第42話 南の島 ①
僕は今、窮地に立っていた。
「逆瀬川くん……」
綺麗な黒髪が太陽の強い日差しを反射し、天使の輪っかができている。
くっきりとした目元は瞬きをするたびに長いまつ毛がキラキラと輝いている。
身長は男の僕より高く、服の上からでも存在感を放つ大きな胸は水着を着ていることでより分かりやすくなっていた。
大人しそうな顔立ちからは考えられない暴力的なまでのスタイル。
その美貌から学校からは氷の女王と言われており、人気Vtuber『星月かぐや』としての裏の顔をあわせ持つ
「伍……」
肌荒れとは無縁で陶器のように綺麗な白い肌、ぱっちりとした猫目が見るものを虜にする。
金色の髪は絹のようになめらかなでいつもツインテールでまとめているところをハーフツインにアレンジしていてとてもかわいい。
身長は平均的ながらも、その体格には少し大きめの胸とキュッと引き締まったウエストからなるスタイルの良さが水着を着ることにより鮮明に映し出される。
週刊誌で彼女のグラビアが載れば店頭からその週刊誌が一瞬でなくなるというのも頷ける。
新曲のPVのティザー映像が世間を賑わせたことが記憶に新しいトップアイドルグループ『アスタリスク』、その堂々のセンターである
「あっくん……」
くりんとしたかわいいアーモンドアイ。
夕日のようなオレンジ色のショートヘアをダブルのお団子ヘアにアレンジしており、それが彼女のかわいさをより引き出していた。
その小さい身長からは想像も付かないほどに大きな胸が水着を着ることで強調されてその谷間に目がいかない男子はいないだろう。
喫茶店で働く彼女はその人当たりの良さと愛らしい見た目から、中高生はもちろん中年のおじさんからおじいちゃんまでと幅広い層に好かれている、その姿はまさしく看板娘。
そして僕の幼馴染でもある
「伍くん……」
銀色のショートヘアにサファイアのように美しい瞳が海よりも透き通っていてる。
流し目が似合う涼しい顔立ち、すらっと高身長で顔立ちが中性的なため綺麗な男性と見間違える人もいるだろう。
しかしスリットの入ったスカートから見える長い足が艶かしい脚線美を描いていて、膨よかなバストが彼女を女性であるということを決定づけていた。
その圧倒的な存在感と美しい所作により、見るものを否応なしに惹きつける歌劇団の押しも押されぬ男役のトップスターである
「つむつむ……」
前髪のあるショートボブに切り揃えられた流れるような水色の髪が、風が吹くたびにさらさらと揺れて美しい。
幅の広い二重にアンニュイな瞳が独特の雰囲気をかもし出している。
180cmという日本人離れした長身に平均より少し大きめの胸、前衛的なデザインで布面積が少ない水着を着ているのに彼女のポテンシャルによっていやらしさを全く感じさせず芸術的だった。
海外のコレクションに引っ張りだこでひとたび彼女がブランドの広告に載れば売上が上昇すること間違いなしと言われているスーパーモデル、
そんな絶世の美少女五人に僕は囲まれていた。
羨ましいだろうか? うん、普通なら羨ましいんだろう。
しかし、もう一度言おう。
僕は今、窮地に立っていた。
なぜなら……。
「「「「「この中で誰が一番好き!?」」」」」
「い、いやぁ……。誰が一番とかそんなの……ねぇ?」
屋上でご飯を食べていたあの日。
僕はみんなのことを上も下もないし、誰かを特別扱いすることもないと思っていたけど……。
一番を選ばないといけない日が来るなんて……。
やっぱり、こんなの……。
こんなの普通の青春じゃなーい!!
◯ ●
時は少し遡る。
「ついたー!!」
真っ白い砂浜、透き通るようなエメラルドブルーの海、岩に生えている草花の緑がより一層自然を感じさせる。
そう、僕らはガルコレの優勝の副賞としてみんなで2泊3日の沖縄旅行に来ていた。
梅雨の明けたこの時期は、夏真っ盛りの八月などに比べて台風の心配もなく意外と過ごしやすいそうだ。
「伍、はしゃぎすぎ」
「だって明日花さん! 旅行だよ!? 沖縄だよ!?」
旅行なんて初めてだ!
それに友達とだなんて嬉しい!
「沖縄の太陽よりも眩しいっ!?」
「ん、同感だよっ!!」
明日花さんと姫路さんが目を細める。
なにか光ってるものでもあったのかな?
