第7回 威療士の装備 ~〈ハート・ニードル〉~

「こないだ、レイ爺ちゃんが来たってマジ?」


「ええ、本当よ。エリーちゃんとロカがトレーニングしている間に、船の様子を見にきてくれててね。チャンス、って思ったの」


「よく喋ってくれたね。ぜったい嫌がると思ったけど」


「まあ、そこはこのルヴリエイトの腕の見せてどころ、ってとこかしら」


「で? きょうはなにすんの」


「エリーちゃんも慣れてきてくれて嬉しいわ」


「ルーがどこで諦めるのか、見たいだけ」


「もぅ、エリーちゃんったら。ワタシの諦めの悪さ、知ってるでしょ?」


「まあね」


「始めたことは、簡単に辞めませんっ。それじゃあ、今回は威療士レンジャー装備ガジェットのなかでも、特に目立つ、アレを紹介してもらおうかしらね」


「ニードルって、機密扱いじゃなかったっけ」


「それがね、ハリス枝部長ネクサスマスターに訊いたら、『カシーゴ・レンジャーの広報PRになるなら』って、特別に許可をくれたのよ。あ、だけど、詳しくはダメよ? ざっくりでお願い」


「ざっくりったって、涙幽者スペクターの心臓にブッ刺すデッカい針、で終わりだけど?」


「エリーちゃんー?」


「わぁったって。この長~い銀の剣みたいなのが、対涙幽者専用鎮静投与針。通称〈ハート・ニードル〉。だいたいみんな、ニードルって呼んでるかな。こいつを使って、“腹ぺこレベネス”を眠らせるってわけ」


「言ってみれば、レンジャーの切り札ってとこかしら」


「お、“腹ぺこレベネス”にルーが突っこまない」


「あとでお説教です」


「……ニードルは、スペクターの心臓、それも左心室ってとこに刺さないと効果ない。腕とか脚じゃだめ。それをレンジャーの専門用語じゃ、直心穿通って呼んでる」


「ちなみに、その左心室の大きさは、エリーちゃんの拳くらいの風船だと思ってもらえばいいわ。風船の壁の厚さは約10mm。もちろん、ニードルを深く穿通したらいけないし、浅くても意味がない」


「心臓って収縮と拡張を繰り返してるから、動くし」


「そう。だから、直心穿通は、針の穴を通すような繊細さが欠かせないの」


「けど、スペクアーも大人しくしちゃいないから、迷ったらアウト。ここだ!って思ったら、一気にいく」


「直心穿通はエリーちゃんの十八番だものね」


「まあね。心臓を正々堂々、ブッ刺せるとか、マジで――」


「――こほん。直心穿通のプロセスは、もっと複雑なんだけど、これ以上は怒られちゃうからおしまい。たぶん、本編のほうが詳しいんじゃないかしら」


「本編?」


「こっちの話。じゃあ、今回はここまで。みなさん、いつも見てくれて本当にありがとう」


「もし、覗いたら、直心穿通してあげるから」


「エリーちゃん!」

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『威療士/レンジャー・ファミリー』の登場人物がメタ的に用語解説していくショートストーリー ウツユリン @lin_utsuyu1992

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