第25話 遊園地デート(仮) ③



 

 「鈴ちゃん大丈夫?」


 


 「あ、あぁ。かなり落ち着いてきた」


 

 鈴ちゃんをベンチまで運んで座らせた僕は、飲み物を買いに行ったり落ち着くまで背中をなでたりしていた。



 よっぽどおばけが怖かったんだろうな。

 ベンチについてからも息が荒かったし、呼吸が整うまで時間が掛かってたから。



 

 「おばけ怖かったよね」



 

 「それはそうだが……それとは別の……その……」



 

 「ん? どうしたの」



 

 「な、なんでもない!!」




 また顔が赤くなって息が荒くなってる、まだ回復してないのかな……。




 僕は心配しながらも気になっていたこと聞く。




 

 「どうして怖いのが苦手なのにおばけ屋敷に入ったの?」


 


 「それはだな……ここではなんだから……あれに乗ろう」



 

 鈴ちゃんが指を差した先にあるのは、ここの名物の大観覧車だった。



 

 「そっか、さっきのせいで周りから妙に見られてるもんね……。観覧車なら二人っきりになれるから周りに聞かれる心配ないからいいね。それに僕、高いところ好きだから楽しみだ!」



 「ふ、二人っきり!? そ、そうだが……そう言われると恥ずかしいな」 



 

 「じゃあ、行こっか!!」



  

 僕らはベンチから移動して観覧車に乗った。


 



○ ●




 

 観覧車で僕らは横並びで座り、話をしていた。




 

 「あまり知られていないがおばけや幽霊などの怖いものが苦手なんだ。プロフィールにも載せていない。なぜなら男役をするうえで私生活でも完璧なかっこよさをみんなが求めているからな。そして神格化されて今に至る……」



 芸能界においてイメージやブランディングは大切だ。

 名前を聞いて、なにを連想するかで仕事が決まったりもする。



 「だから私は小さい頃から女らしくというよりは男らしくを求めて生きてきた。弱みを見せてはいけないという生き方をしてきたんだ。だから君にもカッコ悪いところを見せたくなかったんだよ」



 

 「そういうことだったんだ……」




 イメージを守るために無理をする人はごまんといる。

 完璧に見える鈴ちゃんもその中のひとりということだった。



 

 「結局はカッコ悪いところを見せてしまったのだがな……。はは、笑ってくれ」



 

 そういって鈴ちゃんは自虐的に笑った。


 

 

 「僕はその努力を笑わない。カッコ悪いなんて思わなかったし、むしろかわいいなって思ったよ?」



 「か、かわいいだと!? あんな醜態を晒したんだぞ!? ば、馬鹿にしているのか!?」


 

 「馬鹿になんてしてないよ」



 

 僕は鈴ちゃんの目をしっかりと見据えて話す。


 


 「いつもは姿勢正しくピシッとしている鈴ちゃんが腰が引けてて足がぷるぷるしててさ、落ち着いたかっこいい声で話すのにおばけが出てきたら大きな声で驚いたり、腰が抜けちゃったりしてさ。その全部がかわいいなって思ったよ。こんな姿を見たらみんなもかわいいって思うはずだよ。新しい魅力だし、それこそ役の幅がひろがるんじゃないかな?」 



 

 「役の幅が広がる、か……。それは喜ばしいことだが、さっきからかわいい、かわいいとそんなに言うな! こ、こんな姿を他の誰かに見せるのは恥ずかしすぎるから、見せるのは伍くんだけにするからな!!」





 「それはもったいないなー、こんなに魅力的なのに。まぁ、ずっと自分の中で抱えるのも辛いだろうから僕だけには色んな弱いところ見せていいよ? 僕が受け止めてあげる……今度は彼氏役じゃなくて」


 


 今日一日を通してわかった。

 僕たちはもっと仲良くなっていけるんじゃないかってこと。


 

 

 「彼氏役じゃなくて……?」


 


 鈴ちゃんが僕をじっと見つめている。 

 受け入れてくれるか分からないけど、今、言おう。




 

 「ひとりの友達として!!」





  

 「は?」




 

 鈴ちゃんはポカンとした顔をしていた。




 

 「え?」




 えええええええええええ!!

