第37話 もうひとつのハプニング
控え室にて明日花さんと宝塚さんと景凪はそれぞれ衣装に着替えて出番を待っていた。
「二人はまだ来ないの!? 本番30分前よ!?」
「す、すみません。あれから二人に連絡が付きません……」
明日花さんが垂水さんを問い詰める。
垂水さんは焦っていた。
「今朝二人はタクシーに乗ったのではなかったのか?」
「はい、そのはずなのですが……」
「もう夕方を回ってるよぉ?」
「もしかしたら事件に巻き込まれた可能性があるかもしれない……」
僕はひとつの可能性を指摘する。
「じ、事件ですか!?」
「あくまでも可能性です。渋滞に巻き込まれてるとかかもしれませんし……」
「そうですね……」
垂水さんはしゅんと落ち込んでしまう。
この時間になって来ないのは流石におかしいけど、そう願うしかなかった。
「どうするのよ伍、モデルが二人いないんじゃショーの規定を満たさないないわよ」
「二人を探しに行くのは……現実的じゃないね。どこかにモデルがいてくれれば……。そうだ! 他のブランドからモデルさんをお借りするのはどうかな? 垂水さん出来ませんか?」
「そうですね……他のブランドのモデルさんはすでに事務所と契約を交わしてショーに出ています、なので今から急に出てくださるのは難しいかと……。お力になれず申し訳ありません」
そう言って垂水さんは僕に頭を下げる。
「顔を上げてください。大丈夫です、僕が無理を言っただけなんで……。でも、どうしよう……」
「ああ、事務所に所属しておらずすぐに出演できるフリーのモデルがいればな……」
「それか観客の女の子から捕まえてくるぅ?」
「3万人の中から見つけて、満員の会場からこっちにきて貰うのは流石に無理があるわね……」
僕らの中には諦めムードが漂っており、控え室の空気は落ち込んでいた。
「あ、あの!!」
突然、姫路さんが声をあげる。
僕らは驚いて姫路さんの方を向いた。
「姫路さんどうしたの?」
「わ、私で良かったら! モデルに使ってくれないかな!?」
姫路さんはぎゅっと目をつむって声を絞り出していた。
その体は少し震えていた。
「月夜、あんた震えてるじゃない! 大勢の前に出るのは無理よ!」
「たしかに……大勢の前に出るのは恥ずかしくて無理かもしれない……。でも、でも! 私も逆瀬川くんの力になりたい! みんなの力になりたいの! だって、初めてできた友達だから!」
決意した姫路さんは強い眼差しをしていた。
「月夜……」
「月夜ちゃん……」
「つっきー……」
「私、自信がないけど……こんな私でも逆瀬川くんならモデルにしてくれるよね? だから大丈夫かなって思えるの、どうかな……?」
「うん、任せて! 僕がばっちりメイクしてあげる! 姫路さんありがとう!!」
僕がメイクをしなくても良いレベルまで、姫路さん自身のメイクの技術は上がっている。
それに顔立ちやスタイルはそんじょそこらのモデルさんよりもはっきり言って上だ。
でも僕がメイクをすることで彼女に自信がつくのなら、僕はその思いに応えたい。
「服は……そうだな、姫路さんの身長に近いモデルさんのために作ったこの服を着て貰おうかな。というかサンプル作りの時にモデルさんがいなかったから姫路さんの体型を参考に作ったんだったね。だからぴったりだと思うよ」
そう言って僕は姫路さんに服を手渡した。
「これで一人は確保ね、でもあと一人……」
そう、まだ4人になっただけ。
ショーに出るには5人である必要がある。
「あと一人。この服を着るためには、身長が165cm前後で可愛らしい顔立ちで事務所に所属していない。そんな人がいれば良いんだけど……」
僕は用意した服のデザインから似合う人を想定する。
「ん、身長165cm前後で……?」
「可愛らしい顔立ちで……?」
「事務所に所属していない……?」
「そんな人……?」
明日花さん、宝塚さん、景凪、姫路さんの四人が僕を見つめる。
「え? え? え? なに、どうしたのみんな!?」
にじりにじりと近寄ってくる四人。
嫌な予感がした僕は後ろに下がるが、背中が壁にぶつかり逃げ場を見失う。
「え、え、え、どうしたのみんな! どうしたの!? なんとか言ってよー!!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます