第4回 〈資料映像〉涙幽者とは
――ルカリシア歴2003年、4月5日放送『現代社会 ~涙幽者専門医カーラ・ハフナイアに訊く~』
「ようこそ、ドクター・ハフナイア」
「ええ、よろしく」
「ドクターは数少ない涙幽者専門医として、また研究者としても、長年にわたって涙幽者問題に取り組んでいらっしゃいます。この分野において、権威との評価も高いと伺っていますが、ご自身では?」
「三十そこそこで権威を名乗るようでは、諸先輩方に眉をひそめられるでしょうね」
(会場の笑い声)
「なるほど。ドクターは、大変珍しいことに、救急医としてもご活躍されていらっしゃいますね。間近で
「最初にハッキリさせておきましょう。彼ら涙幽者は、人間です。一般的に誤解されているような、
「ふむふむ。確かに世界威士会の公式見解でも、『涙幽者とは、一種の外見的変化を伴う、原因不明の急性変異症候群である』と示されていますね。つまり、涙幽者とは、言うなれば風邪や癌を患った場合と同じ、病人であると?」
「私はその表現を使いません」
「ほう。ではドクターのお考えは?」
「涙幽者化という現象、その対象となった人間」
「これはまた、難しい表現ですね。もっと説明してくださいませんか?」
「もちろん。涙幽者化は、雨に喩えることができます。それは自然の現象で、人間には左右できない。そして雨に濡れた人間が、涙幽者です」
「少し待ってください。ドクターは、古今東西、社会を揺るがしている涙幽者が、雨のような自然現象だとおっしゃるのですか。その雨に降られただけで、われわれは染まってしまうと」
「シンプルに喩えるなら、それが一番ちかいでしょうね」
「ということはですよ? 涙幽者になってしまうのは、乱暴な言い方ですが、自然現象だから仕方ない、とおっしゃる?」
「乱暴どころか、悪意を感じる質問ですね。……とはいえ、ええ、そう。涙幽者化は、誰の身にも起こり得る。だとすれば、不確定要素であると言い換えることもできるでしょう」
(会場のどよめき)
「ドクター、失礼ながら、今のお話はいささか配慮に欠けるのではないかと感じるのですが。特に、涙幽者によって愛する人を奪われた被害者の方々には、受け入れがたいように思います」
「残念ですが、不幸は、往々にして前触れなく降りかかってくる。救急では、軽い目眩で検査に異常がなかったにもかかわらず、数時間後に突如として命を落とす患者を、何名も見てきました。のちに原因がわかる場合もありますが、大部分は不明のままです。そういうとき、残された家族に、私はいつもこう言っています。――あなた方が悲しみに暮れるのを、故人はきっと望まない。だからどうか、前を向いてほしい」
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