裏方でサポートしてた芸能一家を追放された僕は、普通の青春を謳歌したい。〜なぜかアイドルや俳優、モデルが推しかけてきて困ってるのに、隣の席の氷の女王が人気Vtuberなのを僕だけが知ってる件について〜
第18話 【明日花side】 あなたのためが私のため ②
第18話 【明日花side】 あなたのためが私のため ②
私たちはスタジオに到着した。
そして仕事の内容を伍に告げる。
すると伍は、メンバーにメイクをする前に現場の人たち挨拶をするのだと言う。
交流をするのは現場の雰囲気も良くするし、良いことだと思っていたけど伍の目的はそれだけじゃなかった。
伍は各部門への挨拶後、そのまま仕事の内容について踏み込んだ質問をし、専門用語や知識が飛び交う中、その道のプロフェッショナル達と当然のように会話を繰り広げていた。
その様子を見ていた私は、これからのことを想像して胸がワクワクしていた。
(面白いことになりそうね!)
◯ ●
現場の人たちへの挨拶を終えた私たちは、次にメンバーとの顔合わせのために楽屋に来ていた。
私のせいでメンバーが着替え中だったのにも関わらず、楽屋の扉を開けてしまうというハプニングがあった。
メンバーの下着姿を見て、赤面していた伍に私はなんだか腹が立ってしまった。
(わ、私だって見てもらったことまだないのに……。ま、まだって、なにを考えてるの私!?)
その後、誤解は解けたものの伍とメンバーのファーストコンタクトはあまり良いとは言えなかった。
そして、誤解が解けたのも束の間、
「というかこの男だれなん? まさか、明日花のこれ?」
錫火が親指を立てて、にやにやと笑いながら私に尋ねる。
なんかおじさん臭いのよね錫火って。
それにしても小指が彼女って意味でしょ?
親指だと、たしか彼氏だったような……。
か、彼氏!!?!
「ばっ! な、なに言ってんのよ! ち、ちちち違うわよ」
何を聞いてきたのかに気づいた私は、急に顔が熱くなり思わずみんなから顔を背けた。
「え、うそやん。その反応マジ?」
「あんな明日花ちゃん、初めて見るし」
「親指ってどういうことっすか? この人が明日花さんの親ってことすか?」
「まだ知らなくて良いのよ梢枝ちゃん。にしても、へぇ………この子が」
「おい! お前どういうことだ! 名を名乗れ!」
やってしまった、ますます楽屋の空気がおかしな方向にいってしまう。
「久遠ちゃん、明日花のこと大好きなん分かるけどちょいまち。今の明日花は使いもんにならなさそうやから、あんたの口から説明してくれるか?」
錫火が久遠を抑えながら伍に尋ねた。
「は、はい! 僕は明日花さんの紹介で皆さんにメイクに来ました逆瀬川伍です! 皆さん今日は1日よろしくお願いします!」
そこで初めて伍がみんなに向かって自己紹介をした。
「明日花さん、今回の新曲『君の瞳の1inch』は明日花さんが作詞した、みんなにとっても大事な曲です。そのPVが大切なのは分かっていますよね? こんな男に任せて良いんですか!?」
久遠に質問されて私は我に返る。
「久遠、それは私が一番良く分かっているわ。だからこその伍なのよ。伍の腕は本物だからみんな安心して」
私情が全くないかと言われるとそうではないけど、私は仕事で妥協はしたくない。
それに伍がこの仕事に参加したことをコネのように思われたくはない。
ここに彼がいるのは彼の実力なのだとみんなに分かってもらいたかった。
「明日花がここまで言う男、面白そうやん」
「ふーん、お手並み拝見といこうじゃないの」
「どんなテクニックでわたくしを悦ばせてくれるんでしょうか」
「楽しみっす!」
「よろー」
「私は認めんぞ! こんな男!」
歓迎ムードとはいかないけれど、伍は少しも臆していなかった。
「伍、じゃあお願いするわね」
「はい!」
ひとこと声をかけると、伍の目が真剣になった。
かっこいい。
そう思って私はドキッとする。
そして、こうなった彼が頼もしいということを私は知っている。
頑張れ、伍。
◯ ●
「「「 お疲れ様でした」」」
たった今、PV撮影の全行程が終了した。
メンバーだけでなく現場のスタッフみんなが伍について話していた。
伍が褒められてると私までなんだか嬉しくなる。
そして、伍がどこにも所属していないと知った途端、スタッフさんは自分のもとにくるようにと伍を取り囲んでいた。
伍は自分がどうしてこんなにも誘われているのかわかっていないみたいだった。
(あなたはあなたが思ってる以上にすごいんだよ? みんな伍を欲しがってるけどあげないんだから、なぜなら……)
「なんですこの騒ぎは」
社長の星影さんが現場を訪れた。
現場の空気が少し張り詰めるけど私は社長が来ることを知っていた。
何を隠そう、私が現場にお呼びしていたからだ。
○ ●
「あなた、この事務所で働くつもりはない? アスタリスクのサポートとして」
撮影を終えた映像を見た社長は、伍にそう提案した。
「しゃ、社長!?」
私以外のメンバー全員と伍が驚く。
事前に社長に話を通して、伍にその実力があればサポートとしてついても良いと言って貰っていたんだけど、どうやら社長のお眼鏡にかなったみたいだった。
「私は伍がいてくれたらアスタリスクはもっと上に行けると思うの、どうかな?」
みんな伍のことを欲しがっていたけど、そうはいかない。
なぜなら……私と一緒に働くんだから!
でも伍が出した答えは、私が想像していたものではなかった。
「明日花さん、星影社長。ありがたいのですがそのお話、お断りさせてください」
「あ、伍!? どうして!?」
「今は芸能界から少し離れて普通の生活をしてみたいんです。それに僕じゃ実力不足ですよ」
これまで七人の姉妹のサポートをしてきて、四六時中働き詰めだった伍の願望はもっともだなと思った。
「あら、明日花。振られましたね」
「うぅ、こんなにしたのにまだ伍の思い込みは解けなかったか……」
それに、伍は本気で自分に実力がないと言っているのが分かる。
これまで家族から虐げられ続けた伍は自己評価が相当に低い。
(実力だったら十分あるのに……! 伍はいつも自己評価が低すぎるよ。そこが伍のいいところではあるんだけど……)
一緒に働くのは無理だとしても、今日で少しでも自信がついてくれたらと思っていた。
けれどどうやらまだ無理だったみたいね。
「あ、伍……私は諦めないわよ!」
伍が普通の生活したいというのなら、私がその”普通”の中に入ってやるんだから!!
◯ ●
(伍、驚いてくれるかしら?)
私はこれから起こるであろう事態に胸を高鳴らせていた。
「失礼します」
教室のドアを開けて中に入る。
入ってすぐにしたことは伍を見つけることだった。
(あ、いたいた。ふふ、驚いてる驚いてる。驚いた伍もかわいー)
クラスが騒いでいるけどそれは想定済みだったので、私は気にせず自己紹介をする。
「初めまして、夢越学園から私の都合で転校してきました。芦屋明日花です。皆さんよろしくお願いします」
挨拶をしながらも私は伍をじっと見つめる。
これから長い間、伍を見ることが出来るって分かってるけどこの1分1秒も伍から目を離したくなかった。
「はい、静かにー、みんな仲良くしてやってくれよ。芦屋の席は逆瀬川の隣が空いているな。あそこに座ってもらおうか」
やった! 伍の隣だなんて最高じゃない!
「へへ、来ちゃった」
驚いている伍を見れた私は、思わずイタズラが成功したこどものように舌をだしてしまう。
「来ちゃったじゃないですよ!!」
(ふふ、赤くなってる伍もかわいいなぁ)
「いいじゃない。伍と一緒の学校に通いたかったの……。今度は逃がさないんだからね?」
伍の隣の席に座り、今の素直な気持ちと自分自身の決意を伝えた。
「それと、姫路さん。今後ともよろしくね?」
伍やクラスメイトがいるから笑顔は崩さない。
しかし、あの子に圧をかける。
こういうのは初手が肝心だ。
ここでの対応によってどっちが上かというのを決めることになる。
少しだけどあなたの事情は伍から聞かせてもらったわ。
初対面の人に挨拶されたら顔を背けて何も言えないはず!
ふふん、そうなるようじゃ伍の隣にいるのは相応しくないわよ!!??
「はい、よろしくお願いします」
予想に反して姫路さんは私の目を真っ直ぐと見て、言葉を返してきた。
ん! この子、伍以外とは上手く話せないんじゃないの!?
まさか! 伍のことになると普通に話せるっていうの!?
「ふふ」
「ふふ」
「「ふふふふふ」」
面白いじゃない!
これから色んな意味で楽しい学校生活になりそうね!
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【あとがき】
ここまでお読みいただきありがとうございます!
次話からはアルバイト編を挟んで俳優編に突入します!
「明日花かわいい!」
「続きが気になる!」
と少しでも思ってくださった方は作品をフォローや、下の+⭐︎⭐︎⭐︎から作品を評価、レビューでの応援をいただけると非常に嬉しいです。
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