第24話 遊園地デート(仮) ②
「ひゅー、どろどろどろ。そこのお熱いおふたりさん、お化け屋敷いかがっすかー? 涼しんでっていきません? それかドキドキしてもっと盛り上がるかもしれないっすよー。うらめしやー」
声がした方を向くと頭に三角の布をつけて白装束を着た、調子の良いお兄さんがいた。
「ひぃ」
「なんか楽しそう! 鈴ちゃん、次はお化け屋敷なんてどうかな? って鈴ちゃん!?!?!」
鈴ちゃんが立ったまま白目で固まっていた。
こんな顔見たことないんだけど……!?
少しして意識が戻ってきた鈴ちゃんが下を向きながらボソボソと返事をした。
「あ、伍くん。だ、だだ、だいじょうぶだ。……問題ない」
「いやいや、問題ある顔してたって!!」
「お姉さん、おばけ役の俺が言うのもなんすけど顔面蒼白っすよ……」
お兄さんまで心配する始末だった。
「そそそそ、そんなことはない! い、行くぞ!」
「と言いながら僕の後ろに隠れてるのは、なんで?」
「うう、う」
鈴ちゃんは目をつむりながら僕の影に隠れて服の裾をぎゅっと掴んでいた。
プルプルと震えているのが伝わってくる。
(いつもは凛として堂々としているのに、怖がってる姿が不謹慎だけどかわいい!!)
「えっと、嫌だったら行かなくていいんだよ?」
「伍くん、それは煽っているということだな? いいだろう受けてたとう!」
「いや、ほんとに心配しただけなんだけどな……」
心配で声をかけたのにむしろ、逆効果だったみたいだ。
「はっはっは。い、いざ出陣じゃー!」
(鈴ちゃんがおかしくなってる!?!?!?)
「あ、ありがとうございまーす。2名様ご案内でーす。」
僕は鈴ちゃんに後ろから押されながら、お化け屋敷に入っていった。
○ ●
「へー、これがお化け屋敷か。なんか古い病院みたいだね。壁のひび割れや、辺りに散らばった石だったり、大道具さんや小道具さんの頑張りが見れて楽しいね! え、これ発泡スチロールじゃなくて本物の
僕は初めてのお化け屋敷を楽しんでいた。
廃病院を模したつくりの中に職人さんたちのこだわりが詰まっているのがわかって、見ていて飽きなかった。
舞台やドラマ、映画の撮影で大道具や小道具作るのを手伝っていたこともあったからこういうのを見るのが僕は好きだ。
「雰囲気を出すための照明の明るさや色だったり、配置も絶妙だね」
一方、鈴ちゃんは相変わらず僕を
「うぅ……」
「鈴ちゃん大丈夫? やっぱり引き返す? リタイヤもできるよ?」
「……(ふるふる)」
僕はリタイヤする出口を指さすが鈴ちゃんは首を振る。
しかし、それが恐怖からくるものなのか、否定の意味なのか判別するのが難しいくらい震えて怯えていた。
(どうしてこんなに
「うーらーめーしやー!!」
「きゃーーーーー!!!」
進んでいると白装束を着た女性が出てきた。
後ろにいる鈴ちゃんが叫ぶ。
「なるほど、この壁に入れるようになっててここから出てきたんですね。メイクも白く塗って、黒のアイシャドーで目がわからなくなるまで塗りつぶしてるのか。ヘアアレンジも逆毛を立ててボサボサを演出してて、衣装にも汚れ加工をしてる……。うん、よく出来てる! ハロウィーンメイクはしたことあるけどでもこれは特殊メイクに近いのかな? うーん、暗いから見えずらいな……すみません、もうちょっと近くで見ていいですか?」
「あ……えっと。そ、そんなに見ないでください!」
女性は顔を赤くして足早に戻っていった。
「あーあ、行っちゃった。もっと見たかったのに」
「あ、伍くん。君はあのおばけが怖くないのか……?」
「怖くないよ。これっておばけの展示会場でしょ? よく出来てるなーと思って見て回るんだよね?」
「ち、違う! そんな美術館みたいな楽しみ方をする場所ではない!」
鈴ちゃんのここ一番の大きな声を聞いた。
信じられないものを見たという顔をしている。
「じゃあ、どういう楽しみ方をするの?」
「ここは怖がりながら進むところなのだ!」
「え、どうしてそんなことをするの?」
「わ、私も知らん!」
鈴ちゃんは膨れっ面になって、ぷいっとよそを向いた。
(いじっぱりになっちゃってかわいいなぁ)
「そうだ。さっき君は怖くないのかって言ってたけど、鈴ちゃんは怖いってこと?」
「わ、私だって怖くなんかない。伍くんのことを心配しただけだ……」
「出て行けーーー!!」
「うぎゃーーーーーー!!」
会話をしているとまた別のおばけが来た。
鈴ちゃん飛び上がってるんだけど、この反応かなり怖がってるよね?