「もう二人とも、馬鹿なことしてないの。まあ沖縄って言ってもプライベートアイランドだからあんまし沖縄感ないけどね」
呆れたようにあっちゃんが明日花さんと姫路さんに声をかける。
そして、あっちゃんが言うようにここはプライベートアイランド。
ガルコレの主催者の方の所有島だそうだ。
僕らは飛行機に乗って沖縄本島に着いたあと、クルーザーに乗ってこの島に来ていた。
いわゆる石垣や赤瓦で作られた伝統的な家はなく、少し先には豪華な白亜の豪邸が見えている。
なので沖縄感はあまりない。
南の島でのバカンスといった方がふさわしいのかな。
というかプライベートアイランドってなに?
プライベートビーチとかなら聞いたことあるけど、島って個人が持てるんだ……。
ここから見えてる僕らが泊まる予定の別荘もめちゃくちゃ豪邸だ。
道中の飛行機もプライベートジェットだったし、船もプライベートクルーザーを用意してくれていた。
芸能人がお忍びで旅行に行くための用意が何から何まで完璧だね。
ガルコレの主催者さんすご過ぎる。
「あ、あつい……む、り……」
「はは、景凪ちゃんは暑いのは苦手そうだな」
景凪が手で顔に影を作りながら愚痴をこぼす。
宝塚さんはその様子を見て快活に笑っていた。
「うん、早く……室内に行こ……」
「そうだな。なんだったら景凪ちゃんの荷物は私が持とうか?」
「やった、りんりんありがと」
景凪はこのメンバーの中で一番背が高いのに妹感が強く、みんなが景凪になにかしてあげなくちゃという雰囲気になっている。
まあみんなとは言っても明日花さんは少し違う。
僕らが景凪を甘やかしすぎると『それは景凪のためにならないでしょ』と注意されることがある。
でも、本人のためを思っての発言だから本質的には明日花さんも景凪に優しいのだ。
そして宝塚さんの頼れるお姉さん感がすごい。
南の島の太陽や自然が似合うし、圧倒的な陽のオーラが出ている。
「うーん、景凪が溶けちゃう前にひとまず別荘に行こうか!」
こんな感じで僕らは話をしながら別荘に向かって歩みを進めた。
○ ●
「よし、到着したよ!」
「あー、涼しーいー」
「景凪ちゃん良かったな」
「すごいすごーい!!」
「月夜もはしゃいじゃって……、まあ普通じゃこんな豪邸なかなかお目にかかれないものね」
別荘に到着した僕らは荷物を下ろして辺りを見回していた。
外から見ていただけでもすごいのは分かっていたけど、内装もほんとにすごいな。
外壁同様に白を基調としたリビングは吹き抜けとなっており天井が高く、前面がガラス張りとなっていて壮大な景色が一望できる絶景のロケーション。
ベランダもしっかりとあって、夜に風に当たりながら過ごすのはとても気持ちよさそうだ。
キッチンも大理石で作られたアイランドキッチンとなっていて料理番組が撮影できるんじゃないかと思うくらいに広い。
そして水道やガス、電気、ネットといったインフラも完備されている。
別荘とはいっても、なに不自由なくここで生活できるようになっているそうだ。
「それにしてもガルコレに参加していないあたしがほんとに来ても良かったのかな……?」
「もう、茜は気にしすぎよ。そのことなら大丈夫って前に話したじゃない」
副賞の沖縄旅行の定員はデザイナーとモデル五人を含めた計六人分だった。
ちなみに、本来出場する予定だった景凪の事務所のモデルさんは『今回私たちは出場していないから受け取れない』と副賞や賞金を辞退していた。
なのでモデルとして出場した姫路さんに明日花さんに宝塚さんに景凪、僕はデザイナー兼モデルとして出場していたからそれで五人分。
となると旅行に行ける枠が一人余るということになる。
ガルコレの事務局にそのことを問い合わせたら、旅行には定員までだったら誰を誘っても良いということだった。
「そうだよ、あっちゃん! 枠が一人余っているから好きな人を誘って良いって僕たちは言われてるんだ。だったらあっちゃんを誘うに決まってるでしょ!」
「す、好きな人!?」
「茜ちゃん、逆瀬川くんの発言を気にしちゃ心臓が保たないよ」
「そ、そうだよね……お、落ち着かないと。ふーふー」
あっちゃんが顔を赤くした後になぜか深呼吸をしていた。
沖縄の日差しが強いから熱くなっちゃったのかな?
「じゃあみんな。各自の部屋に荷物をまとめたら水着に着替えてあの浜辺で再集合よ!」
明日花さんがみんなに向かって指揮をとる。
「水着に着替えて浜辺で再集合?」
僕の質問に、明日花さんがパチリとウィンクを飛ばして答える。
「そう! 南の島といえばまずは海! さあ、みんなでパーっと遊ぶわよ!」
なんだ、明日花さんもちゃんとはしゃいでいるじゃないか。
いつもは完璧で物事を一歩引いて見てる感じがするけれど、意外とこういうかわいいところがあるんだよね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます