第8回 威療士の救助艇

「ハロー! もうひとつの世界ワールド!」


「どうしたのルー。風邪ひいた?」


「ワタシ、人間じゃないから風邪はひきませんっ。多次元宇宙マルチバースには、このコードでプログラムを始める伝統があるらしいのよ?」


「あいかわらず、意味不明なんだけど」


「じゃあ、こっちならエリーちゃんの得意分野でしょ? 今日は、レンジャーの救助艇について話してもらえるかしら」


「だから〈ハレーラ〉のコックピットに呼んだわけ?」


「そういうこと」


「あたしが言うのもなんだけどさ。〈ハレーラ〉は救助艇としちゃ、規格外なんだけど、いいわけ?」


「そのあたりも込み込みで、お願いできるかしら」


「わぁったよ」


「それじゃあ、エリーちゃん。よろしくね」


「ん。じゃ、〈ハレーラ〉の紹介からいこうか。この船は、あたしたちレンジャーチーム〈CL〉の救助艇で、わが家。つまり、“空飛ぶ家”ってやつ」


「改めて考えると、ぶっ飛んでるわよね。仕事道具に住んでるんだから」


艇だけに?」


「コホン……。続けて、エリーちゃん」


「はいはい。あたしたちレンジャーって、救命活動の要請でしょっちゅうあちこち行くわけ。いちおう、〈ネクサス〉っていう本部みたいなとこもあるんだけど、行ったり来たりするの、メンドイし」


「でも、一日に一回は寄るわよね?」


「出頭ってやつ。べつに通信でじゅうぶんなんだけど、カニカニとかハリハリがうっさいから」


「そんなふうに言うもんじゃありませんっ。レンジャーとしての義務です」


「わぁってるって。で、〈ハレーラ〉って家でもあるから、けっこうデカい。だいたい、一軒家ぐらい?」


この国ザ・ステイトの基準なら、そうね。庭がないぶん、小さいかもだけど。モーターホームのビッグサイズってところかしらねぇ」


「居住スペースはコンパクトなんだけど、“腹ぺこレベネス”の〈ポッド〉を置く医務室とか、あと、秘密の部屋とかで、見た感じは4階建ての家って、アキラが言ってた」


「住宅にエンジンが付いてる感じよね」


「そうそう。エンジンつったら、〈ハレーラ〉のエンジンはすごいよ。レイ爺ちゃんオリジナルのスーパーターボ搭載クアドロ・AGハイパーエンジンがさ――」


「――コホン。エリーちゃん? ウチの船には、レンジャー救助艇のノーマルエンジンしか積んでないわよねー? だって、救助艇の規格は一律なんですもの」


「ここでも言っちゃいけなかったの? てか、おかげでカシーゴ中どこでも10分以内で着くんだからさ、いっそ標準仕様にしてほしくない?」


「このワタシでも、ミスったらオーバーヒートするような代物よ? レンジャーがレンジャーの救命活動に駆けつける光景とか、見たくないわ」


「あ、ルー認めたし」


「もぅ……。〈ハレーラ〉がカスタムしてあるのは間違いないわ。でも! それは、エリーちゃんがちゃんと飛ばせるから。じゃなきゃあ、無理」


「まあね。救助艇は、現場にいち早く飛んでって、救命活動の臨時基地にするし、“腹ぺこレベネス”を搬送するのにも使う。ちゃんと飛ばなきゃ、意味ない」


「ちなみに、レンジャーだけじゃなくて、医療搬送にも救助艇は使われてるわね。緊急性が高い移動手段ってところ、かしら」


「まとめたね、ルー」


「長くなっちゃったし。エリーちゃんから付け加えておきたいことあるはかしら?」


「AGエンジンのこと、説明しなくていいわけ? このテック、けっこうヤバいとおもうんだけど」


「そうねぇ。多次元宇宙じゃあ、まだ発明されてないところもあるらしいし、また今度にしましょ」


「そのマルチバースって、なにさ」


「宇宙の神秘ってところよ」


「ふーん」


「それじゃあ、今日はここまで。みなさん、アディオス!」


「なんでそこだけ?!」

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