裏方でサポートしてた芸能一家を追放された僕は、普通の青春を謳歌したい。〜なぜかアイドルや俳優、モデルが推しかけてきて困ってるのに、隣の席の氷の女王が人気Vtuberなのを僕だけが知ってる件について〜
第17話 【明日花side】 あなたのためが私のため ①
第17話 【明日花side】 あなたのためが私のため ①
「お母さん、伍をどうにかして助けてあげられないかな?」
「そうね、でも学園として出来ることはもうありませんからね……」
夢越学園の理事長室。
伍が退学の手続きをし、退室した後のことだった。
「ふぅ、どうしたらいいのかしら」
私は頭を悩ませていた。
家族に追い出されて失意のどん底に沈んでいるであろう伍を救ってあげたかった。
あの日、自分が救われたように。
「学園として出来ることは終わりましたが、アスタリスクのセンターである
アスタリスクの私として出来ること?
「いったい、それはどういうこと?」
「そうね……伍くんに仕事を依頼するのなんてどうかしら?」
それは私だからこそ出来ることだった。
(そうか、天ヶ咲事務所から解放された今なら伍を仕事に誘うことができる!)
「それいいわね! 明後日、PV撮影も控えてるしちょうどいいわ! 誘ってみる!」
お母さんと伍が話していたのを横で聞いていたからどこに転校したかを知っている。
私は明後日、伍の通う学校に向かうことにした。
(待ってなさい伍、驚かせてあげるんだから!!)
○ ●
「明日花ちゃん、サインください!」
「しゃ、写真撮ってください!」
「ごめんなさい、そうゆうの事務所NGなんだ。良かったらライブやファンミーティングに来てちょうだい。みんな待ってるからね!」
どう断れば雰囲気を壊さずに場を収められるというのを私は知っている。
自分を客観的に見て、どう行動すれば良いかというのが長い芸能生活で培われてきたのだった。
(アイドルをするには必要な能力だけど、こんな自分がたまに嫌になるのよね)
そう考えていたとき、私は目当ての人を見つけた。
「あ、伍! やっと見つけたわよ!」
「え、僕!?」
やっちゃった、思わず声を掛けちゃった。
伍のこととなると私はアイドルの芦屋明日花じゃなく、素の自分が出てしまう。
「あれって確か……」
「昨日、転校してきたやつだよな」
「うん、氷の女王様と話した初めての人だよね?」
「てか氷の女王と一緒に帰ろうとしてね?」
「それなのに明日花ちゃんとも知り合いなの?」
「え、どういうこと?!」
注目を集めてしまって伍が恥ずかしそうにしている。
ごめんね、でも恥ずかしがってるところもいじらしくてかわいい!
というか、伍の隣にいる美人はダレ!?
氷の女王って? 一緒に帰る? どういうことなの!?
私が目を離した隙になんてこと……。
伍を驚かせるつもりが逆に驚かされてしまったわ……。
私はいてもたってもいられなくて、二人を引き離すように伍の手を取ってしまった。
「伍、付き合って!」
隣に居た女の子に聞こえるような大きな声でそう告げる。
(勘違いされる伝え方って分かってるけど、仕方ないよね)
「え! えぇ! 明日花さん?!」
「いいから車乗って! みんなごめんね、通るよ!」
「ちょ、ちょっと、え……え!? ごめん、姫路さん。また明日!!」
(ふぅん、また、明日ね……。伍からそう言われて羨ましいな……)
車に乗る前に、伍の隣にいた女の子がチラッと見えた。
女の子は頬を膨らませていて、薄目でこちらを睨んでいた。
私はその姿を見て、してやったりと心の中でほくそ笑んでしまった。
それと同時に私ってこんな女の子だったのかなと、新たな自分の発見に驚いている自分がいた。
○ ●
「出して、市川」
「かしこまりました」
私は運転手に一声掛かける。
「ちょっと、ちょっと。明日花さん! 付き合ってってどうゆうこと?!」
(ふふ、焦ってる焦ってる。ほんと可愛いんだから)
「これからPV撮影があるの、それに付き合いなさい。それに私のことは明日花で良いっていつも言ってるのに!」
一旦、誤解を解くために私は今後の予定を伝えた。
そして、いつものようにさん付けで名前で呼んでくる伍に呼び捨てにするように言う。
「えっと、どうして僕が? というか裏方の僕が呼び捨てなんて出来ないよ……」
「私は呼び捨てでも気にしないんだけどな……」
これでも頑張って進展した方なのだ、前は苗字にさんづけだったから……。
いつかは名前を呼び捨てで名前を呼んでもらえるようになるのが私の小さな目標だ。
「まぁ、そのことは一旦置いておくわ。どうして伍を誘ったかよね? それは伍、あなたのためよ!」
「僕のため?」
それから私は伍をどうして仕事の現場に誘ったのか理由を説明した。
伍は謙遜していたけど、現場でその働きぶりを何度か目にしたことが私には確信を持ってこのレベルの人材はいないといえる。
それに裏方以外にも、伍はかわいい顔をしてるんだから表舞台に立っても良いと思っているくらいだ。
前髪で顔を隠しているから周りには気づかれていないけど。
私だけが伍の良さを知ってるようで嬉しい、でももっとみんなに伍のすごさを知って欲しいと思っている自分もいる。
独占したいけど、広まって欲しいだなんて……私を推しているファンの皆もこんな感情なのかな?
うーん、これは悩ましいわね。
◯ ●
伍が仕事を受けてくれると決まり、話も一段落した頃。
私はあることを切り出した。
「というか伍、隣にいた背の高い超絶美人は……ダレ?」
そう、あの時からずっと気になっていたのだ。
「えっと、学校の友達だよ。そう、友達!」
「友達、ねぇ……? 昨日の今日であんな美人とお友達になるなんて、ねぇ……?」
怪しい、焦ってるところなんかますます怪しい。
私は恋人じゃないから伍がどんな女の子と知り合っていたとしても良いはずなのに、なんかもやもやする。
「あの……それはというとね……」
じとーっと伍の顔を見ていると、伍は聞いてもいないことをどんどんと話してくれた。
「ふぅん、なるほどね……」
話しを聞き終えた私が思ったことは、その子は私の敵になるかもしれないということだった。
だって不良に絡まれてるところを救われて、美味しそうにご飯を食べる伍を拝んで、メイクして自分を変えてもらって、また絡んできた不良を更生させちゃうなんて……。
「なによそれ、そんなの絶対に好きになるに決まってるじゃない。伍は気付いてないけど周りには強敵ばかりだっていうのに……あんな子まで増えたら私……」
「明日花さん、どうしたの?」
いけない、私としたことが考えてることが口に出ちゃってたみたい。
伍は何か考え事をしていたみたいで聞こえなかったみたい、良かった……。
でも、私の前で私以外のこと考えてるの!?
絶対にあの女の子のこと考えてたんだ、そんなの許せない!
「ううん! 別に、なんでもない! それにしても私の前で他の女の子のこと考えてたでしょ?」
「え! そ、それは……」
図星のようね。
「ふぅん、良い度胸してるじゃない。これから私のことしか考えられないようにしてあげるんだから、覚悟しなさいよ?」
今日はアイドルとして頑張る私を、伍の目にしっかりと焼き付けてもらうんだから!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます