むしりの時に「私、可愛くない女なので」と言っていたのが頭に浮かぶ。
無藤さん、やっぱり「可愛い」とは言われないみたいだ。まあ、外見だけ見ればそうだよな……。
そんなことを思って遠目に無藤さんのことを見ていると、彼女が俺の方を見て一瞬だけピースサインをするのが見えた。
え? 俺に向けてやったのかな? 無藤さん、可愛いすぎる……! 俺は無藤さんの方を見ながら思わず笑みを浮かべる。
部長は見るからに可愛い人って感じだけど、無藤さんはたまに可愛いところを見せてくれるからいいんだよな。
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