 友達は無理だったかああああああ!? もっと仲良くなれるんじゃないかと思ったけどやっぱり彼氏役をして終わりだったんだあああああ!

 仕事のサポートの関係だったんだああああ!! 恥ずかし! ひとりで勘違いしてて恥ずかし!!




 「ご、ごめんなさい。友達だなんておこがましかったですよね。宝塚さんすみませんでしたあああああ!!」 


  

 「ち、違うのだ。それに、いまさら宝塚さんだなんて言うな。私は友達じゃなくてだな……」



 

 「友達じゃなくて……?」



 

 隣に座っている宝塚さんの顔が少しずつ近づいてくる。


 

 

 これってまさか……。










 

 バンッ! バンッ! バンッバンッバンッ!!!



 

 突如、後ろからなにかを叩く音がしたので振り返る。



 

 

 「え!? みんなどうしてここに!?」



 

 後ろの観覧車にはなんと、姫路さんと明日花さんとあっちゃんの三人が乗っていた。



 明日花さんとあっちゃんが観覧車を内側から叩いていて、姫路さんはじっと僕を見ていた。





 こんな偶然もあるんだね。 

 僕たちに気づいたからみんなが知らせてくれたのかな。




 

 「おーい、みんなー。ほら宝塚さんも」


 

 そういって僕たちはみんなに手を振る。



 みんなも笑って手を振りかえしてくれる。

 でもその笑顔がなんだかぎこちないような……?



 

○ ●




 「あらご機嫌よう、伍。偶然ね」



 「ほんと偶然だね、三人がいてびっくりしたよ! みんなも遊園地に来てたんだね」


 

 観覧車から降りて僕たちは遊園地内のレストランでご飯を食べていた。 


 

 「あっくんがいてあたしもびっくりしたよ。ちょうどたまたまこの日がみんな休みだったから、なんとなーく遊園地に行こうってなったわけよ。ね、月夜ちゃん」


 

 「う、うん……!」



 

 (三人とも僕の知らないうちに仲良くなっていたみたいだ。それに姫路さんに友達が出来てよかった)



 

 「ところで宝塚さん、役作りは随分と順調そうね? 最後のアレは演技よね?」



 

 「そ、それはおかげさまで順調だ……最後のはその……」



 

 珍しくしどろもどろになる宝塚さんを見て僕はあることに気づいた。


 

 「あー! あれって演技だったんですね。宝塚さんって演技上手いから僕てっきりキスされるんじゃないかって構えちゃいましたよ。僕みたいなやつにそんなことあり得ないのに、勘違いしちゃうところでした。はは!」


 

 ぴしり、空気が固まる。

 姫路さんと明日花さんとあっちゃんが刺すような視線を宝塚さんに向ける。


 

 

 「そ、そうあれは演技だ! 伍くんのおかげでドキドキがなんだかわかった気がするぞ。お、恩に着る!!」


 

 (僕はなんにも出来てない気がするけど、あれかな? お化け屋敷の恐怖のドキドキでなにか掴むものでもあったのかな? なんにせよ彼氏役が成功したみたいで良かった)


 


 目的は達成出来たみたいだし、これで彼氏役もこれで終わりかな?




 これからどうしようかと悩んでいると、いい考えが思い浮かんだ。



 

 「せっかくだったらさ、みんなで遊ぼうよ! 人数が多い方がその分楽しめるよね? 宝塚さんどうかな?」


 

 「う、うん。私と伍くんは友達だからな! みんなで遊ぼうか!」


 

 「やった! 僕、宝塚さんと友達になれて嬉しいよ!」




 さっきちゃんと返事をもらってなかったから気になってたんだよね。

 友達になれて良かった。


 

 

 「ふーん、伍の”お友達”になれて良かったわねー、宝塚さん?」


 

 「あっくんの友達はあたしの友達ってことでいいんだよね!」


 

 「これからよろしくお願いします」



 「う、うむ……」


 

 

 それから僕たちは五人で遊んだ。



 

 (うーん、やっぱり友達と遊ぶのはやっぱり楽しいなぁ!!)



 

 こうして宝塚さんの彼氏役と遊園地デートは無事に終わりを告げたのだった。


 

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