第26話 よろしく頼む






 「今日は楽しかったなー、みんなで遊べて良かった。もしかして友達複数人と遊ぶのなんて初めてだったかも?」





 みんなと解散して家に着いてからやることを済ませた僕は、今日のことを思い出しならソファでくつろいでいた。


 



 ピコンと通知音が鳴る。





 「あ、これからかぐやちゃんがゲーム配信するみたいだ。見なくちゃ!」





 星月かぐやちゃんのチャンネルを登録していて、配信をするときには通知が来るようにしてあるのだ。

 




 『はーい、星月かぐやだよ。今日はねー、アンデッド・イン・ザ・ベッドをやっていっくよー』




 

 「今日はアンデッド・イン・ザ・ベッドをするんだね。かぐやちゃん逃げるのうまいんだよなー」


 



 アンデッド・イン・ザ・ベッドとは、プレイヤーがホラーという幽霊1人と、ホラーに捕まって殺されないように立ち回るサバイバー4人に別れて対戦する1対4の非対称サバイバルホラーゲームだ。

 見ててハラハラさせる展開が多く、配信では定番の人気ゲームとなっている。




 

 『今日は趣向を変えてホラーでやっていこうと思ってるんだー』




 「ん、いつもかぐやちゃんはサバイバーなのに珍しいな……」



 コメントを見ると僕と同じ感想を抱いている人が多くいた。




 ・珍しい

 ・ホラーしてたっけ

 ・かぐやちゃんになら捕まりたい!

 ・だいじょうぶかなぁ




 

 『えー、ホラーも実は上手いんだよ? それにかぐやね、なんかね、今日は誰かを追っかけ回して捕まえたい気分なんだー。ふっふっふ』




 「ええ! どういう気分なの!?」

  



 ・怖すぎw

 ・猟奇的だな

 ・なんかあったの?

 ・俺も捕まりたい!




 視聴者さんも僕と同じように戸惑っている様子だった。


 



 『じゃあさっそくホラーを選んでいこっかな。キョンシーとかゾンビとかが強いんだけど今回はお菊さんにしよーっと』


 



 お菊さんは日本の幽霊といえば? で、すぐに想像できるような、白装束に長い黒髪の女性のキャラクターだ。




 そしてマッチングしてゲームが始まった、舞台は廃病院だった。

 

 



 『サバイバーはどこだー、いるのはわかってるんだぞー。どろどろどろー』




 

 かぐやちゃんの声はいつもとは違い少し低めの声を出しながら、怖い雰囲気でサバイバーを探していた。

 サバイバーはホラーから逃げながら発電機を5台修理しなくちゃならない。




 

 『あ、いた!!』


 



 「え、どこにいたの? 僕には見えなかったのに、かぐやちゃんすご」




 

 そしてかぐやちゃんはサバイバーの逃げる位置を予測して先回りして攻撃し、あっという間に捕まえてしまった。



 

 『よーしよしよし、捕まえたよー。地下室のベッドまで持っていくもんねー』





 ホラーはサバイバーを捕まえるとベットに運ぶことができる。




 ベッドにくくりつけられてから一定時間経過するとサバイバーは永眠してしまうのだ。

 それを別のサバイバーが助けることができる。


 

 それを防ぐために、かぐやちゃんは助けるのが難しい地下室に運ぶつもりだった。





 

 『よし、じゃんじゃん捕まえていくよー。今日は惜しいところで逃しちゃったからね、みんなが止めなかったら捕まえられたのに……』


 



 「ん、惜しいところで逃した……? それにこのかぐやちゃんの低い時の声ってお化け屋敷で聞いた声に似てるような……。」

 



 かぐやちゃんの発言になぜか僕は、お化け屋敷で最後に背の高い女性のおばけに遠くから追いかけられたことを思い出してしまう。



 

 「遠いし暗いしで顔は見れなかったけど……あれってまさか……。いやいや! あんな鬼気迫る感じはいつもの姫路さんからじゃ想像出来ないし、絶対に違うよね……」



 

 僕が悩んでる間にも、かぐやちゃんはパークを使って上手く立ち回ったり、チェイスもかなり慣れたものでついにはサバイバーを全滅させてしまった。


 


 「もういいや、考えるのやめよっと!」





 それからかぐやちゃんは何度かホラーでマッチングを潜っては、その度にサバイバーを全滅させるのだった。

 ホラー側が不利と言われているこのゲームで何度も全滅させるのは本当にすごいことだった。

 




 『あー、スッキリしたー! 今日の配信はここまで! じゃあまたねー』




 

 「ふぅ、ゲームがめちゃくちゃ上手いから見応えあったけど、今日のかぐやちゃんはなんだか怖かったなぁ。眠れなくなりそうだよ……」




 

 配信を見終えた僕は、バクバクとした鼓動が収まるまでなかなか寝付けずにいた。

 眠れたのは夜中の2時を回った頃だった。





 ○ ●


 



 「おはよう伍。あら、昨日はちゃんと眠れたの? ちょっと疲れた顔してるわよ?」


 



 「おはよう明日花さん。睡眠時間は短くてもいつもなら大丈夫なんだけど、なんだか精神的に疲れちゃってね」


 



 翌日、教室に着いた僕は明日花さんと挨拶を交わす。


 

 「精神的にってなにがあったのよ。私で良かったら相談乗るわよ?」


 

 「ありがとう、でも大丈夫。昨日はホラー映画見ちゃってハラハラしちゃって精神的に疲れた、みたいな?」


 

 「みたいな? ってなんなのよ。まあ伍が大丈夫って言うならそれでいいんだけど……」


 

 「うん、心配かけてごめんね」


 

 僕は明日花さんに謝って席に着く。


 

 「逆瀬川くん、だいじょうぶ?」


 

 「ひ、姫路さん! だ、だいじょうぶだよ!」


 

 教室では滅多に話しかけてこない姫路さんが僕を心配して話しかけてくれた。

 それに僕はビクッと驚いてしまう。


 

 今日はなんだか姫路さんの顔が見れない……。


 

 「?」


 

 姫路さんは不思議そうに僕のことを見つめていた。





 「おーい、席につけー。今日もまた転校生が来たぞー。さ、入ってこーい」




 

 そう言って先生が教室に入って来る。




 

 (今日もとか、またとか、転校生という単語とセットで使う言葉じゃないと思うんだけどなぁ)

 

 



 「失礼する」



 


 入ってきた人物を見て僕は驚愕する。

 それは昨日も会っていたあの人だったからだ。




 

 「初めまして、武庫川音楽学校から役作りのために転校してきた。宝塚鈴だ。みんなよろしく頼む」






 歌劇団の押しも押されぬ男役のトップスター。宝塚鈴さんが目の前に立っていた。

 





 「「「「えええええええええええええええぇぇえええぇぇ!!!」」」」




 

 「え、本物?」


 「あの美しさは本物だろ」


 「あのかっこよさは本物よね」


 「俺、このクラスでよかった!」


 「流し目さいっこう、はぁ……」


 「おい! 気絶してるぞこいつ!」





 教室の男女問わずその圧倒的な存在感に目が釘付けになる。





 「はい、静かにー、転校生が多いけどみんな仲良くしてやってくれよ。宝塚の席は……逆瀬川の前が空いているな。あそこに座ってもらおうか」



 

 (え、僕の前!?)



 

 「また逆瀬川ずるい」




 「後ろから宝塚さんをずっと拝めるだなんて」




 またもみんなから強い嫉妬の眼差しを受ける。

 ほんとになんなんだこれ、どういう状況?





 宝塚さんは前の席に座ったあと、僕の方を振り返る。





 「あれから考えたんだが、まだ役作りが甘いことに気づいてね。だから君のそばにいるのが一番良いと思ったんだよ」





 「な、なるほど? そういうことだったんですね……」





 「あぁ、今後ともよろしく頼むよ。伍くん」



 

 宝塚さんは優しい笑みを浮かべて名前を呼ぶ。



 (その笑顔は、かわいすぎる……!!)




 「わ、分かりました……僕で良ければ、また頑張ります」





 仕事のために自分が必要とされているなら、そのサポートをしてあげたいと僕は思う。




 

 「そしてそこの二人もよろしく頼む」


 



 宝塚さんは僕の両隣にいる月夜さんと明日花さんにも挨拶をした。




 

 「ええ、こちらこそよろしくね?」


 


 「はい、よろしくお願いします…!」




 

 ゴゴゴ、と聞こえてきそうな圧迫感を三人から感じる。

 なぜか分からないけど、みんななんだか怖い……。


 




 はぁ、夢に描いていた僕の普通の高校生活はいったいどこに行ってしまったんだ……。


―――――――――――――――――――

【あとがき】

ここまでお読みいただきありがとうございます!

明日は元家族sideを2話更新します!


「楽しかった」

「続きが気になる」


と少しでも思ってくださった方は作品をフォローや、下の+⭐︎⭐︎⭐︎から作品を評価、レビューでの応援をいただけると非常に嬉しいです。

 




 

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