裏方でサポートしてた芸能一家を追放された僕は、普通の青春を謳歌したい。〜なぜかアイドルや俳優、モデルが推しかけてきて困ってるのに、隣の席の氷の女王が人気Vtuberなのを僕だけが知ってる件について〜
第41話【元家族side】気づき【零梛】【八茅留・七菜・四葵・二葉】
2章
第41話【元家族side】気づき【零梛】【八茅留・七菜・四葵・二葉】
「
「はい。
「……ひどいわね。丸々と肥えてしまってまるで白豚ではありませんか、これではヒールが折れるのも仕方ありませんね。私の娘がこんなにも醜くなってしまったなんて嘆かわしいことです」
「なにもそこまでは言わなくとも……」
零梛はバズっている三華の動画をテレビ画面に映しながら、嫌悪の表情をあらわにしながら感想をのべた。
零梛は美しいものが好きだ、宝石や、服、絵画や家具。そして、そこには人も含まれる。
反対に、醜いものは大嫌いだった。
たとえ自分の娘であったとして醜いものに対する嫌悪の感情は変わらなかった。
「この美しくない子が私の娘だなんて受け入れ難いですね。そして、ブランドに関しては盗作ですって? そんな泥棒みたいなマネを働いたというのですか?」
「そこは少々複雑でして……。これまでデザインをしていたのはそもそも三華さんではなく別のデザイナーにお願いしていたみたいです。そしてこれまで雇っていたデザイナーが辞めたことにより新たなデザイナーを引き入れたそうなのですが、今回その新デザイナーが盗作を働いたというワケなんです」
「なるほど。三華自身は盗作をしていなかったけれどウソはついていたということですね。インフルエンサーブランドでは自身がデザインせずにデザイナーに任せて、自分は好きなデザインを選ぶというのはそう少なくないように思えますが。その事実を認めてブランドを続けることは出来たのではありませんか?」
零梛の意見もあながち間違ってはいない。
インフルエンサーブランドは企業側からインフルエンサーにブランドを立ち上げる話を持ちかけて始める場合が多い。
企業としてはインフルエンサーの人気があればプロモーションをしなくて済むし、インフルエンサーとしては新たな稼ぎになってお互いにとって良い話だ。
だがインフルエンサーには元々ファッションに関する知識があまりない人が多いため、基本的には企業とコンセプトやイメージを固めたあとでデザインチームに任せることが多い。
デザインチームと一緒になって一からデザインの案を出して決めていくこともあるが、案を出さずに出来上がった製品に少し意見をするだけといった場合もある。
どこまで関わるか、その割合はブランドによって様々だ。
「たしかに自身がデザインをせずにプロデュースやディレクターという形で運営しているインフルエンサーブランドもありますが。三華さんがウソをついていたことで信頼を落としたことによりブランドを続けるのは難しかったのではないかと考えます……。また、公にはしておりませんが三華さん自身が『自分のブランドとして発表できるレベルの納得のいくデザインが出来そうにないからやめる』とのことでした」
「納得のいくデザインが出来そうにない、ときましたか。こだわりの強いあの子らしいですが。だったら前任のデザイナーを引き戻せばいいものを……」
「三華さんに前任のデザイナーについて尋ねてみたのですが、頑なに口を割ってくれませんでした……」
三華は伍のデザインについてはガルコレの一件以来認めざるを得なくなっていた。
しかし、伍にデザインを任せていたことを周囲に伝えるのは、現在の三華の体同様に大きく膨れあがったプライドがそれを許さなかった。
「まあデザインがいくら良くとも、ブランドの広告塔である三華があんな姿になってしまっては誰も買い手はいないでしょう」
(ずっとこの人は見た目の話ばかり、娘であればどんな姿になってもかわいいものでしょう!? 本来ならばネットの風評や悪口から守ってあげるべきではないの!? 自分から率先して悪口を言うだなんて信じられない!)