「次はさっきと違うスタイルのおばけだ。よく見てもいいですか?」
「あ、この人がさっき連絡あった人か……すみません……また次の人驚かすためにスタンバイするんで……」
「えぇ、また行っちゃったよ……。鈴ちゃん、怖かったら僕に掴まってていいからね?」
「……(コクコク)」
僕の問いかけに鈴ちゃんは無言で頷いた。
こんな感じで僕は楽しみながら、鈴ちゃんは怖がりながら進んでいった。
○ ●
「お疲れ様っしたー。どうでしたかー?」
「僕は楽しかったんですけど……」
時間を掛けながらもなんとか出口についた僕らを待っていたのはさっきのお兄さんだった。
「あー、彼女さんだいぶブルちゃってますね」
「そうなんですよ。最後に長い黒髪の女性が、くっつくな……離れろ……離れろって追っかけて来たのがよっぽど怖かったみたいです。あれは僕もちょっと怖かったなぁ」
最後のあたりでこれまでとは違って髪をボサボサにしていない、手入れが行き届いた長い黒髪の女性が遠くから追いかけて来た。
それが妙に迫力があって僕も少し怖かったから鈴ちゃんの手を引いて走って逃げてきたのだ。
「え、なんすかそれ。最後にそんなおばけ役はいないっすけどね……」
「え」
「え」
なんとも言えない空気が漂う。
まさかあれって……。
「あ……あ、あれは本物だったと言うのか!? はぅ、こ、腰が……」
「鈴ちゃん大丈夫!?」
鈴ちゃんは腰を抜かしてへたりこんでしまった。
よっぽど怖かったんだと思う。
「ごめん、ちょっと失礼するね」
僕は一声かけて、鈴ちゃんの背中の下と膝裏に手を入れて抱き抱える。
「なななな、なにをしてるんだ!! 私は背が高いし、重いんだぞ!!」
僕は鈴ちゃんをお姫様抱っこした。
「出口で座ってるよりベンチで休んだ方が良いかと思って。それに鈴ちゃんは重くないよ、落とさずに運ぶから安心して? こう見えて僕は鍛えてるんだよ? 女の子ひとりくらいワケないさ」
「わわわわ、私がお姫様抱っこ、されるなんててて……はわわわわ」
(まだ動揺しているのかな、さっきまで顔面蒼白だった顔がかなり赤くなってるし体もほんのり熱い)
「僕に触られて嫌だよね? ごめんね、もう少しの辛抱だから……」
「そ、そんなことは……。きゃう……」
鈴ちゃんは気を使って否定してくれようと顔をあげてこっちを見たけど、すぐに俯いて黙ってしまった。
(僕に抱っこされるなんて嫌だよね……、ほんとに申し訳ないけどこの状況だと仕方ない)
いまの僕は鈴ちゃんの彼氏役だ、もし彼氏だったらそうするんじゃないかと思って行動をした。
そして、お姫様抱っこをしながら歩いていると周囲の人からの視線が刺さる。
気にならないかというとそうでもないけど、今は彼女のことを優先すべきだ。
観衆に見られながらも僕は鈴ちゃんをベンチまで運んだ。
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