裏方でサポートしてた芸能一家を追放された僕は、普通の青春を謳歌したい。〜なぜかアイドルや俳優、モデルが推しかけてきて困ってるのに、隣の席の氷の女王が人気Vtuberなのを僕だけが知ってる件について〜
第46話【元家族side】 一方そのころ【零梛】
第46話【元家族side】 一方そのころ【零梛】
天ヶ咲事務所の社長室。
これまでは名ばかりであまり使用されていないこの場所だったが、最近ではフル稼働していた。
カタカタとキーボードの音だけがする静かな部屋に、突如としてヒステリックな声が響く。
「あああああ!! どうして私がこんなにも仕事をしなくちゃいけないの!!!」
事務所の社長である零梛は高ぶった感情を吐き出した。
「もう、これじゃあ旅行にも行けないじゃない! 青い海、白い砂浜でのんびりとカクテルを片手に一足先の夏のバカンスを楽しむ予定だったのに……それにを雪、あなた勝手にキャンセルするなんてなにごと?!」
「いまの事務所の状況では旅行にいっている暇は誰にもございませんので……」
「私に口答えするようになるとは雪、あなたもえらくなったものね!!」
零梛から刺すような眼光とともに子どもの口喧嘩のような幼稚な言葉が飛んでくる。
「私のことはどうとでもおっしゃってください……」
「きいーっ!!」
しかし、それを雪は怯えながらでも制止する。
(私がもっと早くから零梛さんに秘書として、しっかりと意見をすべきだった。そうすれば伍くんがいなくなることを防げて、一桜ちゃんや三華ちゃんに六槻ちゃんが不祥事を起こすことも避けられたのではないだろうか)
雪は、各所へ電話をかけたりメールを作成したりスケジュールを調整したりと自分の仕事をしながら考える。
しかし、これまでも零梛にたいして強くはないものの意見をあげていた。
それを零梛はことごとく無視をして、雪に仕事を押し付けていた零梛のせいなので雪が自分を責めるのは正しくなかった。
零梛も叫び声こそあげたものの、このままではまずいということがネジの外れている頭でも少しずつ理解し始めているのだ。
誰かが手を動かしていないと事務所に未来はないということに。
現状は雪が新人秘書の
一桜や三華、六槻の三名が活動を休止しており、活動しているタレントが、二葉、四葵、七菜、八茅留の四名だからできていることでもあった。
(これ以上のことを伍くんは一人でこなしていただなんてやっぱり考えられない!!)
仕事をすればするほど伍への畏敬の念がこみあげてきて、雪は感嘆をもらすのだった。
零梛はこれまで雪がしていた他の会社の社長や重役とのやりとりであったり、不祥事の始末の一部を任せられていた。
サボろうにも雪の監視がありサボれない。
(今ごろ私は沖縄でバカンスの予定だったのに、こんな部屋に押し込められて仕事をしなくちゃいけないの!?!?)
零梛は行くはずだった旅行に想いを馳せながら、心ここにあらずで仕事に手をつける。
溜まっていた決済印などを押すだけの簡単な仕事だ。
これまでやってこなかった分、作業スピードはかなり遅いのだがいないよりはマシだった。
「そ、そうだ雪。お昼休憩をとりましょうよ、お腹が空いていてはできることもできないでしょ? 出前とりましょうよ、うなぎとかのせいの出るものを。ね?」
零梛は提案に「お昼休憩、いいですね」と雪はこたえる。
「ですがうなぎは高級品なので無理です」
「そんな」
喜びの顔を浮かべた零梛だったが、雪のひとことに一気に曇る。
「事務所の食費も切り詰めて行かなくてはいけません。これで何千万何億という負債が解消されるわけではありませんが、危機意識を持って働くということにプラスの作用をもたらします。時間もありませんし社長には私のこちらをお渡しします」
「これは……?」
雪がカバンから出したものはゼリー飲料とブロックタイプのクッキーのようなバランス栄養食だった。
「私にこんなものを食べろというの!?!?」
「お気に召しませんか……。仕方ありませんね、ではサラダチキンをどうぞ」
「どれも嫌よ!! 私はうなぎが食べたい! うなぎ、うなぎ、うなぎ!」
「すみませんが、それは無理です……」
「だったらいいわよ!! 私食べに行ってきますから!!」
「ああ、社長!!」
頑なに断る雪に、しびれを切らした零梛は、社長室を飛び出した。
突然のできごとに雪は零梛を止めることが出来なかった。
「はあ、結局もったのは午前中だけですか……」
ひとり残された雪は、ため息をつく。
(伍くんがいてくれたら、美味しいご飯を作って持ってきてくれるのだろうな。私が仕事で忙しいときに見計ったような絶妙のタイミングで差し入れてくれるおにぎりに具たくさんの味噌汁、サンドイッチに野菜のスープ、どれも美味しかったなあ)
雪はいつかの日のことを思い出していた。
そして、自分の意識が仕事ではなく別のところにいっていることに気づいた雪はぶんぶんと首を振る。
(いけないいけない、気を抜いてる場合じゃない。
雪は気合を入れ、本日何本目かになるかわからない栄養ドリンクをグッと飲み干す。
それから零梛は戻ってくることはなく、ひとりで仕事を続けた雪だった。
そして、事務所の明かりが消えたのは時計の針がてっぺんをすぎて少し回ったころだった。
雪は今日も自宅に帰ることなく、事務所に寝泊まりをした。
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