三華の動画を見てふんっと鼻で笑う零梛の様子に、雪は心の中で怒っていた。
「それで……。こ、今回の損害はいくらほどになるのかしら?」
零梛は顔を引きつらせながら雪に尋ねた。
「はい、専属雑誌のモデルやブランドのアンバサダーの契約解除、そしてフォトスタグラムでのインフルエンサーとしての活動終了、自身のインフルエンサーブランドがたち消えたことによる収益の損失、今回ブランドがなくなったことが大きな痛手となっています。これから将来的な収益がなくなりますので損害としては2億ほどかと。もしくはそれ以上かもしれません……」
「に、2億円ですって!?!? きいいいぃいいぃぃぃぃぃ! これまで育ててきた恩を仇で返すだなんて、あんの白豚があああぁあああぁぁぁ!!!!」
損害額を聞いた零梛は頭を掻きむしりながら金切声で叫ぶ。
そしてテーブルの上に並べられていた書類を辺りにばら撒ける、それはもう酷い有様だった。
その行動に雪は眉をひそめた。
そのまま数分間暴れた後、雪の言葉尻に引っかかりを覚えた零梛はボサボサな頭になりながらも再度尋ねた。
「ぜぇ、ぜぇ……。最後に言っていた……それ以上とはどういうことなのですか?」
「まずこれまでの不祥事について。六槻さんの場合はお酒の空き缶が写真に映っていたことが原因で今は謹慎しておりますが、世間では叩く人もいれば復帰を望む人もいて意見が半々であるため再起の余地があるかもしれない……と私は思っています。また、一桜さんの映画の降板騒ぎはキャストを公表する前でしたから週刊誌の記事に載るくらいで世間的にはあまり認知はされていません」
雪は一呼吸置いて話を続ける。
「しかし、今回は大舞台での失態ということとその動画がネットでバズってしまったことで他の姉妹の活動に大きく影響が出る恐れがあります。それがどう作用するか想像がつかないということです……」
雪は神妙な面持ちで地面を見つめていた。
「はあああぁぁあああぁぁぁ!? なんとも厄介な爆弾を残してくれたものね!! まずはあの白豚をささっと痩せさせて、なんとしてでもブランドを復活させてお金を稼がせないと!! これ以上私の大切なお金を流してやるものですか!! そのためには前のデザイナーに戻ってきてもらうかはたまた三華が納得するような新しいデザイナーを雇い入れる必要が……そうだわ!! ガルコレで優勝していたV’s、でしたかしら? その方をデザイナーに引き入れましょう!!」
妙案を思いついたように零梛が手を打った。
「あ、あの。そのデザイナーは正体不明で誰も連絡先を知らないのですが……」
「そんなのあなたが調べるかなんなりするのね! それが無理なら三華に前のデザイナーを聞き出してきなさいよ! あんな金のなる木を枯らすのはもったいないわ!」
零梛はただの願望という名の無理難題を雪に押し付けた。
「どちらも無茶です! って聞いていない……」
雪の反論も零梛は右から左へと聞き流していた。
なぜなら、零梛はこれからブランドが復活してお金が入ってくるそんな現実逃避にも似た夢物語を見て、皮算用をしていたからだ。
その瞳にはお金しか映っていなかった。
(伍くんがいなくなった今、事務所はもうめちゃくちゃだ……私はいったいどうすればいいの……?)
雪の感情は吐き出されることなく、胸の中に沈んでいった。
○ ●
同時刻、別々の場所にて。
三華の動画はネットに晒しものとして楽しまれているが、ガルコレに最後に現れた謎の美少女の
五百里が出ている動画を天ヶ咲姉妹はそれぞれ見ていた。
沢山のファンシーな人形に囲まれた部屋にて。
「これはまさかなのです……あの人はもう芸能界とは関われなくなったと思っていたのです。次こそは芸能界からおさらばさせてやるのです!」
電気もつけずにカーテンを閉め切った暗い部屋にて。
「あぁ……このショーに使われている音源のメロディやリズムは間違いなくファイブさんのものなのだよ。どこ行っちゃったのファイブさん……。ファイブさんの音がない世界は地獄のようなのだよ」
パソコンのモニターの明かりだけが部屋を照らしている、その前にはヘッドホンをつけている
彼女はショーに出ている五百里ではなく、流れてくる音楽に耳を澄ませていた。
そして動画を何度も繰り返し再生してはファイブさん……と呟くのだった。
仕事の合間、タクシーの後部座席にて。
「ボクこの五百里ちゃんって子の声、なんだか聞き覚えがあるなぁ……。あいつは男だし、そんなワケないか」
受賞式での五百里の動画をスマホで見ながら、
四葵は次の仕事のことを考えながら過ぎ去る街並みを眺めていた。
テレビ局の楽屋にて。
「五百里ちゃんねぇ、次から次へとよくもまぁ。この業界は新たなスターを探すのに忙しいったらありゃしない。ま、バラエティにまで出しゃばってこないんだったら見逃してあーげよっと」
二葉はタバコをふかしながら冷たい表情でスマホを眺めていた。
吸い終えたタバコをぐしゃりと灰皿に押し付けて、すぐさまテレビ用の顔に切り替えてニコッと笑う。
さっきまでの光景が嘘のような変わり身だった。
気づくもの、気づかないもの。
こうして物語は動き出すのであった。
―――――――――――――――――――
【あとがき】
お読みいただきありがとうございます!
コミカライズの暖かいコメントもありがとうございます!
返信できておりませんが全て目を通しています。
これからもよろしくお願いします!
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